政治とカネの疑惑が次々飛び出した、2002年春の「スキャンダル国会」では、衆院本会議場の右奥隅の一角が注目を集めた。自民党を離党した鈴木宗男議員のほか、先日まで加藤紘一氏も座っていた無所属議員席である。「疑惑離党」組としては先輩格の藤波孝生、中村喜四郎両議員ら大物もここに座る。呉越同舟か、はたまた同床異夢か。加藤氏の辞職を国会が許可した日、この「無所属ゾーン」を見に行った。
2002年4月


 9日午後0時半。本会議場前は、加藤、鈴木、田中真紀子の3氏を待ちかまえる大勢の報道陣でごった返していた。赤じゅうたんの上を、春の異動で新たに国会担当になった記者や、応援に駆けつけた記者らが右往左往している。国会にもさながら「新学期」が訪れたようだ。

 一方、去る人もいる。29年間の議員生活にピリオドを打つ加藤氏だ。当然、この日の主役は、引責辞任する加藤氏と、その余波で進退問題が再燃するだろう鈴木議員であった。
 しかし、両氏はついに本会議場に現れなかった。加藤氏の議員辞職願は、冒頭のわずか3分間に全会一致で許可されるあっけなさだ。

 彼らが座るはずだった「無所属ゾーン」は、議長から向かって一番右側奥の片隅にある。メンバーは、リクルート事件ですでに有罪判決が確定し、執行猶予中の藤波議員。ゼネコン汚職事件で有罪判決を受け、最高裁に上告中の中村議員。その2人の真ん中が、加藤氏の席だった。

 前列には鈴木議員と、99年の都知事選で自民党の説得に屈せず出馬し、党を除名された柿沢弘治議員が座っている。柿沢議員を除けば、まさに「疑惑席」である。

 実は、衆院本会議場にはもうふたつ無所属席がある。「疑惑席」の手前最前列に一人で座る宇田川芳雄議員。宇田川議員は前回衆院選で自民党現職を破って当選、無所属のままでいる。
 そして、議場の左端にはもう一つの「無所属ゾーン」。メンバーは、川田悦子議員、「無所属の会」の粟屋敏信と三村申吾両議員、自由連合の徳田虎雄議員、千葉県知事選で党に背いて堂本暁子知事を応援し、民主党を除名された田中甲議員、そして今回の元秘書の口利き疑惑で民主党を離党した鹿野道彦議員の6人だ。

 鹿野、柿沢両議員を除くと、左ゾーンが「信念の無所属」組で、右ゾーンは「疑惑の無所属」組と呼べなくもない。あまりに露骨な席順ではないか。誰がこんな議席を決めたのか。

 衆院議事課によると、本会議場では議長から見て右から左へと会派人数の多い順に座るのが先例。現在の勢力地図から言うと、右から自民、民主、公明、自由、共産、社民、保守、無所属の順だ。例外的に自民党離党組が右側奥の一角を占めているのは、自民党の意向が議院運営委員会で承認された結果という。

 大まかな区分けの内部の席順は、各会派に任されているが、議長に近い前の席から後ろへと、当選回数の少ない順から座るのが慣例。さらに同じ列でも、議長から向かって右より左の方が当選回数が多いのが慣例という。なるほど、すべての席は序列で決まるのである。

 今回、加藤、鈴木両氏が「無所属」入りした結果、自民党エリアではまるで玉突きのような大規模な席替えが行われたのだった。




 この日の「無所属ゾーン」は、鈴木議員、加藤氏に加え、中村議員も欠席しており、わずかに藤波、柿沢両議員が出席するのみだった。“主役不在”の無所属席を撮影しようと、真上の記者席では身を乗り出したカメラマンが盛んにフラッシュをたく。

 4日の本会議には、鈴木議員が自席で眼鏡をかけ、ペンを片手に「正論」らしき雑誌を熱心に読んでいる姿があった。もしも「正論」であれば、最新号のトップ記事は外務省官僚の覆面座談会を含む「鈴木宗男特集」。熱心にペンを持つ姿にも、すごみが増して見えるというものだ。
 9日の欠席はやはり、加藤氏辞任の余波で自身にも「引責辞任論」が降りかかることを避けたためだろうか。

 野党席の机上には、加藤氏辞職の記事コピーが目立った。が、自民党席にはこの種のコピーが一切ない。真紀子議員の疑惑を週刊誌が報じた4日には、自民党議員の席にも結構、週刊誌の記事コピーがあったものだ。かなり対照的である。

 柿沢議員が隣の坂本剛二議員(自民)と雑談している。後で聞いたところによると、「鈴木先生や加藤先生が無所属席に来てから、マスコミに注目され、妙に緊張しますねえ」「席が並んだお陰で、支持者からも『疑惑仲間みたいじゃないか』と言われたりして大変ですよ」というような会話だったらしい。

 早速、この日のために購入したオペラグラスで両先生のお顔を拝見。苦笑顔だ。ちなみに4日に来た時には、国会担当記者から双眼鏡を借りたのだが、衛視(国会の警備員)から「双眼鏡は使えない」と注意された。衆院警務部によると、「オペラグラス程度なら許可する場合もあるが、双眼鏡は議事妨害につながる恐れがあり不許可」とのこと。オペラグラスと双眼鏡にこんな差があるとは。
 やはり国会は不思議な場所である。

 さて、本会議開始からわずか15分後。藤波、柿沢両議員も中途退席してしまい、この日の「無所属ゾーン」は完全な空席となってしまった。




 この席の座り心地について、柿沢議員にたずねた。

 柿沢議員のホームページの「国会報告」には「『景気対策・構造改革国会』だったはずなのに、いつの間にか、与野党入り乱れての『醜聞暴露国会』になってしまいました。何とも情けない有り様です。特に、鈴木(宗)、加藤(紘)両氏が私の後ろと横に引っ越してきて、本会議場での居心地がすっかり悪くなりました」と書いている。

 「疑惑の無所属」組に囲まれて、どんな具合です?

 「肩が凝りますね。特に左側」と柿沢議員。ちなみに左側は鈴木議員の席だ。マスコミからの取材を予想し、わざわざ“時差出勤”したこともあったという。

 加藤氏は欠席が多く、言葉を交わす機会もなかったが、隣席の鈴木議員とは1度だけ言葉を交わしたことがあったという。
 壇上で民主党議員が政府の対露外交を批判していた時、鈴木議員は「あいつら本当に勉強してないな!」と吐き捨てるようにつぶやいた後、急になごやかな表情で柿沢議員の方に振り向き、「先生が外相の時、私は外務委員として漁業の安全操業について質問しましたよね」と話しかけてきたとか。「よく覚えているなあ」と驚くと同時に、「変化球を投げられる人だ」という印象を受けたという。

 さらに、藤波、中村両議員に話が及ぶと、「公判中も顔を上げ、あの席に座り続けたのは並の精神力ではありません。もはや超然としています」。

 「超然」の域にまだ達しない鈴木議員の元には、自民党の若手議員が「大変でしたね」と盛んにあいさつにくるという。やはり影響力があるのだろう。

 記者が最後に「居心地悪いなら、左側の無所属ゾーンに引っ越されては?」と尋ねると、柿沢議員はこう言った。

 「あっち側でもいいかな、と思ったこともありますがね。議席はフランス革命以来、議長席から向かって右が右翼、左が左翼と決まっている。やはり『左翼席』には心情的に行けません。だから我慢しているのです。それにここは実は“由緒ある席”なんですよ」
 
なるほど議場右奥の片隅にあるこの「無所属ゾーン」には、古くは田中角栄氏に竹下登氏、中曽根康弘議員という首相経験者も座った歴史がある。今のメンバーもかなり豪華だ。
 藤波議員は「安倍・竹下・宮沢」の時代に「ニューリーダー」の最有力候補だったし、中村議員は旧田中派のプリンスと呼ばれ、若手のホープだった。柿沢議員自身、外相経験者だし、鈴木議員は外務省に絶大なる影響力を持っていた。「いずれは総理総裁」と言われた加藤氏も、議員辞職直前までここにいたのである。

 「この席の豪華さが、今の自民党の人材不足を示している」と言われるゆえんだ。

 いわば「逸材」ぞろいの「無所属ゾーン」。これ以上「大物」「逸材」が座ることがないように心から祈りたい。