4月28日朝9時半、JR東京駅内房線ホームは通勤ラッシュ並みの混雑ぶりだ。
特急の発車20分前から並び、座席を確保する。
この日のメンバーは私のほかに、運動不足気味の夫と4歳の息子。“戦力”にちょっと不安は残るが、目標は高く「アサリご飯+澄まし汁+スパゲティボンゴレ」である。
午前11時ごろ、最寄りの青堀駅に到着。
会場までは路線バスもあるが、渋滞を避けようとタクシーに乗った。幹線道路は大型観光バスやマイカーでひどい渋滞だ。しかし、地元タクシーは裏道を抜け、10分足らずで現地に到着。
会場周辺には、駐車場に入れないマイカーが何百メートルも路上にあふれていた。他人の不幸を喜んではいけないが、
「電車でよかった」と思うのは、こういう瞬間である。
まず、入場券を買う。
首都圏周辺の潮干狩り場の多くは、地元の漁協がアサリをまいていることなどから、採取量に応じて料金を払う。富津海岸では、アサリが約2キロ入る網付きで1200円。超過分は1キロ600円。
クマデやサンダルなどの道具も現地調達できる。
「さあ、潮干狩りだ!」と浜辺を見渡し、思わず絶句。
人、人、人。
2万人近い人出である。東京ディズニーランドも真っ青。
「富津がこんなに込むの、初めてみたよ」と常連客も驚いている。
首都圏の潮干狩りには混雑が付き物だ。時期が春から夏までと短いうえ、潮具合の良い週末となるとさらに限られる。採れるのは干潮前後の4時間。込まないわけがないのだ。
気を取り直し、サンダルに履き替えた。息子は厚手の靴下。サンダルは砂まみれになった時、足がこすれて痛い。
子供には靴下が一番だ。
会場入り口付近の砂浜を掘ってみた。
無残だ。何千人もの客に掘り返された浜には、死んだ貝と小指の先ほどの小さな貝しかいない。沖へ、沖へと移動する。「ハマグリだ!」。隣で歓声が上がる。せん望のまなざしを向けたら、ハマグリではなく、バカ貝だった。姿は似ているが、味は似て非なるもの。喜びに水を差すのも申し訳なく、黙っておいた。
掘り始めて約1時間。とうとう「金脈」を掘り当てた。
クマデを砂地に刺し、軽く手前に引くだけで「ゴチ、ゴチゴチ」と何か引っかかる。興奮しながら掘り返すと、巨大なアサリがゴロゴロ。「大きいぞ!」。私は興奮に震え、クマデを動かす。息子も「やったあ」と小躍りする。あわてて小声で息子をたしなめる。「静かにして!みんなに聞こえるでしょ」
ああ、見苦しい親の姿。
不思議なもので、
アサリは1個見つかると2個、3個と次々見つかる。どんどん運が上向く感じだ。
この向上感、何かに似ているなあ、と思ったら、パチンコだった。一つチューリップが開けば、あとは次々……というやつである。
「母ちゃーん、寒いよ〜。帰りたいよ」。
振り向けば、息子が海風の中で鼻水を垂らし、震えていた。しかし「金脈」にはあらがえない。「アサリご飯のために、もう少し我慢してね」。
非情な母である。
この時、私は理解した。
なぜ潮干狩り会場では迷子の呼び出し放送がこんなに多いのか。迷子以外に「出発時間に大幅に遅れています。お客様はお早くバスまで」や「ご家族が首を長くして待っておられます」という放送もある。アサリ金脈に当たると、みな平常心を失うのだろう。それが潮干狩りなのだ。
しかし寒さに青ざめる息子の姿に、さすがに網いっぱい採るのはあきらめた。帰ろう。
さて、首都圏の潮干狩り場の悲劇は、「帰ろう」といってもすぐ帰れない点だ。
出口でアサリを計量し、超過の有無を調べる会場が多い。だから潮干狩り場では計量待ちの長い長い人の列ができるのだ。
実は昨年、我が家は東京に最も近い潮干狩り場、「ふなばし海浜公園」(船橋市)に行った。やはりGW中で込み、計量待ちはなんと2時間。おまけに午後、雨も降り出した。妻子を先に帰し、ずぶぬれで震えながら計量を待つ何百人もの父親たち。貝をあきらめ、手ぶらで帰る人が続出し、浜辺には捨てられた大量のアサリがゴロゴロと転がっていたっけ。
今年、富津海岸まで足を延ばしたのは、この「計量待ち」を避けるためだ。ここではアサリが指定の網1杯(2キロ)以内の人は別の列に並び、入場券チェックだけで会場を出られる。実際、数分の後には会場を抜け出せた。計算通りである。
首都圏ではほかにも、
駅から無料送迎バスのある会場や駐車場が広い会場、温泉施設に隣接した会場など、それぞれに特長がある。首都圏の潮干狩りでは、下調べがモノを言うのだ。
この日の成果は、約3キロ。砂出しの末、翌日には見事、ボンゴレとアサリご飯と澄まし汁が食卓に上ったのであった。
ちなみに、翌日息子が熱を出したことは言うまでもない。反省。