東野圭吾
私の最も好きな作家です。大阪出身。学園推理物でデビューし、シリアスなSFタッチなものや社会問題を扱ったもの、お笑いものまで多才な作品を書かれています。理系の人間らしく、緻密な論理構成やしっかりした伏線、簡潔で適切な文章が魅力だと私は思います。
「回廊亭殺人事件」 光文社文庫 評価A
莫大な財産を遺して亡くなった実業家の遺言状公開に、遺族や関係者が旅館に集まることになった。
その旅館の名は「回廊亭」。 「回廊亭」という閉ざされた空間での限られた登場人物。そして、「老婆に扮し」回廊亭に現れる亡実業家の若き秘書。この元秘書は回廊亭での火事で亡くなったと思われていたのだが。
舞台設定も読む前からわくわくさせることばかりです。「扮する」ということはいつかはばれるものであり、読み手も終始緊張してしまいます。、さらに殺人事件が
起こり、火事の意外な真相が明らかになって・・・。
この小説を初めて読んだ当初は推理小説初心者だったので、心底小説に使われていた手法に驚き、何度も伏線を読み返しては納得したものです。ハッピーエンドは期待できない始まりですが、結末はやはりもの悲しいです。でも、東野圭吾氏の小説をもっと読みたいと、私に思わせた最初の1冊であります。
「放課後」 講談社文庫 評価A
第31回江戸川乱歩賞の作品で、氏のデビュー作でもあります。確か当時作者は27歳。現在の私と同じ年です。すごいなあ・・・。
舞台は女子校。 主人公は「マシン」とあだ名される数学教師前島先生で、アーチェリー部の顧問でもあります。 彼が学校内で幾度か命を狙われるところから物語は始まります。 最初に読んだときは、地の文がずいぶんかっこつけたニヒルな感じと思いましたが、小説はこの数学教師の1人称による語り口なので、性格を浮き彫りにするような効果をねらったのかなあ。 それとも、若い作家のデビュー作だから、文章が堅いだけなのかも。 また、一癖もふた癖もあるような女子高生が多々登場します。 彼女たちの存在の位置付けも意味深な感じがします。 そして、運動会という学校ならではの行事での派手な殺人事件、物理的トリックなど、内容が濃いです。 女子高生たちも1人1人の人間として書き分けがしっかりされており、またその年齢ならではの発想や価値観など、うんうんとうなづけました。 この作品で最も評価を受けた(と私が思っている)のは殺人の動機です。 斬新的な動機なのですが、決して突飛ではなく自然と受け入れられました。 やはり論理構成もしっかりしているためだと思います。
「鳥人計画」 新潮文庫 評価A
スキージャンプを題材にした小説。 1998年の長野五輪直後は、新聞にも紹介されていました。 私は北海道育ちということもあり、冬はよくテレビでジャンプを見たのでとても身近な競技だけれども、この小説が書かれた当時はまだまだマイナーなスポーツだったと思います。 でも、ただマイナースポーツを題材にしたというだけでなく、ジャンパーの心理などもよく書き込まれていて、またそれが小説の深さにもなっており、読むべき作品です。
日本ジャンプの期待の星、楡井選手が毒殺され、すぐに彼のコーチであった峰岸が容疑者となる。 しかし、どうしても動機がわからない。 また、峰岸が取調べ中も気にしている、杉江選手の最近の飛躍的な実力の伸びの秘密は何であるのか。
私が思う話の魅力は、その動機の深さについて。 この動機について読み手が納得するための、ジャンプ界背景や選手の心理がしっかりしているので、ストーリーに重さがあり安定感があるのだ。 また、楡井選手の性格なども欠かせないファクターなのだと思う。 途中でジャンプ時の加速度のグラフや角速度の変化のグラフなどがでてくる。 これも、「スポーツ科学」自体が伏線となっていることをさらに重要付ける意味があるのかなとも、思った。 2002/6/5
「超・殺人事件 推理作家の苦悩」 新潮エンターテイメント倶楽部 評価A
とても笑いました。 うけまくりでした。 「笑い」をテーマにすると、難しいのに評価が低いときいたことがあります。 確かに、私も読みながら「また、フザケタことを・・・」と思ったりもしましたし。
・超税金対策殺人事件
一番うけたかも。 「氷の街の殺人 第十回」は、これでもかこれでもかとめちゃめちゃになっていくので、その度にお腹をよじって笑ってしまったのだった。
・超理系殺人事件
私も似非理系人間だわ・・・。 「地球物理学に関する記述はないのか」と探しながら、また理解に努めるように読んでしまった。
作中作品の抜粋文章の「光源Aと反射鏡Cがある系を考える。」で笑いのどつぼにはまってしまった。 最後にはオチもあるし、ちゃんとしたストーリーになっているのがさすがである。
・超犯当て小説殺人事件
これは普通の短編小説として読んでも、十分面白いです。 問題篇解決篇があって、クローズドサークルものがテーマの凝った本格物を綺麗にデフォルメしてるなと思いました。
・超高齢化社会殺人事件
この本の中では、「本離れ」がテーマなのかなと、ふと思いました。 しかし、近い未来日本はこんなふうになるのかな。
・超予告小説殺人事件
売れない小説家の悲哀が感じられました。 ラストの断崖絶壁のある景勝地というのも、2時間ドラマなどを彷彿させて「芸が細かいな」と思いました。
・超長編小説殺人事件
確かに、最近の小説は長く長くなっているし、いろいろな情報を盛り込んでいますね。 それがまた、「読み応えがあるな」と満足したり、「原子炉に携わる仕事って・・・」と物知りになった気にさせてくれたりもします。 ちょっと前までのあっさりしたストーリー展開中心の小説は、物足りなく感じたりもします。 作家ってだんだん大変になるのですね。
これもまたうけました。 特に「曲球(改訂後)」。
・魔風館殺人事件(超最終回ラスト5枚)
この本では3ページだ。 物々しい館の名前とか時計台の上での事件など、本格物を揶揄ってるなと思いながら、伏線が巧妙な東野氏もこんなにラストで苦しむことあるのだろうかなどと思いながら。
・超読書機会殺人事件
書評って面白いね。 同じ作品でも「おべんちゃら」と「酷評」では、こんなに違う感想になるのね。 とにこにこしながら読んでいたのだけれど、「売れればいい」駄作や、いい作品=売れるとは限らず人目に触れないこともあるなど、悲しい本の世界があるなとだんだん心穏やかでなくなってきた。 「読書って何だろう」と、実は深刻なエンディングになっている。
私もいい本だときいても、純文学を読む気にならないし、明治の文豪の書いた作品は、夏目漱石しかまじめに読んだことはない。
本当の本好きとはいえないな。 自分を「読書家」と思ったりはしないでおこう。 '02/6/14
「あの頃ぼくらはアホでした」 集英社文庫 評価A
とても笑いました。 うけまくりでした。 以前、落語を聴きに行ったとき、某師匠がおっしゃっていたのですが、聴き手(読者)が先の展開を読めるように誘導する話し方(書き方)をすると、面白く感じるらしいのですが、このエッセイは確かにそのとおりです。 やはり伏線が絶妙なのでしょう。 それも、「いかにもこうなるんだな」と思わせるのではなくて、淡々と綴ってあるところが読んでいて気持ちがいいし、「やられたな」と笑えるのです。
前半のおそろしい中学校の話などは、現代の陰湿(らしい)中学校と違ってからっと楽しめました。 怪獣の話は残念ながらよくわからないけれど、誰でもはまっているものがあれば、それをくどくど書いたり変なこだわりがあったりすると思うのですが、東野氏の文体はやはりさらっと書かれていて、興味ない分野でも楽しく読めるのです。 プロの作家だなと思います。
私が好きなのは、やはり大学時代の「似非理系人間」の話でしょうか。 私も同じように自分のことを「理系」人間だと思い込んで理学部に入り、マクスウェルの電磁気学で挫折したので、めちゃめちゃ親近感がわきました。 もちろん私のような者は学生実験では記録係に徹しました。
会社員時代の話ももっともっと聞きたいものです。 東野氏はまだ若くて、同僚だった人々がまだ在職中だから、あと20年くらいはエッセイに書かれないかな。
それから、想像していたより「普通」の少年らしいのが意外でした。 スポーツができて背が高くて、ガールフレンドがいて、部活では必ず主将をつとめるほど人望がある。 一番作家にならないタイプに思えます。 しかも、ひねくれた結末の作品が多いし。 でも、エッセイでは謙虚で客観的です。 やはり「プロ」の作家らしいなとあらためて思いました。 ところで、大阪ってこわいところなのね。 '02/6/18
「トキオ」 講談社 評価B
うーん。 親子の情愛をSF的に描く。 「秘密」と同じ技だなと最初に思ってしまいました。
ストーリーや精緻な文章は、やはり面白いです。 拓海がプロローグと、内容でずいぶんキャラクターが違うと思ったのですが、それもだんだん明らかになっていきます。 若い拓海の前に現れたトキオは、いいやつでずいぶん賢く、何度も窮地を逃れます。 しかし、拓海はしょうもない男だったんだなと思ってしまいました。
面白いんだけれど、なんとなくいまいちだったのは、ヤクザとの駆け引きや千鶴の心変わりがよく理解できなかったためかな。 それに、運命だといっても拓海だけでなく、麗子も実はトキオに助けられていたなんて、ちょっとできすぎのような気もします。
東野氏の作品も、最近あっさりしてきたような感じがします。 2002/8/1
「犯人のいない殺人の夜」 光文社文庫 評価A
東野氏は、長編もそうだが、短編も傑作が多い。 これは、7編収録されているが、どれも粒揃いである。
・「小さな故意の物語」
題名が秀逸である。 短いのに引き込まれ、最後に「あっ」と言わせる。 高校生といえども、1人の大人として描かれており、人物造形もしっかりしているので、より引き締まった作品になっていると思う。 何度読んでもすごいと思う話である。
・「闇の中の二人」
複雑な中学生男子の心理がよく描かれていて、シリアスなラストまで一気に読んで納得してしまう。 最後の一文がまたブラックでいい。
・「踊り子」
これもよくできているのだが、ちょっと救いがなくて悲しい。
・「エンドレス・ナイト」
何だかわかる気がする。 「大阪が嫌い。」 大阪出身の作者だからこそ、書ける描写、ストーリーだと思う。
・「白い凶器」
私もそれがとても苦手なのだ。 最初の伏線も絶妙だし、警官たちの推理なども論理的でいい。
・「さよならコーチ」
結構すごいトリックだと思う。 おいつめられるところなど、静かだけれど妙な迫力とともに読める。
・「犯人のいない殺人の夜」
見事にやられました。 この短編集の表題を飾るだけあって、伏線やトリック手法などとても巧妙で、すごいです。
読む価値ある短編集です。 2002/9/3
「虹を操る少年」 講談社文庫 評価B
白夜行で顕著に見られる、他人の視点から主人公を浮き彫りにするような手法がこの作品でも見られると思う。
光を発しながら生まれた光瑠(ミツル)。 彼の天才ぶりは幼少の頃から発揮されており、その事柄は両親の視点から語られる。 「天才少年」というのは、その存在だけで魅力的で、その頭脳の不思議さを知りたいと思う。 光瑠についての描写はその好奇心を存分に刺激するので、前半のストーリーはどんどん読み進んでしまう。
光瑠が高校生くらいになり、何かを始めだす。 光をメロディにのせて表現する「光楽」により若者にメッセージを発するのだ。 「光楽」に魅せられた若者たちと、敵視する大人たち。
面白いことは面白いのだが、「進化」をテーマにし、「若者VS大人」のような図式になってしまったことが、なんとなく最初の期待からずれてしまった。 私の興味は天才光瑠にあったのであって、彼の目論んだ壮大なスケールの進化にあったのではなかったと思った。 ラストもちょっと発散した感じで読後感もいまいちすっきりしなかった。 2002/9/12
「どちらかが彼女を殺した」 講談社ノベルズ&文庫 評価A
最後まで犯人はどちらか明かされない。 有名な東野氏の推理小説である。
交通課の警官、和泉康正の妹園子が殺された。 現場は一見自殺に見えるが発見者の康正は殺人だと見破り、自分の手で犯人を見つけようと、他殺の証拠を隠滅する。 容疑者は2人にしぼられる。 また、担当の刑事加賀恭一郎は康正の隠蔽にもかかわらず他殺だと気づき、康正の復讐を思いとどまらせようとする。
動機や人間関係をシンプルにし(それでも十分に納得できるし、緻密に描かれているのだが)、推理そのものを主題としている意欲作である。
私は6年前ノベルズが出たときに初めて読んだのだが、犯人を2人のうちどちらか特定できないようにうまく書かれているのだろうと思い込み、犯人がわからないラストで納得していた。 ネットなどでずいぶん議論されたらしいが、個々の推理小説の楽しみ方があるわと思って、自分の頭では考えたことがなかったのだ。
3年後、解説とヒントが袋とじで入った文庫が発売され、それも買ってしまった。 ノベルズには書かれている重要なヒントが文庫では削除されているという。
丁寧に読み直すと、伏線が巧妙におかれており、最小限のヒントも散りばめられている。 かなり気を遣って書いた描写だろうと思うが、リーダビリティがよいのでついさらっと読み過ごしてしまう。 そしてケムに巻かれてしまうのだ。 この文章力はやはりすごいと思う。
ここからネタバレ
果たして右利きと左利きで、袋の破り方が後から見てわかるくらい違うのかとやってみた。 私は右利きであるが、まっすぐ破る癖があるので、左側から破いたかどうかはわからない気もする。 でも、この点が重要なのだ。
私には文庫の巻末ヒントがなければわからなかった。 私のオットはノベルズの段階で気づいたらしいので、さすがである(ちょっとノロケ)。
この作品は東野作品の中でも傑作のひとつである。 2002/9/12
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