その後ー10月

ドクターに「あなたは大変ね。」と言わせたほど副作用満載の化学療法を6月に、副作用はほとんどないが、週5日時間を拘束される放射線療法を8月に終えた。化学療法中、ゾラデックスで止めていた生理も、最後の抗がん剤投与から2か月半で戻ってきた。周期は治療前よりも正確なくらいだ。主な副作用として生理不順があげられているホルモン剤、タモキシフェンを8月から服用している事を考えると、これ以上は望めない状態だ。日に何度も訪れるホットフラッシュには目をつぶる事にしよう。

10月8日、RMホスピタルにてフォローアップの外来診療。予約の際に、「元気だったらキャンセルして良いからね。」とは言われたものの、数日前、若くして再発した女性の体験談を読んでしまったところだ。かすかな痛みにも「もしかして再発?」と不安がよぎる日々だったので、ありがたく診察していただく事にした。RMに来るのは7月のフォローアップ以来だ。CHUBの頭の中では、RMホスピタル=化学療法=吐き気、という公式ができあがってしまっている。怖がることは何も無いとは分かっていても、知らず知らずのうちにうつむきがちになる。外来へ向かう廊下を行く。病院独特のにおいを嗅がずに済むよう、マフラーで鼻を覆って歩く。いつかこのにおいも平気になるのだろうか。

診察室に入ると、今まで会ったことの無いドクターが待っていた。CHUBの担当はProf.Sのチームなのだが、チーム内のどのドクターに診察してもらうかは、日によって違う。今回のドクターで5人目だが、未だにProf.Sの姿は見たことが無い。するとナースが笑ってささやいた。Prof.Sのあだ名は「invisible man(透明人間)」。彼を見た事の無いナースもいるらしい。自分の体の将来をゆだねているその張本人に会ったことが無い、というのは不思議な気持ちだ。

さて、本日の担当Dr.Cは、童顔に若はげのつるんとした頭が人のよさそうな印象を与えている。「生理は戻ってきた?」「タモキシフェンの副作用は?」の質問に答えていく。「8月に戻ってきて、それから順調です。ホットフラッシュがあります。それから便秘がひどいです!」「便秘? タモキシフェンで便秘は聞いたことが無いなあ...」CHUBはただ単に便秘だったらしい。「便秘については、僕は介入しなくて良いかな?」穴があったら入りたかった。

「さあ、次は素敵な病院ガウンに着替えて。この黄色、良いねー。」ドクターの陽気な口調につられて、CHUBの気持ちも明るくなる。脇、胸(切ってしまった方も、残っている方も)、首、腹の触診は異常なし。ホッとしたのもつかの間、新たな悩みに出くわした。現在服用中のタモキシフェンに加えて、ゾラデックスを二年間使って生理を止めることを勧められたのだ。

Dr.Cの説明はこうだ。まず、化学療法は、閉経後の女性よりも、閉経前の女性に効果が高い。投薬期間中に生理が止まることが多い、という事実を考慮すると、これが治療成績に貢献していると考えることができる。それならば、化学療法終了後も、ゾラデックスで生理を止めてしまえば、再発、転移のリスクは減るのではないか。次に、タモキシフェンはエストロゲン(女性ホルモン)が癌細胞と結合するのを防ぐ役割をしている。それに加えてゾラデックスを使えば、卵巣から分泌されるエストロゲン自体を減らすことができる。その方が安心ではないか。なるほど筋は通っている。しかし、確実なデータは無いらしい。再発のリスクはどのくらい減るのか? 不妊になる可能性はあるのか? 長期的に見た副作用は? どれも答えは「確実なことは分からない。」だった。不妊になる確率は「とても低い」とのことだが、危険はおかしたくない。

では、ゾラデックスを始める前に、保険として卵、もしくは受精卵を凍結保存するというのは可能だろうか?Dr.Cはあまり乗り気ではないようだ。卵をまとめて採取するための治療は、体内のエストロゲンのレベルを急激に上げることになるらしい。そして、CHUBの体のどこかに潜んでいるかもしれない癌細胞は、エストロゲンを栄養として育つタイプなのだ。一時的とはいえ、意図的に癌細胞にえさをやる事になる。癌細胞撲滅に全力を尽くしている立場のドクターがちゅうちょするのは当然だろう。不妊治療専門のドクターを紹介してもらい、話を聞いた上で今後の方針を決める、という事で落ち着いた。こういう時、NHSのありがたみを実感する。将来のクオリティーオブライフに影響するが、本来ならば高価で手の届かないような治療も、安心して受ける事ができる。

最後に待っていたのは血液検査だった。血中のエストロゲンのレベルを調べ、科学療法後の卵巣が正常に機能しているかを調べるのだ。生理もあるので心配は無いだろう、とのことだが、念のために調べてもらう事にした。以前のCHUBは、注射も平気、献血もドンと来いだった。今では採血が恐ろしい。化学療法の思い出とつながって、トラウマになっているのだ。汗ばんだ手でPUDGEにすがりつつも、実にあっけなく採決を終えた。怖がることは無かった。次からは大丈夫。一つ、癌の遺産を克服した気がした。

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