退屈な時にハナウタ。
(項1)
男が,いる。
21歳。
フリーター。
恋人はいない。
現在は近所のコンビニでバイトしている。
どう見ても,退屈そうだ。
無理もない。朝起きて,飯喰って,バイトして,帰って,シャワー浴びて,飯食って,寝る。毎日同じなのだ。たまに友人と会っても,やっぱりする事は決まっている。酒飲みながら適当に駄弁るだけ。
『こんな生活なら機械だって出来る』
それは男にも充分解っている。
『でも,そんな機械だって操作しているのは人間だ』
男は自分自身にそう強く言い聞かせる事によって納得し,それ以上は考えないようにしていた。怖いから。
こんな状況を,改革させる事なんて実は簡単な事だ。しかし男はそうしようとはしない。敢えてという訳ではないが,つまりは面倒臭かったり,その場でふんぎる勇気が無かったりで,今日を過ごしている。少し曖昧な自己矛盾。だからといってそれを解決してやろうと思わない。思ってもどうしていいか分からない。
とにかく消極的に,男は求めていた。ただ単純に,待っていた。
(項2)
ある日。男の店に女がやって来た。男と同じくらいの年代だろう。女の服装はとても印象的だった。完全に青で統一されている。印象的というより,むしろ青は男の好みの色なのだ。それに加えて容姿だってナカナカなものだ。
「いらっしゃいませ」
ちょっと声を張ってみた。
客観的には,その努力は全く生きなかった。
女は店に入るなり一直線でおにぎりの棚の前に立ち,迷い無くおにぎりを2つ掴んだ。どうやら最初から買うものを決めていたらしい。男はそのままの勢いでレジに差し出された2つを確認してみる。
鶏五目。
紅鮭。
ふつうだ。いたってふつうだ。
男は普段どおりにバーコードを通し,何の変哲も無く会計を済ませた。お釣りを受け取った女もそのまま出て行った。
女の姿が完全に消えた後で,男は思いっきりため息をついた。一体あの女に何を期待していたのか。
そもそもおにぎりなんて,どの2つを取ってきても普通じゃないか。おんなじような客だっていくらでもいる。自分でもよく理解しきれない微かな喪失感。そうは言ってもそれはあくびと一緒に流れた。
あーあ。バカバカしい。
ちょうどあくびがおさまった時に次の客が来た。
「いらっしゃいます」
しまった。噛んだ。