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「絶対嫌だ!」 人で溢れ満ちた光景を目の当たりにして少年が呟く。 こんな人混み戦国では天変地異でも起きない限りまず有り得ないであろう。 年に一度の祭りの最終日、町内の人を含め幾多の人々が訪れる。 日暮神社の祭りは以前渋々行ったが、 その倍以上の人の多さに思わず立ち止まる犬夜叉。 どうして女は賑やかな行事を好むのだろうか。 唯言えるのは此のかごめも普段は年頃の娘だと言うこと。 そして己も。 好いた女と距離を近づけたいと想う心は男ならば持ち合わせている事が多い。 ほら彼方でも、先程までは痛々しい気を発し 誰一人と寄せ付けなかった金の短髪男。 その恋人が現れたと同時に無邪気な子供の様に笑顔になった。 ―易い奴… 自分もその一人だと言うのに。 と、彼方に意識が囚われていた所為で かごめが少し前を歩いて居ることに気付き見失わぬ様追いかけた。 追いついたと同時に後方から駈けてきた男がよそ見をしていた為 かごめに接触した。 男は謝罪の言葉もかけずその儘駈けて行ってしまった。 かごめはと言うと、その反動で前に倒れてしまいそうになっていた。 「危ねぇっ!!」 間一髪かごめの躰を支えた犬夜叉はその躰を抱き締め溜息を吐いた。 そもそも何故此の彼が他人の目に障らないのか。 それはかごめの母が好意で買い寄せた甚平を着ているから。 現代の服を嫌っていた犬夜叉に合わせ、深緑の甚平を買って着せたのであった。 しかし流石に犬耳と銀髪は隠しようがない。 それもまた偶然と言うか神の悪戯と言うのか、 今宵は月が昇らなかった為、今は漆黒と化して居たのだった。 あとはそれを結い、人目に障らぬ姿になったと言う訳だ。 一方の二人はと言うと祭りの場を少し離れ丘を見つけ歩いていた。 「あんな場所金輪際お断りだからな…」 「良いじゃない、犬夜叉と二人で居られるんだもの」 ―こいつはさらっと凄いこと言いやがる 犬夜叉はシュルと髪留めを解き一本に束ねられていた髪を解放した。 それを見たかごめも御団子に結ってある髪を解こうと手をかけた。 すると… 「お前は解かなくて良い」 近寄り後ろに廻されたかごめの手を握り行為を止める。 「どうして?」 「…どうして…って」 理由に担う言葉など頭に浮かぶ由もなく、 ただかごめの手を握る己の手を見下ろしていた。 そんな犬夜叉を覗き込み微笑むかごめ。 「分かったわよ…じゃぁ」 そう呟き向き合う状態で犬夜叉の髪に触れる。 「髪留め貸して…ねぇ…聞いてる?」 かごめの白い首筋が目の前に有り変な緊張感を覚えた。 そして優しく抱き締めた。 「犬夜叉…?」 「…厭なら振り解けよ」 少し力を緩めてみると、振り解くどころか犬夜叉の胸に身を寄せた。 「…壊れるくらい…抱き締めてよ…」 「お前なら本当に壊れそうで…出来ねぇよ…」 ―まるでかごめの世界で見つけた小さな【硝子】と言う置物の様で… 「犬夜叉を…感じたいの」 その言葉に思わず少し腕に力が篭もる。 「大切に…してぇんだよ」 犬夜叉が渋々祭りに付き添う理由は かごめにもしもの事がないように願う心からであった。 いざとなれば救う事くらい人間の身であれども犬夜叉にとっては易い事に過ぎない。 そしてもう一つの理由が此処にある。 「お前の浴衣姿が…一層お前を綺麗にするから…」 よくもまあこんな台詞が彼に言えたものだと、 半ば関心を抱きながらかごめは嬉しさに満ち溢れていた。 「…ほんと?」 「偽りを告げてどうする?」 躰を離すと目が合った。 犬夜叉の指がかごめの唇をそっとなぞりその指を己の唇にあてがう。 そして微笑むと、かごめは頬を紅く染め、瞳を潤わせる。 丘の下の方では囃子が鳴り止まずに響いていたが、二人の耳には入らなかった。 微笑んでいた犬夜叉の顔は一変して大人の表情になり、かごめの顔に近づく。 思わず瞼を閉じると優しく唇が触れた。 一度離し、二度目は角度を変えて。 下からの風が犬夜叉の長髪をかき揚げ、二人を隠した。 名残惜しそうに唇を離すと、かごめは首を振った。 「…止めないで…」 そう呟き犬夜叉の頬を包むと自ら唇を寄せた。 ―私…こんなに大胆だったっけ… 目を見開く彼を後目に暫く唇の感触を味わっていた。 そして満足したのかゆっくりと唇を離した。 「…かごめ…」 気付けば祭りは終わっていた。 祭りの雰囲気をかき消すかの如く男女の陰が目立つ道を 手を繋ぎゆっくりと歩いて行った。 それは二人にとって忘れられぬ思い出となった十五の祭り。 |
〜後記〜
今回違った表示に挑戦してみました。
実ゎ金髪の兄ちゃんゎ実際私が祭りで見た人なのです。
いかにも怖そうな人が彼女が来たと同時に一変して…
まるで別人でした笑。。
今回祭りネタが二つあったので被らないか心配でしたが
なんとか被らずに終わらせることができました。
企画参加ありがとぉございましたッ。