夏の我が儘
「飛来骨!」
珊瑚の声と共に、もうすっかり聞き慣れた風を切る音が響く
「あとは私が・・・」
此方も同様、ジャラと数珠の音を立て、風穴を開く
「ふぅ」
かごめが安堵の溜息をついた
「よかった、誰も怪我しなくて」
「ったく、こんな皆でぞろぞろ来る必要無かったんじゃねぇか?」
犬夜叉が腕を組み気怠そうに言う
「有難う御座いました
日々この妖怪に苦しめられておりまして、御陰様で安心して暮らすことができます
大したお持て成しもできませぬが、ごゆるりとして行かれてくださいませ」
屋敷の中に案内される
此処の主人がお茶と和菓子を用意し、丁寧な挨拶をする
彼と入れ替わりに女主人が部屋へと入って来た
「浴衣、此方に置いておきますね」
「・・浴衣、ですか?」
かごめが不思議そうに尋ねる
「あら、家の人、伝えるのを忘れていたのね
今宵、この村の夏祭りが開催されますの
折角いらしたんですし、宜しければ遊びに出かけられませんか?
お風呂をご用意いたしましたので、汗を流して浴衣にお召し替えなさいませ」
用件だけさっさと言ってしまうと彼女もまたいそいそと部屋を後にした
「かごめちゃん、どうする?」
珊瑚が尋ねる
「んー・・・折角だし言ってみようかな
珊瑚ちゃん、どうする?」
「かごめちゃんが行くなら行くよ」
「本当?」
二人は貸し付けられた浴衣を手に取り、浴場へと向かった
「犬夜叉、お前はどうしますか?」
女子二人が去った後、弥勒が口を開く
「けっ、おれは興味ねぇからいい」
犬夜叉は畳の上に横になった
「私はお二人の護衛に・・・」
「他の女ひっかけるんじゃないのか?」
一緒に妖怪退治や旅を続けていれば、鈍感な犬夜叉でさえ、いい加減性格弥勒の性格は分かりきってしまうのだろう
弥勒は何も言い返せずに大きな溜息をついた
「犬夜叉、本当にいかないのね?」
「じゃぁ私たち行ってくるから」
かごめと珊瑚が犬夜叉を誘おうと試みるが、犬夜叉は此方に背を向けたまま無反応であった
「これ以上言っても多分聞かないもの さ、行こう?」
かごめの言葉に促され、2人は屋敷を後にする
屋敷に残った犬夜叉の頬が紅く染まっていただなんて、誰も知らないことだった
「この時代でも意外に賑やかにやるものなのね・・・」
かごめが感心したように言う
「確かに、私もこのような祭は初めてです
余程裕福な村なのでしょう・・」
「私・・・祭なんて生まれて初めて」
珊瑚がポツリと洩らす
――今まで、生業だからって、殆ど山の中に隠ってたもの
「犬夜叉もさ、来ればよかったのにね、かごめちゃん」
ドキッとかごめの胸が高鳴る
「でも犬夜叉、1度行かないって言ったら・・」
「そうじゃなくてさ」
珊瑚が、わかってるんだから、といった表情を見せる
「見せたかったんでしょ? 浴衣・・・」
「・・・・・」
「珊瑚・・・もしやお前は、私に見せたかったのですか?」
「え・・・・・・・え゛・・・」
1回目の呟きは頬を赤らめて、2回目のそれは目を吊り上げて・・・
何が起こったかは言うまでもないが・・
――珊瑚ちゃん、弥勒さまと二人で居たいだろうし・・・
かごめはそっと二人の傍を離れた
二人の会話は盛りあがる一方で、かごめが遠慮しただなんて気づく筈もない
「ふぅ・・・」
かごめは河原へと来ていた
ゆっくりと地に腰を下ろす
目を瞑ると、河のせせらぎが直ぐ傍で感じられ、心が落ち着いていくのがわかった
夏の夜に相応しい、爽やかな風を全身で浴び、辺りには彼女の柔らかな香りが漂う
――私だって偶には一緒に楽しもうって、そう思ってたんだけどな・・・
「おい」
かごめは『犬夜叉の馬鹿』と叫ぼうとした口を慌てて押さえる
「い、犬夜叉!? どうしたの? 行かないって言ってたのに・・・」
「よかった・・・何処にも行かなくて・・」
かごめの手を引きぐっと自分の元へと引き寄せる
「犬夜叉?どうしちゃったの?」
「彼奴ら2人で戻ってきたから、慌てて探しに来たんだ」
「ごめん・・・」
かごめは犬夜叉の背に手をそっと回した
「かごめ」
「何?」
「ゆ・・・浴衣、すげぇ似合ってる
いつものかごめもいいけど、今もすごくいい・・・」
「え――」
かごめが上げようとした頭を犬夜叉は手で軽く押さえつける
自分の表情を見られまいと・・・
「ずっと言おうと思ってたけど・・恥ずかしくて言えなかった
こんなの性にあわないだろ?」
「ううん・・・ありがとう 犬夜叉に言って貰えるのが一番嬉しいよ」
「あの、かごめ・・・その」
暫く経って犬夜叉がやや遠慮がちに言う
「何?」
「そろそろ、離してもいいか・・?」
「なんでよ?」
「だからその・・・ひ、人が・・・」
土手から数人の村人が、此方を楽しそうに見下ろしていた
「な、だから、その・・」
「・・・・・・や・・」
「え?」
「いいじゃない、私はずっとこうしていたいんだから」
夏の夜はまだまだ終わらない
<管理人より>
えっこ様の暑中見舞い小説ですvv
かごちゃんの我が侭…大胆でありながら可愛らしくツボですvv
やっぱりえっこ様の小説ゎ素晴らしいです(>_<)
ありがとぉございましたッvv