森博嗣
国立大学工学部建築学科の助教授。 ストーリー構成やミステリ小説としての完成度、キャラクターの魅力や書き分けなど、本当に多才な人だと思う。 それに第一国立理系の助教授なんて会議や出張、学生指導や自分の研究などでめちゃめちゃ忙しいはずなのに(小説内の犀川助教授を参考のこと)、小説も量産していて、最近終わってしまったけれどもホームページに日記も公開していた。 いったい時間と頭脳をどのように使っているのか、きっと真賀田四季(「すべてがFになる」「有限と微小のパン」参考)のように、いくつも人格があるに違いない。
「すべてがFになる」 講談社ノベルズ 評価A
国立N大1年生の西之園萌絵と、同大建築学科助教授犀川先生のシリーズ第1作目。 このシリーズは、2人の成長と恋愛(?)がテーマである(と思っている)。
犀川研究室の夏合宿で妃真加島へ行く。 そこには、両親を14歳のときに殺害したと言われる天才プログラマ真賀田四季のいる研究所がある。 この設定もすごいと思うのだが、研究所のメンバーは全て個室で職住一体型の生活をしており、各自の連絡はネットワークを通してする。 各自が直接会ったり食事したりする必要も特にないし、そうしたいと思う人間もいないのである。 この研究所には窓もない。 さらに、四季博士は地下の部屋で15年間一歩も外へ出ず、誰とも会わずに研究生活を送っている。博士と個人的に接触することもできず、話はネットワークあるいはテレビ電話(のようなもの)を通して行うのである。
私はこの小説を初めて読んだとき修士1年生になったばかりで、研究室に窓はあったけれども、日があたらない部屋で誰とも用事以外の会話はせず、土日も大学に行きプライベートとの区別のつかない日々を送っていた。 最初の1年間はとてもとても苦痛だった。 だから、私の大学院生活をもっと極限にした研究生活がこの小説には書かれており、また研究者というものはそのような生活を理想とするものだと感じたので、私は研究者には向かないと悟ったのであった。
内容に戻るけれども、四季博士の他に誰も入ったことのない部屋から他殺死体が出てくる。 出入り口はビデオカメラで監視されており、誰も出入りしていないことがわかる。 彼女の部屋のコンピュータには「すべてがFになる」という言葉が残されていた。 このような境界条件から、殺害方法と犯人を見つけるのであるが、その論理がとても綺麗で本当にすごいと思った。 確かにこの条件から導き出される答えとしては、それしかないのだと非常に納得した。 でも、動機がどうしても理解できない。 私は凡人だからだろうと、納得した。
話の筋とは直接関係ないと思われる、犀川先生の思考もとても興味深くて、犀川の出てくる箇所は丁寧に読んだものである。 ただ、私はタバコがとても嫌いで「歩きタバコはよくないなあ」とか気になってしまった。
「封印再度」 講談社ノベルズ 評価A
S&Mシリーズの5作目。 これは人気が高いときくけれども、私も一番好きかも。 やはり大学がよくでてくるほうが、親近感がわくし、浜中先輩のような院生は私の友人にもいそう。 2人の仲がちょっと発展(?)するところも、魅力的である。 萌絵の極端な行動に眉をひそめたファンも多いらしいが、私は騙されちゃったし、こんな展開もいいんじゃないかと、思った。
この話には、ちょっと違うかもしれないけれども、日本的というかわび・さびの世界観というか、そのようなテーマがある。 蔵の説明の箇所で「これが密室になったのはもしかしたら・・・」と思ったけれども、やはりそうだった。 謎解きもラストも綺麗でとてもよかった。
「工学部・水柿助教授の日常」 幻冬舎 評価B
M&Sシリーズというから、なんのことかと思ったら、水柿助教授と妻須磨子のシリーズという意味らしい。
例によって、「工学部建築学科」の水柿助教授がミステリ作家になるまでの日常のミステリィの話(だと思う)。 連作の短編で、第1話は、ちょっとした不思議な話とその謎解きで、大学の先生らしく学会の話などもでてきて、なかなか面白かった。 5話とも全部そんな感じなのかなと期待していたら、例えば第3話の「試験にまつわる封印その他もろもろを今さら蒸し返す行為の意義に関する事例報告および考察(これでも小説か」の疑問を抱えつつ」などでは、自分と試験というシステムの関わり・それを受ける側から実施する側までにおいてなどの、大学の先生の部屋でなんとなくおしゃべりするような内容だった。 それはそれで面白いんだけれど、これって小説なのか、ストーリーなのか?という疑問はぬぐえなかった。 さらに、最終話は、森先生の独り言ではないか、という感じの内容だった、と思う。 最後の
「彼女(妻のこと)が買いもの好きでなければ、
作者は小説など書こうと思わなかっただろう。」という2文は、まさしくご自分のことなどかなと思った。
でも、くどいようなあっさりしているような文章や内容など、面白かった。 2001/5/31
「六人の超音波科学者」 講談社ノベルズ 評価B
Vシリーズ。 名前を覚えるのが大変な主人公キャラクターたち4人が、山奥の超音波科学研究所をひょんなことから訪れる。 さらに、交通手段の橋が爆破されてしばらく足止めをくったところに殺人事件が起こる。 ストーリー・トリックは面白かったし、読み終わったあと満足したはずなのだが、読後1週間で細かいことは忘れてしまった。 Vシリーズは瀬在丸紅子が好きじゃないせいか、私にとって全作品のインパクトが薄い。 紅子は女性版犀川先生って感じなのだが、いまいち魅力を感じない。 彼女が心底惚れている林警官にしても、わざと描写等が少ないのか、どうして彼女がそんなに愛しているのかよくわからない。 林の愛人祖父江刑事にしても、同じである。 4人の主人公たちや定番のキャラクターも、個性がみな強すぎるからなんとなく全体の印象が散漫になってしまうような気がする。 2001/5/31
「捩れ屋敷の利鈍」 講談社ノベルズ 評価C
書き下ろし。 Vシリーズと同じ保呂草の視点で書かれているが、西之園萌絵、国枝桃子、犀川創平も登場する。
山奥に作られた「捩れ屋敷」。 西之園萌絵や保呂草が招かれて、当主「熊野御堂譲」氏の趣味の品(というか建築物)を披露してもらう。
車の伏線など、相変わらずうまいなと思った。 でも、長い間彼の作品を読んでいると、「上目づかいに微笑んだ」とか「頭の回転(計算)が速い」などの文章が気になってくるようになってしまい、あまり集中できなかった。 飽きてきたのかなあ。
それから、「メビウスの輪」のような位相幾何学(?)をもりこむと、魅力的で面白いのだけれど、設定が複雑で建築や立体に疎い私としては、推理小説にするならば平面図が欲しいなと思った。
保呂草が私の嫌いな紅子と萌絵を似ていると感じるのも、面白くなかった原因かも。 でもこれだけキャラクターに感情を抱くことができるのは、やはりすごい。
実は一番興味があったのは、国枝先生が私立大学の助教授に昇進していたことだった。 2001/6/14
「恋恋連歩の演習」 講談社ノベルズ 評価B
面白かった。 出逢いから恋愛に至るエピソードがうまく入っていたし、紫子の保呂草への思慕や豪華船旅など、物語性が強くてよかった。 今回の保呂草の仕事もロマンがあっていい。 ただ、ちょっと登場人物が込み入っているので、一気に読んだ割には途中で「これ誰だっけ?」と思うこともあった。 それから、話が妙にゆっくり進む部分があって、それがまどろっこしい。 紅子が出てくるとそうなるので、作者の好みなのかなと思う。 さらに、森先生の話は、女性が恋愛に積極的で、男性がはっきりしない、煮え切らないことが多いと思う。 なんとなく気になる。 最後に保呂草氏もてすぎ。 2001/7/4