美和の恋…その2・宮川

<誕生日会>

ささやかな美和の誕生日会は宮川と谷口のおかげで非常に楽しいものになった。
二人は営業マンなのか、話題が尽きない。色々な話で美和を楽しませてくれていた。
「俺まだこっちに来て半年だからなぁ…」
宮川がつぶやく。この土地には転勤で訪れ、地元は宮城の仙台なのだそうだ。谷口も転勤組で、実家は同じく仙台。
宮川の歳は26歳、先輩にあたる谷口は28だった。
「随分遠くからきてるんですね。寂しくならない?」
「やっぱり友達と離れてるからねー。そりゃあ寂しいよ。年末は一応帰るけどね」
「仙台かぁ〜。仙台といえば牛タン?生ガキ?食べたいよー」
「美味しいぞー。食べたことある?」
「ううん、まだ一度も。仙台にも行ったことないもん」
「一度行くといいよ。まぁいい街だと思うよ。俺は好きだ。」

だんだんと話が恋愛についてになってきた。
「ところで美和ちゃんは彼氏いるの?」
とっさの質問に美和は思わず口篭もる。
「その顔は人に言えない恋愛してるな?」
宮川の一言に顔がこわばる。すぐに嘘をつけるほど、美和は経験を積んではいなかった。
「あーアタリだな、こりゃ」
宮川は美和の顔を覗き込む。美和は自分の心を見透かされる気がして俯いた。
「うーん…彼氏というのか、何だろうね…」
自分に質問するように呟く。
「俺の友達にも既婚者と付き合ってる奴いるけどさ、まぁあんまり真剣になるなよ。絶対傷つくのはこっちなんだからさ」
言い返すことなど勿論出来ない。美和も充分にわかっているはずだったが、心は簡単にコントロールできなかった。

お互いの今までの恋愛遍歴などを面白おかしく話していると、あっという間に時間は過ぎていった。
「やだ!もう終電の時間!」
美和の乗る電車は終電が早かったため、気づいた時には終電が発車する5分前だった。
慌てて帰り支度を始める美和を宮川が引きとめた。
「いいよ俺送ってくから」
「ダメだよ飲酒運転になっちゃうもん」
「大丈夫、俺酒ほとんど飲んでないから。」
言われてみれば宮川は最初にビールを飲んだだけで後はウーロン茶を飲んでいた。
美和の誕生日に強引に付きあわせておいて、更に好意に甘えてしまってよいのだろうか…
「俺らも明日仕事だし、そろそろ行くか」
時計は11時半を回ったところだった。

宮川たちは店を出ると、駅とは反対方向に向かって歩き出した。
「何処行くんです?」
「駐車場だよ。今日車で来てるんだ。」
車は駅ビルの裏にある有料駐車場にあった。
車は宮川のもので、美和は促されるまま助手席に腰を下ろし、谷口は後部座席に座った。
スポーツタイプのセダンの中はこざっぱりとしており、割と綺麗に使っているようだ。手馴れた手つきでギアを入れ、車を発進させた。
宮川は車でここまで来ていたため、酒を控えていたようだ。
「美和ちゃん家どこ?」
ギアを変える手つきと軽快な足さばきに、ミッション車を運転できない美和は見惚れていた。

車の中でも宮川と谷口の会話は尽きない。まるで漫才をみているかのようで美和は度々笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりのような気がする。澤田と居るときは満たされているものの、余り笑っていなかった。
美和の家は隣の市の閑静な住宅街にあった。宮川の車が静かに美和の家の前に停車する。
「ホントにこんな遅くまでありがとうございました。」
「いいよいいよ。」
「今日はホントに、ありがとう。すごい楽しかった。」
美和の素直な感想だった。
「また飲みに行こうぜ」
「ウン!本当にありがとうございました。」
「鞄、入ったら頼むな。」
「了解!連絡します!」
美和はおどけて敬礼をした。
「気をつけて帰ってくださいね。」
宮川の車はハザードをつけて美和に挨拶すると、住宅街を後にした。
美和の心の中には何ともいえない充足感が広まっていた。一日立ち仕事をして、夜遅くまで飲んでいたのに美和の身体は軽かった。
頭の中から澤田の影が薄くなっていることに、美和はまだ気づいてはいなかった。


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