出産編…当日のことを思い出して書いてます。長いけどおつきあいください。
<フーちゃん 誕生>
いよいよ臨戦体制になりつつ分娩室。
助産婦さんはベテランで元祖・日本の母 みたいな優しい雰囲気のYさん。
それから 大柄でどーんと構えている頼もしいAさん。
小西真奈美似の 知的でちゃきちゃきした Dさん。
この3人がお産をサポートしてくれる。
長期入院のおかげで、皆さんとはすっかり顔なじみ。
口々に 「いよいよだね」 「がんばってね」 「もうすぐだからね」 と励ましてくれる。
ぜんぜん知らない人cに囲まれてお産するより だんぜん心強い。
それを思えば、長い入院も悪くなかったなあ。
なんて思いつつ、お腹につけられたモニターを見ると、
お腹の張りごとに記される大きな波線が いくつもいくついも描かれていた。
麻酔が効いてるからあまり感じないけど、
麻酔がなければ ほんとに 陣痛に襲われっぱなしの状態だろう。
ほんとに いよいよだ。
あわてて Yさんにいきみ方を聞いた。
「お尻の穴に力を入れるようにね。 タイミングはこっちから声かけるから」
そしていよいよ いきむ 時がきた。
モニターが描く陣痛の波に合わせて いきむよう指示される。
でもよくわからない。
どうしよう。 えーい どうにでもなるか!?
半分やけくそで 思い切りいきんでみた。
結構疲れる。
麻酔が効きすぎているのか、お腹に力が入っているのかよくわからない。
またいきむ。
「おへそを見るようにしてみて。 そうそう、上手」
声をかけてくれるのを頼りに、一生懸命いきむ。
「目をつぶっちゃだめ。ハンドルの握り方、変えてみて。そう、力が入るでしょう」
Yさんの声に合わせて、いきんで いきんで
いきむごとに 体力が消耗していくのがわかった。
いきみといきみの間の度に U一郎がしきりに頭をなでてくれた。
「あと このぐらいのとこまで頭がきてるからね」
指の第2関節をさして Yさんが励ましてくれる。
先に出てくるのは フーちゃん。フーよ、がんばれ。
ぐーーーーっといきむと モニター装置から聞こえるフーの心音がだんだんゆっくりになる。
ああ、あなたも苦しいのね、と思うとあせってくる。
ところが、何度かいきんだ所で 少し様子がかわってきた。
スタッフの皆さんがバタバタしている。
何かまずいのかな。
この頃には 少しもうろうとしてきてしまっていた。
ふいに、院長先生が現れた。
私の状況は、何かそんなにヤバイんだろうか。
私には酸素マスクがつけられた。
切るのかな。 無事に生まれるならどうにでもしてください。
そして先生が取り出したのは カップのついた棒。
「赤ちゃんが出てきやすいように、ひっぱって手助けしますからね」
ああ、吸引というやつね。
フーが苦しくないよう 早く出してやってください。
それでも
頭の中は 「無酸素状態が長くて 脳に障害が…」 とか
「仮死状態で生まれて…」
とか悪いことばかり よぎる。
陣痛の波に合わせて ぐっといきむ。
先生も カップをフーの頭にくつけたらしく、 きゅーーーーっと引っ張る。
いきむ。引っ張る。
いきむ。引っ張る。
何度やっても出てこないんだろうか。
うまくいきめてないのかな。
フーちゃん、苦しいよね。
ごめんね ごめんね
頭の中は不安でパニックになりつつあった。
何度かいきんだ後、
「はい! ハッハッハッ って。 ハッハッハッ…」
この短息呼吸になると、もう赤ちゃんの頭が出てきてる状態。
ここまでくれば、後はいきまなくても フーの体が くるりと出てくるはず。
看護婦さんも先生もU一郎も みんなで一緒に 短い呼吸を繰りかえした。
そして とうとう!
うわっ、わ、これがフーちゃん!?
真っ黒な髪がふさふさした赤ちゃんだった。
股の間から ひょいっと取り上げられるとき、
「ふえええええっ」 と 控えめな産声をあげた。
「ああ、生きてる!」
フーちゃんを見た瞬間 涙が どーーーーーっとあふれてきてしまった。
助産婦さんが 私の胸の上に 大きな布を広げて、
その上に この世に出てきたばかりのフーちゃんを乗せてくれた。
ずしっと重たい。
これがフーちゃん。あなたがフーちゃんなんだね。
女の子だ。
手があって足があって、顔に目と鼻と口があって、髪がこんなにあって。
がんばったね。えらかったね。ありがとうね。
苦しいぐらいにフーちゃんの重みを感じながら 涙をこぼすばかりだった。
しばらくそうしていた後、フーちゃんは
体重を測ったり心音を聞いたりするために、私の胸元から離れていった。
相変わらずぼろぼろ涙を流しながらフーちゃんのことを見ていたら、
「まだ もう一人いるんだから、気をぬいちゃだめだよー」 と看護婦のAさんに笑われた。
そう、まだクーちゃんが待ってるんだ。
感激の境地から また現実に戻ってこなくちゃ。
フーちゃんが大丈夫だったんだから クーちゃんだってきっと大丈夫!
<クーちゃん 誕生>
ふと動かした右手が、今までフーちゃんのいた右側のお腹に触れた。
10ヶ月間中にいた赤ちゃんがいなくなったお腹は、
「これが私の腹か!?」 と思うぐらいぶよぶよしていた。
お腹から一人、出てきたんだもんね。
ああ、クーちゃんも早く出してあげなくちゃ。
気持ちのスイッチが切り替わった。
とはいえ、二人目の陣痛が始まるまで またここで待つのかな?
どうするんだろう??
一人目と二人目の生まれる時間が開きすぎるとマズイらしいけど…
どうすんのかな。 どうなるのかな。
これからの展開が想像もできずに、あれこれ考えていると
Yさんが声をかけてくれた。
「はい、いきんで」
え? もういいんですかい!?!?
助産婦さんがいきんでいいというからには、そうしていい状況なんでしょう。
いわれるがままに、またいきみを始めた。。
フーちゃんが出てくるのに力を使ってしまったようで、うまく力が入らない感じ。
んーーーーーっ。
んーーーーーーーっ。
いきむのと同時に、大柄の看護婦Aさんが、ぐーーっとお腹を押して、
クーが出てくるのを助けてくれる。
んーーーーーーーーーーっ。
力いっぱいいきむと、モニターから聞こえてくるクーちゃんの心音がゆっくりになる。
長くお腹の中で待ってる クーちゃんの方が、体にかかる負担が大きいらしい。
でも フーが出てきて産道はもう広がっているから、すんなり出てきてもいいはず。
それなのに、なかなか出てこられないんじゃ苦しいね。
早く出して、楽にしてあげたい。
あとちょっと。 あとちょっとだけがんばって。
クーの心音が下がるたびに不安でパニックになりそうになりながら
私は 全身の力をこめて いきむしかなかった。
院長先生は、フーちゃんのときと同じようにカップで引っ張ってくれた。
なかなか出てこない。まだ生まれない。どうしよう。
いきんでも体に力が入っているのかどうかわからなくなってきた頃、
「はい、はっはっはっは…」
短い呼吸にきりかえるよう 指示があった。
もうすぐ会えるとは思っても、フーちゃんのときより、
いきんでから生まれるまでの時間が長かった気がする。
心音が下がってしまった時間も長かった気がする。
大丈夫かな。大丈夫かな。
短息呼吸を繰り返しながら、不安がぐるぐる渦を巻いた。
そして。
ぴょーんといきなり現れたように見えたフーちゃんに比べて、
クーちゃんは 股の間からゆっくりと抱き上げられるようにして、姿を現した。
フーちゃんより長くお腹の中にいたせいか、体全体が白っぽい。
まだ産声をあげない。
大丈夫なのか不安だったけれど、
Yさんはフーのときと同じように、胸の上にクーを乗せてくれた。
やっぱりずしりと重い。
クーも女の子だった。
Yさんが言った。 「背中をたたいてあげてね」
まだ産声らしい産声をあげていないフーには、こうしている間にも
鼻や口にチューブが入れられて 中の羊水が吸い取られている。
早く産声をあげてくれるよう、私も夢中で (でも痛くないよう) 背中をたたく。
赤ちゃんは産声をあげて初めて肺が開くって、本で読んだ。
泣かないってことは、まだ息ができてないんだ。
なんだか ぐったりしているようにも見えるし。
どーしよう。どーしよう。
出産の感激より、クーちゃんの状態が心配でまだ涙も出ない。
少しの間 私の胸の上にいた後、すぐにクーは 別の台の上に移された。
相変わらず管を入れて中の羊水を吸い取ったり、体をぺちぺち叩かれたりして
いろいろ刺激を受けている。
「お子さん、大丈夫ですからね」
私もU一郎も、 よほど不安げな顔をして その様子を見ていたんだろう。
院長先生が声をかけてくれた。
先生がそういうからには大丈夫だろう、とは思っても、
産声が聞けないことには落ち着かない。クーの体も まだ青白いままだ。
「どうか どうか クーが無事でありますように」
祈るような思いで 看護婦さんたちの作業を見つめていた。
感激よりも 「ごめん。ごめん…」 と、心配と不安で涙が出そうだった。
そのとき、ふいに 「ひゅ、ひゅえええっ」 と クーが声をあげた。
あ、泣いた!
そのとたん、クーの体に赤みがさしていった。
一度声を上げてからは、フーよりも大きな声で泣き出した。
みるみる真っ赤になっていくクー。
赤ちゃんが赤ちゃんになるのを見た瞬間だった。
ああ、大丈夫だ。
そう思った、緊張の糸が切れて 涙がぶわーっとあふれた。
ああ、終わった。
ああ、生まれた。
ああ、二人とも生きてた。
ああ、よかった。 本当によかった。
五体満足なんてぜいたくは言わない。
とにかく 生きて生まれてきてくれた。
それだけで十分。
この後、自分がどうしていたのか あまり覚えていない。
でもこのとき、ぼーっとした頭で、ものすごくはっきりと感じたことがあった。
「ああ、戦争を起こすのは男だな…」
なぜだかわからないけれど、本当に強くそう思ったのだった。