桐野夏生
「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞を受賞。 '97年「OUT」で日本推理作家協会賞を受賞。 '99年「柔らかな頬」で直木賞を受賞。
「OUT」 講談社 評価B
桐野夏生氏の作品は、以前「顔に降りかかる雨」を読んだことがあった。 私好みじゃなくて、あまり好きになれなかった。 「OUT」はドラマ化されているし、もっと読みやすいだろうと思ってチャレンジしたのだった。 かなり面白かった。 でも評価をBにしたのは、クライマックスがちょっと不納得だったから。 私はちょっと苦手だけれど、すごく力強い作家だと思います。
東京都下(東大和あたり)に住み、弁当工場で夜勤パートをする4人の主婦。 主人公の香取雅子の描写はいい。 「怖い」「不思議な人」「苦手だけれど、頼ってしまうし目が離せない」と思わせる人物だ。 他の3人の主婦もそれぞれの人格や生活環境など、造形が見事である。 幸せではないという共通点をもつ。
1人の主婦が賭け事とホステスに狂った自分の夫を殺してしまったことから、物語は始まる。 登場人物の様々な視点から書かれているので、多角的に出来事を見ている感じになるし、それぞれの生き方や価値観に心を揺さぶられ息をつく間もないほどである。 また、夜勤パートの具体的な仕事やその辛さが非常に伝わってくる。
夫殺しをかばおうとする雅子の行動は、その心理状態を全く想像できないほど恐ろしい。 自宅の広くて新しい風呂場で自分の包丁を使って死体をばらばらにするなんて、考えただけでおぞましくて吐き気がしそうになった。 またその描写が気持ち悪いのである。 においがしそうである。 さらに、佐竹(殺された亭主が通っていた店のオーナー)の過去の罪も、残酷で変態だと思うのだが、それを「愛」や「性的快感」と結び付けているところが、桐野氏のすごいところだと思う。 でも、やはり気持ち悪かった。
佐竹と雅子の結びつきについては、ちょっと物足りない気がした。 やはり死をともにしないと完成しないのか。
この作品を読んだのは、妊娠6ヶ月のときだが、胎教にはよくないと思う。 '02/6/21
「柔らかな頬」 講談社 評価A
直木賞を受賞した作品。 ほとんど北海道が舞台なのでどさんこの私は喜んだのだが、厳しく寂しい土地という背景なので、北海道は魅力的に描かれてはいない。 でも、この話の設定としては絶妙である。 しかし、北海道弁については「鉄道員(ぽっぽや)浅田次郎作」ほどじゃないけれど、ちょっと気になった。 全部標準語で書いても問題ないほど北海道弁は目立たない。 アクセントが異なるくらいなのだ。 と私は思ってる。
それはさておき。
留萌の近くの寂しい村という故郷が嫌で嫌で高校を出るとすぐに家を出て、親も捨て上京したカスミ。 野性的で不思議な女性なので、職場の男性に気に入られる。 「自分らしく生きる」ということのみを求めているようで、誰も彼女のことを理解できない。 勤め先の零細企業の社長と結婚して2児の女の子に恵まれた後もその世界に安穏とせず、仕事の関係者で夫の友人石山と関係する。 石山もカスミにのめりこみ、逢引のために支笏湖畔に別荘を購入することを決意。 夏休みに石山の家族とカスミの家族でその別荘に出かけたとき事件が起こる。 カスミの長女有香が朝行方不明になったのだ。 そのまま行方はわからず、4年の月日が流れる。
また、権力への野心だけで生きてきた元刑事内海は、胃がんに侵され自宅療養中に自分の残りわずかな時間を有香探しに費やそうと考える。 札幌で出会った内海とカスミは、家族も捨て子供探しを始める。
野心のみで警官になり、刑事になり、結婚も出世の一環として考えている内海。 また、彼を襲った病気。 この記述がすごい。 淡々と書いているのに、胸に染み入ってくる。 カスミについても、なぜ親や故郷をあんなに嫌ったのか、やはり不思議なままなのだが、そういった謎に引き込まれてぐんぐん読んでしまう。
別荘地の人間関係や、石山の人生の変遷なども奥が深い。 ただ、視点をいろいろな登場人物にかえて語られるそれぞれの人生が、ちょっとくどいような気がする。
しかし、なぜ家族を捨てるのか、孤独をそんなに求めるのか。 もとの家族だけでなく、自分から築いてきた家族まで捨てようと決心できるのか、私にはわからない。 わからないから読みたくなるし惹かれるのだろうと思う。
結末はやはり少し物足りない気がした。 2002/7/5
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