交わすことなき約束を




「ねぇ楓おばあちゃん」

陽も高く昇るころ、朝から村人と忙しそうにしていた楓にかごめは尋ねた

「今日、何かあるの? 朝からずっと動きっぱなしじゃない・・・」

かごめは小屋の中で参考書を片手に勉強をしていたが、外と内とを何度も往復している楓を見、
これはただ事ではない、と感じていた

「今日は・・・桔梗お姉さまの命日じゃよ 村では毎年供養の式を執り行っておる」

楓はそうポツリと呟き、また小屋を出た

小屋の隅に居た犬夜叉が、ピクリと反応するのがかごめには感じ取れた



「楓おばあちゃん」

かごめは後を追い、何かできることはないか、と尋ねた

「私にできることなんて全然ないだろうけど・・・」

そこまで言って、かごめは両手をパンと合わせた

「ねぇ、お花とかお供えするんでしょう? 私が探してきてもいいかしら?」

「花か・・・そういえば誰にも頼んでいなかった じゃぁ、かごめ、頼んだぞ」

かごめは楓に一旦別れを告げ、取り敢えず森の中に入って行った





本当は・・・私がやるべきじゃないのに・・・

私逃げてる―――
あの場にいたら、きっと犬夜叉のこと意識しちゃうし、
犬夜叉のためにも私はあの場に居るべきじゃなかったのよね
桔梗の命日―――
犬夜叉が桔梗と憎しみあって、封印された日
犬夜叉の時間(とき)が止まった日
犬夜叉にとって忘れちゃいけない日


考えれば考えるほど、気分は沈んでいく








「・・・め、かごめ!!」

思考が止まった
否、止められた

肩をぐっと後方に引かれたかごめは、多少よろけたものの、
何かに支えられ、そのまま倒れこむ、といったことにはならなかった

「犬夜叉・・・・」

「ったく、どうしたんだよ?
 さっきから何度も呼んでるのに、一人でどんどん先に進みやがって・・・」

「ごめん・・・」

「べ・別に謝れだなんて言ってねぇ!!」


かごめは正面に立っている犬夜叉の顔をじっと見た
犬夜叉は一瞬かごめと目を合わせたが、直ぐに横を向いて言う

「お、お前が一人で花摘みに言ったって楓婆に聞いて、一人で森ん中うろうろするのは
 危険すぎるから、ついてきたんだが・・・」

「あ、ありがと」

頬を紅潮させる犬夜叉を見ても、今日は何故だか癒されなかった
普段ならそんなことないのに・・・
桔梗の命日、ってだけでどうして私がこんなに思い悩む必要があるのかしら・・・?


「さっさと摘んで帰るぞ」








犬夜叉は彼なりに思い悩んでいた


かごめのヤツ、どうしたんだよ
おれ何かしたか??


犬夜叉の頭は必死に考えていた
落ち着いているというか、物静かというか、何か迷いがある彼女を見るのは久しぶりで、
正直戸惑ってしまっている
何が原因か分からずに、でもそれを尋ねることはしない
彼女を困らせることはあまりしたくなかったから――
気づかぬうちにしていることも度々あるけれど、今は本当に覚えがない



かごめの考えていることがこんなにも判らないことが、何とも歯痒かった
所詮、彼女の想いは自分には届かないものなのか、と不安になった







「ねぇ、犬夜叉」

不意に彼女の声が耳に届いた

彼女は花を1本1本丁寧に折りながら言う

「私が死んじゃったら・・・
 犬夜叉は、桔梗のことを思い出すように、私のことも思い出してくれる?」

「な・・・・」

言葉が後に続かなかった
意外すぎる彼女の台詞になんと反応してよいものかわからなかった


「犬夜叉は桔梗に言ったよね、『どんな姿になろうとも、おぞましいとは思わない』って。
 私がどんな死に方しちゃっても、死んだ後にどんな姿になっていても、
 私が居たってこと、時々は考えてくれる?」

一度も言葉を止めず、聴く側からすればすんなりと口からそれを出したかごめに対し、
犬夜叉は驚きを隠せなかった



「んな、簡単に死ぬなんて・・・」

こうとしか言えなかった

何が其処まで彼女を追いやっているのか、
どうして此処まで彼女がこんなに考えているのか、
見当もつかなかったから・・・


「人は、生きてる間はその存在があるから、皆覚えていてくれる
 会ったときに、あぁあの人だって思ってくれる
 でも、死んじゃったら? その存在がこの世から消えてしまったら?
 そうしたら、人は誰かの記憶の中でしか生きられない
 だから私は、死んでしまって皆が私を忘れてしまっても、犬夜叉の中で生きていたい

 人ってさ、何時何が起こるか分からないでしょう?
 奈落との闘いの中で、命を落とすかもしれない
 奈落とはなんの関わりもない妖怪に襲われて命を絶つことになるかもしれない
 だから、私がそうなる前に、約束しててよ・・・」





パサリ、とかごめの手中から花の束が落ちた


「んな約束・・・できねぇよ」

かごめを後ろから強く抱きしめたまま、犬夜叉は声を低くして囁いた

「おれがお前を守る  簡単にお前を死なせたりなんかしない
 だから、その約束は出来ない」

はっきりと告げた










   どんなにあんたが強くって、私のこと守ってくれてても、何時か私は死んでしまう
   だから約束してって言っているのに、どうして分かってくれないの?






















「じゃぁさ、おれがお前より先に死んだら、お前はおれのこと忘れないって約束できるか?」

沈黙を破ったのは犬夜叉だった





「そんな約束、できるわけ・・・・」

かごめは此処まで言って口を噤んだ



自分が出来もしない約束を、私は彼に強制しようとしている

余りに我が儘過ぎる自分の考えに呆れてしまう


犬夜叉のこと忘れない自信はあるけれど・・・
けれど・・・・・・

犬夜叉が私より先に死んじゃうなんて、考えられない――
ずっとずっと、傍に居たい


永遠の別れがくることなんて、今は考えたくない
だから、あんたは拒否したんだね・・・



犬夜叉のそんな想いに気づかないでいたなんて・・・・・
自分の本当の想いに気づかないでいたなんて・・・・・







「私って本当に馬鹿みたい・・・」


ポロリと口から言葉が零れた

それと同時に眼の辺りが熱くなるのを感じ、つうっと涙が頬を流れた





「御免ね、犬夜叉・・・」

かごめは犬夜叉の方に向き直り、火鼠の衣をぎゅっと握りしめた


「なんで・・・・謝る?」

優しい声が哀しかった


「だってっ・・・・
 あんたに・・・辛い思いさせちゃったからっ・・・」



「んなの気にすんなよ」





   どうしてこんなにも、貴男は優しくしてくれるの?
   何でこうやって慰めてくれるの?







「お前だって辛かったんだろ?」






後は惟、何も言わずに優しく抱きしめるだけだった

































2人は一時中断してしまった花摘みを終え、帰路へと着いた


「私ね、嫉妬してたのかも・・・」
立ち止まり、まだ赤い眼を擦りながらかごめが言う


「嫉妬?」

「うん・・・桔梗にね、ヤキモチ妬いてたと思う
 だって、あんなにも犬夜叉に愛されてる桔梗が羨ましいもの――」



「おれはかごめだって桔梗と同じくらいに好きでいるさ」

我ながら古い台詞だと思いながらも言ってみた
自分の声が言ってるんだと思ったら、照れくさくなった





「同じくらいじゃ不満よ
 だって、私こんなに犬夜叉のこと好きなんだからっ」


言うが早いか犬夜叉の首に手を回し、思いっきり背伸びして―――
















彼に口づけた






























<END>








 <管理人感想>

 いやぁ私がえっこ様の企画小説のリクで【犬かごシリアス系】を頼んだところ
 こんな素敵な小説を書いてくださいました。。
 文才有り余ってると言う感じがひしひしと伝わってくる小説ですvv
 えっこ様ありがとぉございました。。。