9.裁判を目前に控え……
5月29日。2時前、管理会社から電話。
先日、管理会社に了解をとらず、大家に直接、電話したことに対する苦情だった。
「私たちが代理で契約しているんで、管理会社を通さないで連絡するのはやめていただけますか」
「そうなんですか」
「この契約はすべて、私どもに一任しているんですよ。話してみて分かったと思うんですけど、大家さんはまったく把握していないんですよ」
「私は大家さんにも、分かって戴きたいんですけどねえ」
先日、大家にした説明は骨折り損だった。大家が少しでも自分で調べれば、敷金や原状回復の本来の定義が分かる筈だった。だが、大家はそれをせず、休み明けの朝一番、管理会社に電話した。そして、管理会社はこの場に及んで、まだ、裁判ではなく話し合いの解決を、持ち出してきた。
「私は無茶苦茶な要求(全額返還)は、していないと思うんですけどねえ」
「無茶苦茶ですよ〜。こっちは歩み寄っているのに(18万円から14万円に修繕費値下げ)、あなたは歩み寄らずにずっとその場から、動かないって言っているんですから」
今度は、裁判を避けるのは諦めたのか、大家ではなく管理会社を訴えるように迫られる。
「大家さんは、この契約について把握していませんし、裁判には来ません。ですから、大家さんではなく管理会社を訴えて下さい」
「私も最初は管理会社を訴えるつもりだったんですよ。でも、敷金は大家さんのものだから、大家さんを訴えてくれと言われたんですけどねえ」
「私も裁判所に電話したんですよ。担当の人も、被告を代えるのはあなたじゃないとできないから、話し合って決めてくれって言ってましたよ」
情報の操作。管理会社は自分に都合のいいことしか言わない。被告を訴え直すのは原告じゃないとできない。それは事実だ。
だが裁判所は、大家と管理会社のどちらでも訴えることができると言った。管理会社が大家の代理人として出廷するには、裁判所の許可が必要だ。話が長いので、裁判所と相談して決めますと言ってなんとか電話を切った。
原告が被告に訴状、呼び出し状などを送る中に、答弁書催告状も入っている。その名のとおり答弁書を催告するものだ。答弁書とは被告の主張を書面にて裁判前に原告に知らせるものだが、裁判を4日後に控えたにもかかわらず、手元には届いていなかった。少額訴訟に限ってのことかは分からないが、被告が答弁書を提出しないこともある。
裁判所に電話する。
「先方はやはり、本人が来ないで代理人をたてるのですか?」
「ええ。契約のことは大家さんも把握していないみていですし」
「で、裁判所はそれを許可したのですね?」
「はい」
大家は来なかった。すべてを管理会社に任せっきりにした。甘いもくろみは外れた。相手は素人の大家ではなく、裁判慣れした管理会社。
見えない相手の主張。どう、話を展開するのか。不安は募った。