綾辻行人
  「十角館の殺人」でデビューし、「新本格」といわれる現代の本格物ブームを巻き起こした。確か「綾辻以後」などと呼ばれるくらい、彼のデビューは衝撃的だったらしいです。私は綾辻行人氏の小説内容はもちろん、映像を見ているかのような文章や、雰囲気がとても好きです。


「十角館の殺人」 講談社文庫  評価A
 大学のミステリ小説研究会の主要メンバー男女7名が、角島にある「十角館」にやってきた。これは、謎の死を遂げた変人建築家「中村青司」が建てた物だった。1週間外界の接触がない無人島上の奇妙な館で起こる殺人劇。
 私は、有名なアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」よりも先にこちらの作品を読んだので、かなり衝撃を受けました。世の中にこんなに面白い探偵小説があったのかと思ったくらい。「そして誰も〜」との大きな違いは、小説の中で現場と本部(島と本土)が交互に章立てされており、本土には安楽椅子探偵がいるということでしょうか。でも、このことがミスディレクションとなっていたとは。そして、「何だかマニアックでくすぐったい」と感じた登場人物たち全てが伏線だとは、やっぱり何度か読み返してみてもすごいなと思いました。


「水車館の殺人」 講談社文庫 評価B
 綾辻行人氏は、必ずあとがきをつけるそうなのですが、2作目のこの作品には、「館シリーズ」を書くいきさつが書かれていました。「連作にするのなら探偵役・島田潔という名前をもっと凝った名にすればよかった」というようなことをおっしゃっていましたが、氏の師である島田荘司氏と、彼の代表的登場人物である「御手洗潔」からとったのかななんて、思いました。
 辺鄙な場所にある水車館に住む、マスクに手袋、車椅子の主人とその妻の美少女。去年起こった未解決事件の真相を求めて1年後、島田潔が水車館を訪れる。そのため現在と過去が交互に書かれています。
 評価をBにしたのは、読後感がちょっ気味悪かったからです。後から読み直すと、推理小説の技が随所に散りばめられていて、それが全く違和感も矛盾もないのです。ずっと後にサリンジャーの「歯と爪」を読んだのですが、「あ!」とこの作品のことを思い出しました。でも、こちらの方が面白いです。


「迷路館の殺人」 講談社文庫 評価A
 これは、「作中作」となっています。病に付している島田のもとに届けられた1冊の本「迷路館の殺人」。もう、ここから既に作者にやられました。私のかなりお気に入りの1冊です。
 寡作で偏屈な大作家・宮垣葉太郎氏が隠居した「迷路館」に編集者とその妻、弟子の小説家たち、評論家、
そして島田潔が集まります。宮垣氏は、弟子たちにこの館に篭り、迷路館を題材とした推理小説を書くようにと、自分の財産を賭けた競作を言いのこします。そこで始まる大量殺人・・・・。
 迷路館の図面を見たときに「なんじゃ、こりゃ。館シリーズももうネタきれて、こんな複雑な建物を造ったのかしら」と失礼なことを思ったのですが、とんでもない。すっごく重要な意味が網羅されていたのです。暗号解きもあるし、最後にはあのトリックが明らかになります。1冊で何度も「やられた!」と思えるおトクなミステリ小説です。


「時計館の殺人」 講談社文庫 評価A
 第45回日本推理作家協会賞を受賞されています。
 ミステリ(これは超常現象など)系の雑誌が、霊能者に霊と交信させる企画を立て、雑誌社3名と大学のミステリ研の学生たち数名が、時計館に3日間こもることになった。この館では、数年前人死にが相次いだという。
時計だらけのこの館で次々と起こる無差別な殺人事件の恐怖。
 読んでいるうちに、「時計館」「外界と謝絶(日光すら入らない)」といったところで、あることを思いついたのですが、それが内容にどう生かされているのは結局わからず。そして、過去の謎と館主人の遺した詩の意味など、ボリュームある内容なのにあっというまに読み終えてしまいました。ただちょっと動機が「?」と感じたりもしました。でも、そんな細かいことより、物語の魅力の方が大きいでしょう。


「黒猫館の殺人」 講談社文庫 評価A
 館シリーズの中でも、かなり面白いと思います。6作目で、今のところ単行本化されている最新作です。
 この作品では、「十角館の殺人」「時計館の殺人」で出てきた江南孝明が島田潔こと推理作家・鹿谷門実の担当編集者という役割になってます。 かなり登場人物の背景も確立されてきて、また2人の人格や性格もよく見えてきて次回作へのステップと感じたのですが・・・。
 火事に遭い記憶を失った老人が、唯一の身の回り品である「手記」を持って鹿谷を訪ねてきます。 その手記を頼りに、老人の身元判明のヒントとなるであろう「黒猫館」を探します。物語は手記と現実とが交錯しながら進んでいきます。私の故郷北海道、しかも第2のふるさと釧路などが出てくるので、「そうそう」と 思いながら読みました。 手記の中の「こんな世界の果てに」という文などは、「むむ!」と思ったりもしました。これも伏線だったとは・・・。そして、北大がモデルであるだろう札幌の大学、しかも理学部がでてきたときはつい満面の笑みになってしまいました。今作品は、珍しく行動的であちこち聞いて回ったり見て回ったりしているので、今までとは違った持ち味になっています。  ユーモアも交えてあり、館シリーズの中で一番明るい作品だと感じました。 最後の謎説きは明快で、「あっ」と思う連続でした。まさか、ああいうトリックだとは。

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