名づけ
子供ができたとわかると、考えたり決めたりする事が沢山出てくるが、
中でも名前を決めると言う作業はかなりの難題だ。
親の勝手だからつけたい名前をつければいいという向きもあろうが、
将来ずっと子供に不満を言われるのも適わない。
そうでなくとも一生背負う名前を決めるのだ、真剣にならざるを得ない。
親同士がとても若くてまだまだ人生に後悔や失敗の積み重ねが少なくて
勢いがあるうちにできた子ならすごく変わった名前もつけられるだろうが、
我々はそこまで若くない。色々考えざるを得なかった。
女性は結構遊び感覚で子供の名前を考えたりするらしい。
別に具体的に子供ができたからとか言う事でもなく、結婚すら現実的でない学生時代でも
そんな遊びをするようだ。妻も子供ができたらつけたい名前の候補がいくつかあったようだが、
いざ実際に子供ができてみると単純にそれで決められるほど気楽な性格ではない。
しかもそのうちのひとつは先に子供を生んだ友人につけられてしまった。
別な友人もその名前を考えていたと言うから、何か共通の原因があるのかもしれない。
名前は本当に流行りすたりがあるから。
流行りすたりと言えば今は女の子でも○○子と言う名はすっかりすたれてしまっている。
うちでもまったく検討すらされなかった気がする。「桜子」なんて例外的にいいかな、
とも思うが季節に合わなかった。
そう、できれば産まれた季節をイメージさせる名前をつけたい、というのは一つの希望であった。
ことに予定日が6月6日だったので、我々の好きな、ちょうど外へ出ていても気持のいい好きな季節だっただけに。
ずっと最初の頃、まだ男の子か女の子かはっきりしないうちには「岳」とか「陵」とか他にも
自然をイメージできるような文字を使いたいなどと考えたりしていた。
ご多分にもれず我々も名づけに関する本を買ってみた。
最初はケチって古本を手に入れたが前述の通り名前には流行りすたりがある。
あまり古いと参考にならないのだ。妻が友人からお古をもらったり、新刊本を購入したりで、
名づけの本だけでも結構集まってしまった。しかしこの手の本は名前をつけてしまえば用済み。
また子供のできた友人の所へを回っていった。
本を見て参考になったのは沢山の人名に使える漢字とその意味を知る事ができたこと。
実際には採用されなくとも何もないところから考えるよりは具体的にああでもない、こうでもないとやれた。
私が一番に気に入った漢字が「颯」と言う字。「颯爽」の「サツ」であり「はやて」とも読む。
かなり気に入って一文字で「颯」とか「颯人」など考えていた。5月生まれなら「颯樹(さつき)」なんてどうだ。
これはかなり強く押したのだが却下された。
名づけの本で初めて意識した字であったのに、子供の名前を意識して見るようになると
最近流行の字のようだ。娘と同じ頃に生まれた子の名前に結構見かける。
意識しないところで私も時代の息吹の影響を受けているのかもしれない。
名づけの本を読むと父親は漢字の意味からつける傾向があるのに比べて、
母親は音から決めて字を後から当てはめることが多いようだ。
本自体もそれに合わせてつけたい音に当てられる漢字の名前の例を挙げている構成だったりする。
音から入るつけ方を更に進めて、普段呼ぶ愛称からつけるパターンの例もあった。
つまり「あいちゃん」と呼びたい場合は「愛子」「愛香」etc・・・と言った感じだ。
私にはあまりわからない感覚だが、妻に言わせるとやはり呼びかける名前も重要であるらしい。
呼びにくいのは確かに嫌だが。
子供に寄せる期待を名前にこめるつけ方もあったがこれにはあまり賛同できなかった。
大物になってほしいから「大」と言う字を使うとか、明るい子になって欲しいから「明」と言う字を使うとか。
昔の感覚のつけ方のような気がする。
字面もある。単独で考えるばかりでなく苗字と並べて書いた時のバランスも大切だ。
沢山たくさん二人で考えた名前をノートに、縦に書いたり横に書いたり。
ボールペンで書いたり筆ペンで書いたり。ひらがなで書いたりローマ字で書いたり。
ある程度絞ってからは様々なフォントで書いて印刷してみたりもした。
娘の名前は結局つけたい漢字を使い、音からも気に入ったものになるようにした。
おかげで難しい漢字ではないのだが、読めない人も多い名前になってしまった。
音自体は決めてから周りを見ると、結構沢山いてわりとありふれている。
妻の入院中も上の子がその名だとか、女の子だったらつけようと思っていた、
という話も聞いたし、退院後もその傾向は続いている。それにしてもそのそれぞれが
いろんな漢字でその音を飾っているのが面白い。
そして最終的に決断するに至った要因は何かと言うと、実は姓名判断だったりする。
それまで第一候補だった名前があまり姓名判断ではよくなくて別な名前になってしまった。
どちらも決めがたいぐらいいい名前と思っていたので決断ができずにいたのだが、
出産間際の入院、緊急転院、早産、低体重児としての誕生、と打ちひしがれた妻は
名前ぐらい我々の考えだけでなく、占いでもいい結果が出たものをつけてあげたくなったのだ。
それまで遊びで覗いていた姓名判断のHPであったが、きちんと印刷して病院まで持って行った。
そんなもの当てにならないと思ってはいたが、妻の気持を考えるとできればいい結果のものに越した事はない。
名前を決めて出生届を書いた時、珍しくかなりの緊張をしてしまった。
婚姻届はただの書類でありやり直したりすることもあるが、出生届は一度提出すれば一生その名前がついて回る。
本当にいいのか、苗字を書いてから名前を書く前に一拍置いてもう一度考えた。
時間を掛けて、丁寧に書いた。世界で一番最初に娘の名前をそこに書いた、と胸に刻みながら。
名前は不思議だ。今ではそれ以外の名前は考えられなくなっている。
ぴったりだった、これに決めてよかった、と思っている。
本人も気に入ってくれればいいのだが。
(2002年8月9日)