見知る他人見知らぬ知人(1)
2002年 8月 5日


 毎朝、同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、同じ道をたどって通勤していると、同じヒトを見かけることが多い。
 帰りと違って朝はあまり時間を変えないからかもしれないが、いつも同じ車両に乗り合わせるカップルや、住宅街で追い越す幼稚園児とその母、駅のエスカレータ付近ですれ違う背の低い女子高生など、その顔ぶれは案外多岐にわたる。
 それらに自分なりに呼び名をつけて、(あっ今日もお会いしましたね)と心の中で挨拶し、そのプロフィールや行き先などを色々推測するのが楽しいのだ。
 そういう顔だけ一方的に知っている人を思いがけず夕方の御堂筋線梅田駅で見かけたりすると、今まで想像でしかなかったそのヒトの日常が突然現実のものとして目の前にあらわれ、空白だったパズルのピースが埋まった気がしてちょっと嬉しく、得した気分になったりして。(たまたま仕事で御堂筋線使っただけで、実際の勤務地はもっと別ということもあるかもしれないが)
 ともかく、そのよーに私のなかで勝手に設定が出来あがっている赤の他人様のうち、お気に入りを紹介すると、まず、もう会社まであと少しという交差点ですれ違うチャリンコの推定40前のオジサンがいる。
 大柄で毛穴がボコボコしていて頬骨が出てて、全体的に顔が大きくて長めの彼を私はひそかに松井君と呼んでいる。
 うちの会社は8時半始業で、よって8時5分か10分までには私は会社最寄りの駅に着いているのだが、私とすれ違うタイミングからして彼のオフィスはきっと9時始業で、駅前にチャリンコを停めて8時20分頃の大阪行きの電車に乗り、それから地下鉄に乗り換えて本町あたりまで行くのかもしれない。あのへんはたくさんオフィスビルが並ぶので、彼はきっとそのへん、駅から5分ほどのビルに吸い込まれてゆくのだろう。
 残念ながらいまだ彼をほかの場所・ほかの時間帯で見かけたことがないので、これらの仮説の真偽は不明である。
 次に、朝、まだ家をでてすぐの大きな信号を渡るあたりで時々追いぬく親子がいる。2歳か2歳半くらいの男の子を抱っこして、サラリーマン風の男性がよいしょよいしょと駅へ向かっているのだ。うまいこといくとこの親子は電車まで同じのに乗りあう。7時41分に六甲道を出る快速にのり、抱えた子供にガラス越しに流れ去る外の景色を見せながら、芦屋あたりで降りていく。はじめて見かけて間もなく、私が会社から帰って六甲道の駅から家に帰る道でまた見かけたので、おそらく9時?17時で子供を保育所に預けているのだろう。しかしこんなに早く帰ってこれるなんて、まだ若そうなのにもう窓際族なのか?気ばかり良くてうだつの上がらないダンナに愛想をつかし奥さんは実家に帰ってしまったのか?
 と、勝手にダンナの出来まで想像していたところ、ある朝同じ子供を今度は母親らしき女性が抱えて駅に向かう姿と遭遇。どうやら共働きで、交替で子供を預けにいくとか、なんかそんなことだったのだろう。
 そのように他人様のドラマをしばし思う朝のひととき、逆に私もどこかで誰かに「○○のヒトだ」と思われているかもしれません。思わず己の態度を振り返るのであります。どきどき。