その28

兄の面会

昭和20年7月の半ばだったでしょうか、とても暑い日でした。六つ上の兄が面会に来てくれました。兄は本堂正面の縁側に面した階段の下あたりに立つていました。私は縁側の上で立っていました。今思えば奇妙な面会のしかたです。面会室などはありません。そればかりか学校側の方針として身内の面会を歓迎していませんでした。特に食べるものの差し入れは禁じられていました。「面会者や差し入れのない子たちがつらいから」というのが理由でした。

縁側の階段の上と下でしばらく話をしていました。兄は自分の肩にぶらさげていた水筒を指差しながら「お茶を飲まないか?」と言いました。私は「お茶なら食堂に行けばあるからいらない」と答えました。兄はちょっと困った風な顔をしていました。しばらくして兄は「下へ降りて来い」と言いながら手招きしました。私は庭に下りて兄のすぐそばに近づきました。兄は耳元で内緒話のように「この水筒の中はお茶ではない、サイダーだ。いいから飲め」と言ってくれました。私は周りを気にしながら飲みました。ぬるくなっていましたがサイダーの味でした。我が家ではお客様が来られた時に出す特別な飲み物だったのです。疎開中では口にできない美味しい貴重な飲み物です。でも、たくさんは飲まないで「もういい」とやめました。禁じられていることをしている自分が不安だったのです。
兄は最後に袋に入った飴を出して「あとで食べるように」と言いました。私は欲しいけれども「叱られるからいらない」と断りました。兄は「いいからポケットに入れておけ、少しずつそっとたべたらいい」と無理にも持たせてくけました。

兄弟の面会といううれしい出来事も、サイダーや飴の差し入れも素直に喜べないのは規律の厳しさなのか、それとも私が極端に臆病だつたのか、いずれにしても極度のひもじさの中での奇妙な面会風景でした。
          次回は「父の面会」です。

      やまと

平成13年 8月6日

その29「八歳の戦場」の巻


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