美和の恋…section2_1 宮川

<出会い>

日曜日は朝から客の量が多い。美和のいる鞄屋に入ってくる客は限られるが、ウインドウショッピングをしている客の量は平日の何倍にもなっている。
美和は客が動かした商品などを整理しながら店の外を眺めていた。
時計の針はまだ17時過ぎを指している。今日は日曜日なのに随分と暇なため、時の経つのがあまりにも遅かった。客の入りが悪いため、澤田は店長の仲村とバックルームで商品について打ち合わせをしており、美和はほとんどひとりで店番を行っている状態だった。

時計が18時を回ろうとしている頃、二人の男性客が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
美和は店員として明るく声を発する。
二人の男性客は美和の声など気にも留めずに話に夢中になっているようだ。
そのうちのひとりがビジネス用バックを手にとって熱心に見ている。
(さ、仕事仕事。)
二人は美和よりもちょっと年上のように見える。
(多分25歳前後かな…)
歳なんて関係ないのに、と思いひとりで小さく笑いながら、美和は二人に声を掛けた。
「いらっしゃいませ。よかったら鏡に映して見てくださいね」
美和は鏡をこちらに引き寄せる。嫌味にならない笑顔を美和はもう身に付けている。
「中に仕切りがいくつかありますので、書類を入れたりするのに便利ですよ。」
「そうだよね。俺今使ってるやつがもうボロボロなんっすよ。」
隣のもうひとりの男性に話し掛けながら、鞄を開けて中を見る。
「宮川の鞄もうかなりヤバいよな。お前あれで客先行くのはちょっと辛いぞ」
「そうっすよねー…いいなぁこれ。」
どうやら会社の先輩後輩のようだ。
「深みのある茶色なんで、どんな色のスーツにも合わせて持てますしね。」
「うーんでも俺のスーツってほとんどグレー系統なんだよな…ねぇ店員さん、これの黒って無いの?」
「ん〜と、黒は今ちょうど在庫切らしてて、多分1週間くらいで入ると思いますよ」
ひとまわり小さい同じタイプの黒の鞄を手にとって彼は見比べていたが、よほど気に入ったのか、あんまり悩まないタチなのか、即決をした。
「うーん…じゃあこれの黒にするわ俺。」
「かしこまりました。そうしましたら商品が入り次第ご連絡致しますので、こちらの伝票にお名前とご住所、お電話番号を記入していただけますでしょうか?」
男らしい、カクカクとした字で伝票に彼の名前が綴られていく。

"宮川克己"
美和は何も考えずに文字を眺めていた。
「電話は携帯でいいかな?」
突然話し掛けられて、美和は我に返った。
「そうですね、どちらでもいいですよ」
「俺店員さんに携帯番号教えておこうっと」
何言ってんだ馬鹿、と隣の先輩らしき男性につつかれながら、携帯番号を伝票に書く。
「俺の携帯番号教えたんだから店員さん…ええっと」
美和の名札を覗き込む。
「美和ちゃんのも教えてよ。」
屈託無い笑顔を美和に向ける。そんな彼の表情が無邪気な子どものように見えて、美和は思わずつられて笑ってしまった。
こういう聞き方には限らないが、美和に電話番号を聞いてくる客は今までに何人か居た。だけど美和は気が乗らないし、面倒なことになるのも嫌だったので教えたことはなかった。
だが彼の笑顔が、自分の胸にぽっかりと空いた穴を少し埋めてくれたような気がして、思わず美和はこう言った。

「いいですよ。そのかわりと言っては何ですけど、私今日誕生日なんですよ。よかったら今日一緒に飲みに行きません?」
あまりにも大胆な誘いだと、言ったあとにちょっと後悔した。男二人に女がひとり、ましてや今日が初対面の彼らに向かって、普通なら危なくてそんなことは絶対に言わない。だけど今日の美和にはそうは映らなかった。
彼らは少し面食らったような顔をしていたが、すぐにOKを出した。
「美和ちゃん今日は何時に終わるの?」
宮川が聞いてくる。
「ラストまでだから8時過ぎには終わるんじゃないかな。」
「あと2時間か…」
「よしゃ!折角の美和ちゃんの誕生日だ、ぱぁっと飲みに行くか〜!」
あっさりとOKをもらって、美和の心は幾分か軽くなった。美和の女の勘は彼らを危ないものとは感じなかった。
「じゃあ俺らどっかで時間潰してるからさ、この番号に電話かけてよ」
ひらひらと伝票を振りながら彼らは店を後にした。
21歳を迎えた日に、まがりなりにも用事が入った…自分から声をかけておいて釈然としないながらも、少しほっとした気がした。


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