番外編.裁判所というところ
6月9日の公判日当日。10時前に霞ヶ関駅に着いた。審理は1時半からだったが、雰囲気に慣れるために、
早めの裁判所入り。二度目だが迷う。無機質な高い建物が並ぶ。高裁、地裁、家裁、簡裁と集中して配置されている。
東京簡裁は、3階と4階に民事法廷がある。それぞれ8室ずつぐらい。各法廷の前には時間ごとに事件が、20〜30件表記してある。民事訴訟の場合、その殆どが金銭関係だ。原告は、消費者金融(貸金請求)、
カード会社(料金請求)、電話会社(通話料請求)などが殆どを占める。
そのような訴訟は、大抵の場合、原告の会社のみが出席し、被告は法廷には現れない。欠席裁判。裁判官が支払い判決を言い渡し、即、終審。料金を支払わなかったり、貸金を返さない悪質な消費者を相手にするなら裁判は有効な手段なのだろう。金を貸した企業は、裁判を起こせば、支払い判決が出て、金の回収が容易になる。被告が判決に従わなければ、差し押さえなどに踏み切れる。訴訟費用も、おそらく被告負担になるのだろう。
丁度その時間、敷金返還の少額訴訟があったので傍聴する。被告の大家と思われる男は横柄な態度で言った。
「このご時世、退室時に、リフォームしないことには、次の借り手が見つからないんだよ」
大人しそうな裁判官は言う。「なるほど。すると被告は、あくまで(おそらく退室時に借主が自己負担でリフォームするべき)特約の有効性を主張するわけですね」被告はふんぞり返ったまま「ええ」と答える。
(借地法では、借主に一方的に不利な特約は無効とされている)
原告は若い男。和解に応じるつもりはあり、仙台から来たという。
(契約書には、普通、契約に関する紛争は貸主の住所の裁判所で行うことと書いてあるが、それは無効。借主の住所の裁判所で行うことができる。もちろん、借主は引っ越し先の裁判所での訴訟が起こせる)
裁判官「和解に応じる意志はあるとのことですが、原告は実際に見積もり等の計算はしましたか?」
(原告に、過失による損傷があったのだろうか?)
原告「いえ」
裁判官「退室時の部屋の状況を証明するものはありますか? 例えば写真とか」
原告「写真は撮っていませんが……」
裁判官「陳述書などは?」
原告「ありません」
裁判官は「では、修繕費の計算と、部屋の状況を証明してくれる人に
陳述書を書いてもらうなどしてください」
結局、少額訴訟だったはずだが、1日では終わらず、二回目の弁論日の日程を原告と被告とで調整した。
その後、3階と4階を行ったり来たりして訴訟のスケジュールをチェックする。と、その時、ある法廷から
怒鳴り声が聞こえた。思わずその法廷に入る。怒鳴り声の主は裁判官だった。金融会社の貸金請求の裁判。
金融会社は若い男が原告で来ており、被告は冴えないおじさんが出廷していた。
裁判官「返すつもりはあるんですか!」
被告「返そうとは思っているんですけどねえ。いろいろありまして……」
裁判官「思っているだけじゃ駄目なんですよ! 返そうという意志がないと、いつまでたっても返せませんよ!」
訴えられて裁判所に出廷しながら、自覚のない被告。裁判官は計算機を叩きながら判決を言い渡す。
「被告は●●銀行の普通口座●●に毎月3日まで、●万円、平成●年●月まで支払うこと」そこで被告が、
「毎月3日って言うけど、3日が土曜だったら、5日でもいいんでしょ」と聞く。
原告の若い男も、「はい」などと答える。被告、原告双方とも無知。裁判官は笑いながら怒った。
「あのねえ。3日って言ったら、3日までに払わないといけないの! 例えば3日が日曜日だったら、金曜の1日までに払うんですよ! 銀行が休業日だからと言って、3日までに払わなくて、強制執行されても、文句は言えないんですよ!」
その後、昼飯を地下1階の食堂で食べ、時間まで、書類を再度見直したりした。管理会社のYとは面識がない。原告、被告の待ち合い室。この中にYがいるのか……。どんなカードを出してくるのか。裁判官は、何を聞いてくるのか。原告としては、何を主張していけばいいのか。不安は尽きない。
終わってみてから思ったのだが、裁判が始まってからより、この待ち時間のほうが、嫌だった。