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んに行われるようになってきている。従来の低体温療法は、臓器の酸素要求量を抑制すること によって低酸素や虚血によって発生する障害を軽減するものであり、その効果はけして満足で きるものではなかった。しかし、近年様々な動物実験等から、低酸素や虚血時の脳障害の発 生起序が明らかにされつつあり、そのメカニズムに対応した新たな治療法として、脳低温療法 が注目されつつある。 "脳障害の発生 最近の研究から、脳障害の発生は循環不全等による単純なエネルギー障害のみでなく、再 灌流成功後に発生するno reflow現象、遅発性脳低灌流、神経伝達物質(興奮性アミノ酸等) の放出、free radical反応などの様々な要因が複雑に関与していることが知られている。これに 伴い、細胞が壊死に陥る経過も@急性細胞壊死、A成熟死、B遅発性神経細胞壊死、C緩 徐進行性神経細胞壊死と、ある時間的経過をもって壊死に陥るいくつかのパターンが知られ ている。 "脳障害発生後の治療 脳循環を維持し脳細胞がエネルギー障害に陥ることを防ぐとともに、二次的に波及していく 様々な障害要因を軽減することが治療の目標となる。グリセオールやマンニトールによる脳浮 腫対策、降圧剤や昇圧剤による循環管理、抗痙攣薬や脳保護薬の使用といった薬物治療にく 加え、脳低温療法の効果が期待されている。 "脳低温療法の作用 脳低温療法の作用として、 @脳内熱貯留の防止 A脳内神経伝達物質放出の抑制 Bシナプス機能抑制による遅発性神経細胞死の防止 C脳内酸素消費量の低下による虚血に対する抵抗性増大 D脳内毛細血管圧低下による脳浮腫改善および頭蓋内圧の低下 E全身酸素消費量の低下(全身の臓器保護) Ffree radicalを抑制 などがあげられている。 "適応 高度な不可逆的な障害が無く、循環動態や呼吸状態が維持できる症例は適応になりうる。 重篤な心合併症があり、血圧等の循環動態が維持できない症例は適応外となる。 "方法 まず目標温度を設定する。32℃以下になると、神経伝達物質の放出やfree radicalの反応が 大幅に抑制されるため、脳保護の効果は高くなるものの、循環系に対する抑制が強くなる。従 って、心機能正常例に対しては、32〜33℃を目標とし、心機能障害を有する例に対しては、34 〜35℃程度を目標とすることが多い。 脳温の低下には、水冷式のブランケットを用いて全身の体温を低下させることによって脳温 をコントロールする。水冷式ブランケットで患者を背面と前面から挟むようにし、水温を20℃前 後にして冷却する。内頚静脈温(脳温の代用)、鼓膜温、膀胱温をモニターしながら、35℃まで は急速に冷却し、35℃前後で数時間ならし時間をおき、心機能の変動等に注意しつつ目標温 度まで冷却する。 "脳低温療法中の管理 一般的な循環管理、呼吸管理、頭蓋内圧管理(浮腫対策等)、感染対策等は、低温療法の 如何にかかわらず重要なものである。 脳低温療法(低体温)に特異的なものとして、@心機能抑制→設定温度の見直し・カテコラミ ン投与、A血小板減少→血小板輸血、B低カリウム血症→補正、Cシバリング→筋弛緩薬投 与、等の対策が必要となる。 "低温期間 脳障害の程度、全身的な状態や合併症の程度などによって、低温を維持する期間を決定す るが、おおむね2〜7日とする。 "復温 脳低温療法において最も注意を要する段階である。低温から正常温に戻る際に、生体の 様々な防御機構が再開され、頭蓋内圧の監視や、感染・DIC等に対する厳重な管理が要求さ れる。 復温は0.1℃/hr程度のゆっくりとした復温を維持するようにする。35℃にまで上昇したところ で、ならし期間を数日とり、生体の反応を監視し、自発呼吸に向けての呼吸管理などの準備を 整える。その後、ゆっくりと正常温まで戻すようにする。生体の反応がコントロールできない場 合(頭蓋内圧が過度に上昇したりする場合)は、再び冷却を開始し、低温療法を数日間継続す るようにする。 "効果 従来の治療法では考えられないような症例での、社会復帰等が報告されてきている。 "おわりに 脳低温療法は、今後救急医療の現場において重要な治療法の一つになっていくことは疑う 余地がない。しかし、その優れた脳保護作用の反面、心機能抑制をはじめとした重篤合併症 を引き起こす可能性がある治療法であり、従来以上の厳密な全身管理・脳管理が可能な状態 で、初めてその効果が期待できる治療であるという認識が必要である。
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