真保裕一
  
「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞。 「ホワイトアウト」は映画化もされています(織田祐二主演)。 情報小説としても楽しめるような作品が多いです。 


「ストロボ」 新潮社  評価A
 カメラマンとして成功した喜多川光司の人生を、50歳、42歳、37歳、31歳、22歳と時間のフィルムを巻き戻すように遡っていく。 5章から1章へ戻る趣向も、とてもよかった。 成功と安定を手にいれた50歳から、写真への情熱と夢で充実していた20代へと思い出すかのようである。 現在の成功者がいたらみな、その人の若かりし頃はどうだったのだろう?と想像すると思う。 私も「喜多川の一番いい時代はどんな感じだったのだろう」と最初に思ったので、最後まで一気に読んでしまった。
 真保氏は、綿密な取材や下調べを盛り込んで物語に深さとリアル間を加え、「プロ意識」の壮絶さを伝えるのが素晴らしくうまいと思う。 「ストロボ」もカメラで人生を立てようとする人間の心の中まで書ききっているので、本当に読み応えがある。 
 印象的だったのは、4章の「暗室」と最後(1章)の「卒業写真」だった。 「暗室」では、過去に関係のあった女性カメラマンがヒマラヤで遭難する。 遭難の原因は彼女にあったのかとマスコミで取り上げられる中で、彼女の遺品であったフィルムが見つかる。 「卒業写真」では、喜多川の同級生の突然の事故死について。 当時は学園紛争が活発な時代であり、写真で闘争の意味を示そうとするジャーナリストの立場から、活動家になってしまった同級生の謎を知りたいと考える。 
 どれも切なくなるような話ばかりである。 '02/6/18



「黄金の島」 講談社  評価A
 これは面白かった! この著者の一番の傑作じゃないだろうか。

 半端者のヤクザ修司は、ボスに目をつけられ日本を追われてしまう。 しかし、バンコクでも仲間に命をねらわれ、身の危険を感じベトナムの年サイゴンへさらに逃亡する。
 また、サイゴンでは、田舎から出てきた貧しい若者仲間が、「日本でお金持ちになって国に帰る」という野望を持ちながらシクロ(人力車)をこいで働いていた。

 私は無知だったのだが、ベトナムは強い共産主義でしかも貧富の差が激しい。 権力をもつ公僕たちが貧しい国民から金を巻き上げ、豊かに暮らしている。 共産党のコネがない庶民は、いくら身を粉にして働いても電化製品すら買えず、いくら頭がよくても大学など教育を受ける機会すらない。 情報も統制されているので、同じアジアの経済大国日本にさえ行けば、経済難民を受け入れてもらえ、大金持ちになれると信じて無謀な密航をくわだてたりする。

 同じアジアでも、私たちの暮らす日本とこんなに生活レベルの差があるのかと愕然とした。 日本も官僚国家で政府も保身ばかり考えているけれども、ほとんどの国民が不自由ない暮らしを送れ、のぞめば誰でも大学にも行けるし、運がよければいい会社で高い給料をもらうこともできる。 実はかなり恵まれているのだと実感した。

 ベトナムの若者たちの、考え方、たくましさ、卑屈さなどが描かれており、それぞれの性格も適切に描写されている。 それらが小説にも重要な意味を持っていて、「どこかの国の話」というよりもっと、近しく感じられた。 
 修司がなぜ、若者たちに日本語を教え、船を出す気になったのかも、自然の流れとして読める。 理不尽に警官につかまったり、留置場に入れられたり、駆け引きをしたりなどのスリリングな場面も面白かった。

 そしてクライマックスである船の上。 「仲間」の大切さや海の怖さなど、迫力満点で息をのんだ。 そして、日本で行われていたヤクザの執拗な修司への攻撃。 最後に修司が殺されてしまったのは、やはり残念だったが、ベトナムの若者たちが夢へ向かって日本でたくましく生きる姿が、とてもいいラストだった。 '02/8/7



「ダイスをころがせ!」 朝日新聞社  評価A
 衆議院選挙の話です。 面白くかつ勉強になる小説です。 「政治家に文句を言うだけでなく、有権者も自分の1票に責任をもつ」まったくそのとおりです。 しかし、既成政治家に有利な法律だらけなんですね。 決まった政治家が選挙で勝ってまた有利な法律を作り身分の安定を計る。 せっかく、民主主義で国民みんなに選挙権が認められたのに、なんでこんな仕組みになっちゃったのかしら。 

 一流新聞社の記者だった、天知達彦が会社を辞め地元から衆議院選挙に立候補することを決意。 高校時代の友人で同じ陸上部だった駒井健一郎に「秘書になってくれないか」と相談がもちかかる。 この2人は恋敵だったため、ずっと疎遠だったのだが。 このへんが、真保氏らしいです。 34歳になって、高校時代の恋愛をそんなにみんなひきずっているものなのかなあ。
 健一郎も、商社にいて理不尽な仕事の失敗を押し付けられ退職したばかりだったのだ。 妻子は全く反対して家をでていくが、「夢」を見てみたいと思い、協力を決意する。
 地元にいる高校時代の友人たちなども、達彦の話を聞き、徐々にボランティアとして政治活動に参加し始める。

 達彦の理想と信念や選挙活動は、本当にわかりやすく、頑固だけれど一本筋が通っていてとても気持ちがよい。 こんな理想をかかげた人がどんどん政治に携われば、開かれたわかりやすい、みな納得できるような国会になるんじゃないかと思う。 それに国会議員が「仕事」になり、その報酬が多すぎるということは、既に民意から離れているのだ。 健一郎の会話であったけれど、別に仕事を持ち、政治を無報酬で行ってこそ、理想が貫けるのかもしれない。

 そのほかにも、健一郎と達彦がかつての職場を辞めた原因となった、市の土地購入に関する疑惑なども、最後の最後までキーとなる。 また、健一郎の家族の話などもうまく絡ませており、「夢と現実」の折り合いについて問題が投げかけられている。

 「政治は身近な話である、もっと関心をもつべきだ」と当たり前のことなのに、今更ながら思った。 '02/9/26

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