1.  渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題を解決するために不可欠な前提問題の準拠法は、我が国の国際私法に    よって定めるべきである
2.  血縁関係がない者の間における親子関係の成立についての準拠法

最高裁判所平成7年(オ)第1203号 所有権移転登記手続等請求事件
平成12年1月27日第一小法廷判決、破棄自判
原審 大阪高等裁判所

主        文

 一 原判決を次のとおり変更する。
  第一審判決を次のとおり変更する。
  1 被上告人Y1の平成6年10月20日以降の賃料相当額の金員支払請求に係る訴えを却下する。
  2 上告人は、被上告人Y1に対し、平成4年3月3日から同6年10月19日まで、1箇月2万3000円の割合による金員を支払え。
  3 被上告人Y1のその余の請求を棄却する。
  4 上告人に対し、被上告人Y2は第一審判決別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地の108分の14の持分について、同Y3及び同Y4は同土地の各108分の8の持分について、同Y1及び同Y5は同土地の各108分の3の持分について、昭和45年5月16日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。
  5 上告人に対し、被上告人Y2、同Y3及び同Y4は第一審判決別紙物件目録(三)記載の建物の各36分の2の持分について、同Y1及び同Y5は同建物の各36分の1の持分について、昭和45年5月16日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。
  6 上告人のその余の請求を棄却する。
 二 訴訟の総費用はこれを2分し、その1を上告人の、その余を被上告人らの負担とする。

理        由

 一 本件は、被上告人Y1が上告人に対し、第一審判決別紙物件目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)の持分権に基づき、その明渡し及び賃料相当額の金員の支払を求める第一事件と、上告人が被上告人らに対し、本件建物及び同物件目録(一)及び(二)記載の土地(以下「本件土地」という。また、本件建物と併せて「本件土地建物」という。)について時効取得を原因とする持分全部移転登記手続を求める第二事件が併合された訴訟である。

 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 1 韓国籍を有するA(後述のように後に日本に帰化した。)は、韓国籍を有する妻Bとの間に長男被上告人Y2(昭和15年1月1日生まれ)、長女被上告人Y3(昭和16年12月28日生まれ)及び二女被上告人Y4(昭和18年3月14日生まれ)をもうけた。同被上告人らはいずれも韓国籍を有している。

 Aは、Cとも男女関係があり、同人との間に、非嫡出子として被上告人Y1(昭和26年3月20日生まれ)及び同Y5(昭和28年8月30日生まれ)がある。同被上告人らはいずれも日本国籍を有している。
 2 Aは、昭和36年3月10日にBと離婚し、同年9月、韓国に在住し韓国籍を有するDと婚姻した。

 3 Aは、昭和38年2月27日に日本に帰化し、氏名をEとする日本戸籍が編製されたが、その際同戸籍にDとの婚姻の事実が記載されなかった。

 4 Eは、昭和38年5月2日に上告人と婚姻した。
 上告人は、右婚姻後、E、被上告人Y1及び同Y5と同居していた。

 5 Eは、昭和45年5月16日に死亡した。
 本件土地建物は、Eの相続財産である。上告人は、Eの死亡後、単独で本件土地建物を占有管理している。

 6 昭和46年1月23日に被上告人Y1、同Y3、上告人及びその親族らが集まり、Eの相続財産の処理についての話合いをしたが、何らの合意も成立しなかった。
 上告人は、同日から数箇月を経過しないうちに、遺産分割交渉を依頼した弁護士を通じ、Eと上告人の婚姻が重婚であるとの事実を知るに至った。

 7 Dは、昭和52年9月4日に死亡した。

 8 被上告人Y1は、平成2年、上告人に対し、Eと上告人の婚姻は重婚であるとの理由で婚姻取消しの訴えを提起し、平成4年3月3日に婚姻を取り消す旨の判決が確定した。

 9 上告人は、本件建物(店舗兼共同住宅)をF外14名に賃貸し、賃料として1箇月計41万4000円を収受している。

 10 上告人は、本訴において、本件土地建物(又はその持分)について、20年間占有したことを理由とする取得時効及び被上告人Y1の相続回復請求権の消滅時効を援用した。
 二 原審は、次のように判断して、第一事件請求のうち本件建物明渡し及び右明渡し済みまで賃料相当額の金員として月額4万5115円の支払を求める部分を認容してその余を棄却し、第二事件請求をすべて棄却すべきものとした。

 1 Eの死亡により、被上告人Y1は非嫡出子として本件建物の12分の1の持分を、Dは妻として3分の1の持分をそれぞれ相続した。

 2 Dの死亡による相続人の範囲、順位、相続分については、平成元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)25条により韓国法が準拠法となる。1977年改正前の韓国民法773条、774条、1000条、1002条及び1009条により、Dの財産についての被上告人Y1の相続分は13分の1である。したがって、同被上告人は、Eからの相続とDからの相続を合わせて、本件建物の468分の51の持分を有することになるから、上告人に対し、本件建物の賃料相当額の金員として月額4万5115円(41万4000円の468分の51)を請求することができる。

 3 上告人は、昭和46年1月23日から数箇月を経過するまでの間に、自己が相続人の地位になく、本件土地建物につき所有権はもとより相続による持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件土地建物を占有したものではないから、本件土地建物の所有権又は持分を時効取得することはできない。

 4 上告人は、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又は自己に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者に該当するから、相続回復請求権の消滅時効が適用される余地はない。

 三 上告代理人(略)の上告理由第二について
 原審の適法に確定した前記事実関係の下においては、上告人は、被上告人Y1及び同Y5と同居し、自分以外にもEの相続人がいることを知っていたことが明らかであり、上告人がEの相続人として本件土地建物について単独で占有を開始したからといって、上告人が本件土地建物を単独で所有する意思を表示したものとはいえない。したがって、上告人に本件土地建物全体の所有権について取得時効が成立しないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

 四 同上告理由第一について
 上告人による本件土地建物の持分の時効取得を否定した原審の前記二3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 民法186条1項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有に当たることについての立証責任を負う(最高裁昭和54年(オ)第19号同年7月31日第三小法廷判決・裁判集民事127号315頁)。そして、所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものである(最高裁昭和45年(オ)第315号同年6月18日第一小法廷判決・裁判集民事99号375頁、最高裁昭和45年(オ)第265号同47年9月8日第二小法廷判決・民集26巻7号1348頁、最高裁昭和57年(オ)第548号同58年3月24日第一小法廷判決・民集37巻2号131頁参照)。

 これを本件について見ると、原審は、上告人がE死亡後単独で本件土地建物を占有している事実を確定しつつ、上告人が占有開始後に自己が所有者又は持分権者でないことを知ったという内心の意思の変化のみによって所有の意思の推定を覆しており、民法186条1項の所有の意思の推定が覆される場合について法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

 そして、前記確定事実によれば、上告人は、Eの相続人として、Eが死亡した日である昭和45年5月16日に本件土地建物の占有を開始し、その後20年間その占有を継続しているところ、自己がEの唯一の配偶者で3分の1の法定相続分を有するものとして占有を開始したと見るべきであるから、被上告人らが他に上告人の占有が所有の意思のないものであることを基礎付ける事情を何ら主張していない本件においては、本件土地建物の各3分の1の持分を時効により取得したものというべきである。そうすると、上告人は、本件建物の共有者としてこれを占有していることになるが、被上告人Y1は、本件建物の共有者である上告人に対して本件建物の明渡しを求めることができる理由を何ら主張していない。よって、原判決中、第一事件請求のうち本件建物の明渡請求を認容し、第二事件請求を全部棄却すべきものとした部分は、いずれも破棄を免れない。

 五 同上告理由第四について
 1 準拠法の選択について
 (一) 渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提問題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題は、本問題の準拠法によるのでも、本問題の準拠法が所属する国の国際私法が指定する準拠法によるのでもなく、法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである。

 これを本件について見ると、Dの相続に関する準拠法は、旧法例25条により被相続人であるDの本国法である韓国法である。韓国民法1000条1項1号によれば、Dの直系卑属が相続人となるが、相続とは別個の法律関係である被上告人らがDの直系卑属であるかどうか、すなわちDと被上告人らの間に親子関係が成立しているかどうかについての準拠法は、我が国の国際私法により決定することになる。

 (二) 親子関係の成立という法律関係のうち嫡出性取得の問題を1個の独立した法律関係として規定している旧法例17条、18条の構造上、親子関係の成立が問題になる場合には、まず嫡出親子関係の成立についての準拠法により嫡出親子関係が成立するかどうかを見た上、そこで嫡出親子関係が否定された場合には、右嫡出とされなかった子について嫡出以外の親子関係の成立の準拠法を別途見いだし、その準拠法を適用して親子関係の成立を判断すべきである。

 旧法例17条によれば、子が嫡出かどうかはその出生当時の母の夫の本国法によって定めるとされており、同条はその文言上出生という事実により嫡出性を取得する嫡出親子関係の成立についてその準拠法を定める規定であると解される。そうすると、出生以外の事由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになるが、同条を類推適用し、嫡出性を取得する原因となるべき事実が完成した当時の母の夫の本国法によって定めるのが相当である。

 したがって、被上告人Y2、同Y3及び同Y4がAとDの婚姻によってA・D夫婦の嫡出子となるかどうかについては、右婚姻当時のDの夫Aの本国法である韓国法が準拠法となり、被上告人Y1及び同Y5がEによる同被上告人らの認知によってE・D夫婦の嫡出子となるかどうかについては、Eが同被上告人らを認知した当時(Eが同被上告人らを認知したのは、A(E)が日本に帰化した後の昭和38年3月14日であることが記録上明らかである。)のEの本国法である日本法が準拠法となるというべきである。

 そうすると、被上告人Y2、同Y3及び同Y4は、1990年法律第4199号による改正前の韓国民法773条によりDとの間にいわゆる継母子関係が生じ、その嫡出子たる実子と同様に扱われ(なお、韓国においては、同条に規定する法定母子関係が成立するためには、母と子が同一の家籍(戸籍)内にあることを要しないと解されている。)、同被上告人らはDの相続人となる(同改正法附則12条1項)。他方、被上告人Y1及び同Y5は、日本民法によりDの嫡出子であるとは認められないことになる。

 (三) 右のようにDの嫡出子であるとは認められない被上告人Y1及び同Y5について、更にDとの間に嫡出以外の親子関係が成立するかどうかを検討する。

 旧法例18条1項は、その文言上認知者と被認知者間の親子関係の成立についての準拠法を定めるための規定であると解すべきであるから、その他の事由による親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになる。その他の事由による親子関係の成立のうち、血縁関係がない者の間における出生以外の事由による親子関係の成立については、旧法例18条1項、22条の法意にかんがみ、親子関係を成立させる原因となるべき事実が完成した当時の親の本国法及び子の本国法の双方が親子関係の成立を肯定する場合にのみ、親子関係の成立を認めるのが相当である。

 したがって、Eが被上告人Y1及び同Y5を認知することによってDと同被上告人らの間に親子関係が成立するかどうかについては、右認知当時のDの本国法である韓国法と同被上告人らの本国法である日本法の双方が親子関係の成立を肯定するかどうかを見るべきであり、日本法ではDと同被上告人らの間に親子関係が成立しないから、韓国法の内容を検討するまでもなく、Dと同被上告人らの間の親子関係は否定され、結局、同被上告人らは、Dの相続人にはならないというべきである。

 (四) 右と異なり、Dと被上告人Y1間の親子関係の成立について、韓国法を準拠法としてこれを肯定した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある。原判決中、第一事件請求のうち本件建物の賃料相当額の金員支払請求につき、被上告人Y1がDの相続人であることを前提に計算した額の支払を命じた部分は、破棄を免れない。

 2 被上告人らの各相続分について
 (一) Dは、Eの相続財産につき、昭和55年法律第51号による改正前の民法900条の規定により3分の1の相続分をもって相続した。

 Dの死亡による相続に関し、韓国法によれば、前記のようにDとの間に法定母子関係が存する被上告人Y2、同Y3及び同Y4が直系卑属として同順位で相続人となるが、同一家籍内にない女子の相続分は男子の4分の1となる(1977年法律第3051号による改正前の韓国民法1009条1項、前記1990年改正前の同条2項、右1977年改正法附則5項、右1990年改正法附則12条1項)。被上告人Y3及び同Y4がDと同一家籍内にない女子であったことは記録上明らかである。

 そうすると、Eの相続財産に関する被上告人らの各取得分は、次のとおりとなる。

 (二) 被上告人Y2について
 被上告人Y2は、Dが相続した本件土地建物の各3分の1の持分につき、その6分の4を相続するから、Dから本件土地建物の各18分の4の持分を相続した。同被上告人は、Eの死亡により、その嫡出子として本件土地建物の各12分の2の持分を既に相続しているから、合計で各18分の7の持分を取得したことになる。

 (三) 被上告人Y3及び同Y4について
 被上告人Y3及び同Y4は、Dが相続した本件土地建物の各3分の1の持分につき、Dと同一家籍内にない女子としてそれぞれその6分の1を相続するから、Dから本件土地建物の各18分の1の持分を相続した。同被上告人らは、Eの死亡により、その嫡出子として本件土地建物の各12分の2の持分を既に相続しているから、合計で各18分の4の持分を取得したことになる。

 (四) 被上告人Y1及び同Y5について
 被上告人Y1及び同Y5は、Eの死亡により、その非嫡出子としてそれぞれ本件土地建物の各12分の1の持分を取得した。

 六 結論
 以上説示したところによれば、本件の結論は、その余の上告理由について判断するまでもなく、次のようになる。

 1 上告人は本件土地建物の各3分の1の持分を時効取得したというべきであり、被上告人Y1の第一事件請求のうち本件建物明渡請求は棄却すべきである。

 2 被上告人Y1の第一事件請求のうち賃料相当額の金員支払請求は、上告人が本件建物の賃借人らから収受している賃料につき、同被上告人の本件建物の持分割合に相当する分について不当利得の返還を求めるものであると解される。しかしながら、共有者の1人が共有物を他に賃貸して得る収益につきその持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないから(最高裁昭和59年(オ)第1293号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁参照)、同被上告人が上告人に対し原審口頭弁論終結日の翌日である平成6年10月20日以降の賃料相当額の金員支払を請求する部分に係る訴えは、却下を免れない。

 同被上告人の原審口頭弁論終結日までの賃料相当額の金員支払請求部分については、同被上告人が相続した本件建物の持分である12分の1から上告人が時効取得したその3分の1を控除し、18分の1の持分に相当する限度で認容すべきである。すなわち、被上告人Y1の上告人に対する本件建物の賃料相当額の金員支払請求は、1箇月当たり41万4000円に18分の1を乗じた2万3000円の限度で認容すべきである。

 3 記録によれば、本件土地は登記簿上Eの所有名義のままであり、本件建物には相続を原因としてG(Dの従兄弟)が3分の1、被上告人Y2、同Y4及び同Y3が各12分の2、被上告人Y1及び同Y5が各12分の1の各持分を有することとする所有権移転登記が経由されていることが明らかである。したがって、上告人の第二事件請求は、被上告人らに対し、本件土地については被上告人らの各法定相続分の各3分の1に相当する持分(被上告人Y2は54分の7、同Y3及び同Y4は各54分の4、同Y1及び同Y5は各36分の1。これらの分母を共通にすると、同Y2は108分の14、同Y3及び同Y4は各108分の8、同Y1及び同Y5は各108分の3となる。)につき、本件建物については各登記された持分の各3分の1に相当する持分(被上告人Y2、同Y3及び同Y4は各36分の2、同Y1及び同Y5は各36分の1)につき、昭和45年5月16日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続を命じる限度で認容すべきである。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大出峻郎、裁判官 小野幹雄、遠藤光男、井嶋一友、藤井正雄)

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