「海岸列車」(上・下)   宮本輝 著


 両親が離婚し、父親に引き取られ、その父を幼くして亡くし、叔父に育てられた兄と妹の物語。海岸列車とは、母親が住むという町をとおる列車のこと。この兄妹は、何かあると、この母が住むという町の駅のベンチから町を見る。そして母を思う。しかし、会いはしない。
 物語は兄29歳、妹25歳で、叔父を亡くす所から始まる。兄は、お金持ちの女性のひものような生活をしていて、叔父の経営する会社を継ぐことが出来る状態でもなく、その気もない。仕方なく、妹が、経営を引き継ぐことになる。社員50人ほどの会社だが、それでも重役達の社長の椅子をねらう陰謀などが渦を巻き、わかい妹は疲れ切ってしまうが、そこに登場するのが、もう一人の国際弁護士の戸倉陸離(とくらりくり)という35歳(妻・娘一人)の男性である。この男性の助けで、妹・かおりは経営者として、女性として、成長していく。そしてかおりだけでなく、兄・夏彦も戸倉の力で少しずつ成長していく、まあ簡単に言うとこういうお話です。かおりと戸倉の関係が、微妙な所がポイントと言えばポイントでしょうか。作者はあとがきで、まるでファッションのように、世間に不倫があふれている。そんな軽い不倫をあざ笑い、「不倫というのは命がけでやるものだ。トルストイ・ロレンス・近松みんな命がけだった。昨今の男女の下半身のだらしなさに少々腹を立ててみたかった。」そう述べている。
 いつになく一生懸命作品の説明をしていますが、これも面白いですよ。うーむ、悩んでいる人も立ち直る力がわくような、そんな小説です。小説の一つの正しいあり方のような気がします。戸倉が会社の経営を人に譲るかどうしようか迷い、やはりこのままやってみたいなぁと言ったかおりにこう言います。

 「自分は必ずモスクラブの会長として、北京で劉慈声と再会してみせるって決意したら、きっとそのようになるでしょう。」

 「決意ですか?」

 「そう決意です。このようにしたいと望むのと、こうしてみせると決意するのとでは、結果が違うんです。決意しなきゃあ」

そうなんですよね。世の中、こうしたいなぁ、こうだったらいいなぁで、ほとんどの人は終わっちゃうんですよね。そう、全てのことは決意から始まる。最近、私はそう思うようになりました。いや、前から決意の大切さは知っていたし、意識して決意してきたけれど、改めてこの小説を読んで実感することが出来た。そういうことですかね。決意するということは、人にやらされるのではなく、自分の意志でやると言うことです。「〜なぁ」という言い方は、私はそうしたいけど、世の中は甘くなくて、そうはいかないよという響きがあります。そうではなく、私はこうする。と決意することによって、責任が生じます。自分自身にです。誰が知っているわけでもありませんが、いい加減に放り出せなくなります。自分の意志で頑張ろうと思います。辛い時に踏ん張りがきくようになります。人に生かされる人生から、自分で生きる人生へと変換することが可能になります。まず、やはり大きな人生の上での決意というものを一つしてみることが、大切ですよね。前向きに、積極的に、明るく、はつらつとした生活、人生を送ることが出来る最高の秘訣かも知れません。

ケンモの読書感想文


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