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平成13年の初春、僕は前方の交差点の歩行者用信号が青になったので小走りで横断歩道に入った。その交差点は大きいので向こうの歩道まで時間がかかります。僕の前方左側に中年の女性事務員風の人が、その右側を高齢の男女が急ぎ足で横断歩道の中央付近まで進んでいました。白髪の背の高いその男性は、背の低い小太りの女性の左肩に自分の左腕をまわしていました。その男性は足が不自由らしいのです。右足が異様に上がり、二人とも右へ右へと流れていきます。横断歩道の白線ゾーンから出てしまうと思った瞬間、二人とも前のめりに倒れました。すぐに事務員風の女性が駆け寄って、小太りの女性を助け起こしました。僕は駆け寄って、仰向けになっている男性の前にまわり、僕の右腕を相手の右腕の脇に差し込んで引き上げました。上半身が起きたところで、僕は相手の重みを感じた。いち早く立った小太りの女性が大きな声で言った。「この人ものすごく重たいんです」。信号の色が変わると二列に行列している車がいっせいに向かってくる。僕は力任せに引き上げた。その男性は足を伸ばしたままズルズルと起き上がった。その時、僕の背骨が「ベキッ」と鳴った。僕たち四人は急いで向かいの歩道に上がった。その場所から離れた僕は歩きながら考えた。体の不自由な人の扱いかたは難しいなと。
同じく平成13年の初冬、僕は知り合いの工務店の人から依頼を受けた。バリアフリーの問題だ。純和風の豪邸で80才近い男性のための改修工事である。半年前に階段でバランスを崩し、壁で腰を打ったという。病院で骨にヒビが入っていると診断された。すぐに直ると思っていたのが、グズグズと半年が経ってしまった。このまま直るのを待てないのでバリアフリー計画をしたいということだ。僕は部屋に通された。車椅子で待ち受けていたその男性は僕に言った。「車椅子の方向を変えて欲しい」と。僕は車椅子のハンドルを握って、強引に向きを変えた。その時、僕は生まれて初めて車椅子を操作した。後で思ったのだが、車輪のロックをはずしてから動かすべきだったと。
こんな経験から、建築以前の問題から取り組まなければ介護住宅なんてできないなと感じた。そんなわけで介護する側に立って住まいの問題に取り組みたい。
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