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退院の日
4月初旬退院。なんとか幼稚園の入園式に間に合わせたい、と言う母の希望がかなう。
退院する日の朝、父が新しい靴をもって迎えにきてくれたことが印象深い。
久しぶりの家
家に着いたときの母の様子をよく覚えている。嬉しくてたまらない感じで嬉々として家に入った。家では祖母とタミコおばちゃん、ケーコちゃんたちが待っていた。
だけど、私はいつまでも玄関に立ったまま動けなかった。その時の気持ちを表現するのは難しい。
病院にいる間、私だけを見てくれていた母が遠くに行ったような気がしたのかもしれない。入院生活が私にとってはあまり苦痛ではなかったせいで、慣れすぎていたのかもしれない。
タイミングを失って困ったように立つ私を救ったのは、ケーコちゃんだ。私の手を取り、心配そうに覗き込む大きな目を今も覚えている。
入園
退院はしたが、体力的なこともあってか通園するのは2学期からになった。
入園式は、病院には内緒で出席した。
先生と友達
1学期の間、近くに住む同じクラスの男の子が、幼稚園でもらう会報などを届けてくれた。
クラスのひとりひとりが描いた絵とメッセージを担任の先生が持ってきてくれた。
遠足の日は、先生がみんなに配ったお菓子を私の分も届けてくれた。
2学期の最初の1週間、母が毎朝付いてきた。
クラスでいちばんのしっかり者のユウちゃんが、出席ノートにシールを貼ることや、お道具箱の置き場所などを教えてくれる。
9月生まれのお誕生日会、1ヶ月遅れで私も祝ってくれた。
外で遊ぶときは、みんなが私を「大丈夫?」と気遣い、かばってくれた。
先生に引率される時は、背の順に関係なく一番前。
先生と友達の優しさのお陰で、すぐに溶け込み楽しい幼稚園生活が送れたと思っている。
運動会
なにせ、50mと歩けなかった私である。走るなんてすごいこと。その私が運動会で走った。楽しく走って「ビリではない」と思った記憶があるから、全然しんどくはなかったのだろう。
走る私を見て、母はとてもとても嬉しそうだった。
いもほり
ひつこいようだけど、50mと歩けなかった私だ。サツマイモを袋にいっぱい抱えて帰ってくるなんて、母には想像できなかったらしい。
「え?こんなに!あんた一人で持って帰ってきたの?」驚きと喜びの声だった。
ダブルキャスト
学芸会は「森は生きている」という劇。
ヒロインのマルーシカをしたい人!という先生の問いかけに、私は勢いよく手を挙げた。隣にいたイケノくんが「おい、そんなしんどいのん止めとけよ」と忠告してくれる。
私ともう一人手を挙げたのは、しっかり者でお姉さん的存在のユウちゃん。ユウちゃんがヒロインをやるのは誰もが納得することだが、私は意外中の意外だったようだ。イケノくんはまだ「止めとけ」とささやいている。しかし私の気持ちは硬く、劇の前半はユウちゃん後半は私と二人でヒロイン役を分け合った。そして、出番のない前半(ユウちゃんにとっては後半)は[その他大勢]の役もこなす。じっと同じところにいつまでも座っていた私が、まるで別人のようだ。
手術をしてから、私の中で何かが新しくなったような気がする。