しこり

一月はあっという間に過ぎ、PUDGEとクロネコCANの待つロンドンの我が家へ帰る時が来た。

成田空港に着いてすぐに、乗るはずの便が一時間遅れると知る。もっと寝ていれば良かった...などとぶうたれながらも一時間遅れでチェックインを済ませ、イギリスの親戚へのお土産を見つくろいつつ搭乗の時を待つ。しかし、一時間遅れが二時間、三時間と経っていく。本を読み、航空会社もちの昼食をとり、また本を読むがまだ飛ばない。

結局その便はキャンセルとなり、翌日早朝に飛ぶまで今夜は空港近くのホテルに一泊してください、とのこと。化学療法に対する不安でいっぱいのハハと、ハハには内緒で引き止めるチチをのこし、後ろ髪を引かれる思いで実家を発ったのだ。それなのにこんな所で一日を無駄にするなんて、とやりきれない。まわりにも、せっかくのイギリス旅行が一日短くなり不満そうな姿がたくさんある。しかし飛ばないものは飛ばないのだ。

ホテル内にいくつかあるレストランのどこでも利用できる食券をもらい、部屋に落ち着く。外はどしゃぶりの雨。気がめいる。洋食、中華、和食とチョイスはいろいろあるが、一人で中華や、懐石料理という気分にはなれない。カフェに毛の生えたようなレストランで洋食にする。

スーツケースは空港に預けたままだったので、ホテルの売店で着替えの紙パンツと靴下を買う。この紙パンツが二か月の後に役立とうとは、その時想像もしなかった。

寒々しいホテルの部屋で心機一転、シャワーを浴びようと服を脱いだ。ブラをはずし、フとしたひょうしに何かさわった。まさかと思いつつ、左胸に触れる。やはりあった。

「しこり」だ。

しかし、ハハのしこりとは触った感じが全く違う。小石のように堅かったハハのものとは違い、ゼリービーンズのような感触だ。その上、グリグリ動く。ハハのしこりは動かなかった。こんなに違うんだもの、癌のはずはない。ハハの時と違いすぎる。

こんな時の夜は長い。気にしないようにはするが、手が自然としこりを触っている。「寂しいだろうと思って。」と電話をくれたギリオトウトとばか話をしながらも、頭にあるのはしこりのことばかり。しかし孤独感は薄れ、少し楽になった。タイミングの良いギリオトウトに感謝。

今考えても仕方がない、家に帰ってから考えよう、と自分を説得しつつ、翌朝ロンドンへ飛んだ。


Next

Back

CHUBの記Top


このホームページのホストは GeoCitiesです無料ホームページをどうぞ