「錦繍」 宮本輝 著 (新潮文庫)
この小説の特徴は、男女の二人の手紙のやりとりだけで物語が進行していると言うことだ。書簡形式の小説だ。私ははっきり言って、この手の小説はあまり読んだことがない。以前はこういう小説もあったのらしいのだが…。手紙だけというのはいろいろな意味で制約が多く、あまり使われなくなったと言うことでしょうか。まあ、形式はどうでもいいので、内容に話をもどします。
十年前に、ある事件が原因で、愛情を持ちながらも別れた元夫婦の間に交わされる手紙。その後、二人が何を考え、何をしたか。また、離婚をすると決めた時、何を考え、どういう意味合いで発言したかを時間が経っているからこそ話せる真の感情を吐露している、そういう手紙を交換するようになった。というのがこの小説の背骨、まあ構成というものなのでしょう。
この小説のテーマは、過去があるからこそ現在がある。過去によって現在が作られる。だけれども、未来までも過去によって決められてしまうものではないということでしょうか。現在の生き方ひとつで未来は変わるのだと言うことでしょう。人は、人生の転機に大きな失敗をしてしまうと、長くそれを引きずり、なかなか立ち上がれずに、過去に縛られ、過去を恨み、人を恨みして後ろ向きに生きてしまう、そんなときがあるのではないでしょうか。
将来を決める時、ちょっとした選択で大きく人生が変わることってあるものですよね。私はこれまでの自分の人生を、本当についていた人生だと思います。高校を選び、大学を選び、職業を選び、妻を選び、そして今に至るわけです。今にして思えば、決める時は本当に何の自信もなく、何となく決めていたのかも知れません。しかし、本当に大切なのはその選択そのものではないと最近思いました。一番大切なのは、その選択を正しい選択だったと思えるような結果にすること。これが一番大切なのですね。そのために、がんばれる選択。努力が苦痛にならない選択。やりたいと思う選択をすることが大切ですね。何でこれを選んでしまったんだろう。見る目がなかった。あの人が強引に勧めるからいけない。と後悔しても始まらない。
中国に来た当初、まだ本当に苦しくて苦しくて仕方がない時、何でこんなことになってしまったんだろうとは絶対考えないようにしようと思いました。それよりも、この一年をどんな時間にしようかということばかりを考えていました。私は、はっきり言ってあまり強い人間ではありません。なので、どうしてこうなったのかと、過去を悔やみ始めたら泥沼にはまってしまう人間なので、あえて前向きにプラス思考でということを意識しています。そう、自分の行った選択を正しい選択にとしていく過程は、本当にプラス思考の考え方と一致するのかも知れません。どんな人間でも、時には過ちを犯します。過ちという言い方が大げさなら、ミスを犯します。選択を誤ることもあるかも知れませんが、問題はその後の行動だと言うことです。その行動が正しければ、その過ちやミスや選択は、正しいものとなるのです。
人間は、時々刻々変わるものですし、周りの状況も時々刻々変わるものです。これで終わりということはありません。常に途中経過でしかありません。これからが勝負と、さあ頑張ろうと思うことが大切なんですね。いつになっても、何歳になってもまだこれからです。けして何をやるにも、いや、ほとんどのことはおそいすぎたと言うことはない様な気がします。私ももう一度、大学院で勉強し直そうかなとか、中国語を勉強してみようかなとか、まだまだ遅くないと思っています。
これが読書感想文かと言われそうですが、離婚という大きな人生の転機で、過ちを犯してしまった夫婦が、十年の歳月をかけて少しずつその過ちを、人生の糧に変えていく過程が、描かれていると思ってください。この離婚があり、今の生活がある。今の生活があるからこれからの人生がある。明るく希望を持って、前向きにそう考えられること。これによって、この元夫婦は離婚という出来事をひとつ乗り越えたと言うことになるのでしょう。読み終えた時には、この離婚は、良い意味で過ちではなかったと思えるような小説です。
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ケンモの読書感想文