つめ
産まれたばかりの子供を始めてみた時、「うれしい」と言う気持ちの他に「よくできてるよなあ」という観察者の感慨が自然と沸いてきた。
片手でひょいと簡単に持てそうな、おもちゃの様な大きさなのに、手足をバタバタ激しく動かし、ビービーと大きな声で泣いている。
その腕の中にはどんな関節の構造が、そしてそれをどんな風に制御しているのか、これを人間の手で作るのは至難の業だぞ、
と思えてきた。まさに生命の神秘。
なかでも私を含め、面会に来た親達にも感嘆の声を上げさせたのはその小さな「つめ」である。
9ヶ月になろうとしている今でさえ、幅1センチもないそのつめは、産まれたばかりの時は本当に米粒のように小さく、
でも一本一本の指にきちんと並んでついていた。きっと当時は幅2ミリとか3ミリと言った大きさだったと思われるそのつめ。
職人が造り出した工芸品のようだった。
まさに「よくできている」そして「ちゃんと忘れずにつめまでつけてる」と思ったものだ。
よくできた工芸品のようだった娘であるが、人形ならぬその体は成長とともに次第に大きくなってきた。
当然つめも伸びてくる。そのまま放置すると顔をひっかいて傷を作ったりする事もあるようだ。
訳もわからず手を振り回したり、そして目が次第に見えてくるとじっと自分の指を見つめて目の中に入れたりする事もあるらしい。
様々な事故防止の意味からもまめにつめの手入れをする必要がある。
初めての子育て。とりあえず子供用となっているつめきりを、良いかどうかもわからずに購入。
先の丸くなって怪我のしないように工夫された小さなサイズのはさみだった。
はさみでつめを切った事などない。しかも持つのにも頼りないほどの小さな手。ドキドキしながらのつめ切り。
ネット上でつめを切っていた看護婦さんが誤って指を切り落とした記事を事前に読んでいた妻は怖がってやろうとしない。
しかし伸ばしたままと言うわけにもいかない。つめ切りは私の仕事となった。
手足をバタバタしている時にはとても怖くて切る事ができない。本当にちょっとした拍子に指まで切りそうだ。
そこで眠っている時に切ろうと思う。が、寝ている娘の手を押さえて切ろうとすると嫌がって目を覚ますこともしばしば。
ようやく寝かしつけた時など、わざわざ起こすようなこともしたくはなく、意外と実行するタイミングが難しかった。
それにやはりはさみで切るのはどうもうまくいかない。つめをはさんだ感覚がうまくつかめず、怖い。
結局ずっと使っていた小さ目のつめ切りを使ってみた。はさみと違い挟んだ全ての部分が均等に力を加えられるので安心。
はさみの場合先っぽの方が切れる頃には手前はずっと深く切れているのでどうにも不安だった。
現在は起きている娘を自分の足の間に座らせて、後から手を握って切っている。
機嫌のいい時は両手をやるが、そうでない時は焦らず片手づつ。だんだん大人しく切る作業を見ているようになって来た。
子供のつめは柔らかい。最初は本当にペラペラした感じだった。次第に硬くはなってきたが、
娘のつめを切った後、自分のつめを切るとなんて硬いんだろうと思ってしまう。

2002年2月9日