その2 【行け!炎のスライディングタックル!】
「・・・・・・」
「・・・・・・」
今日もまた緊迫した空気が流れる、とある駄菓子屋。
客の少年…前田君が店内の一箇所をじっと睨みつけたまま、やはりもう数十分が経過しています。
「・・・はよ引かんかい」
いつもの事ながら、いらいらしてきて急かすうめ。
その急かされた彼が今目の前にしているのは、店の中にある、1回100円で引ける紐くじ。
(紐を引いて、つながっている景品がもらえるくじ)
最新のゲームハードも陳列されているので近所の子供に大人気ですが、誰一人として当てたことがないので最近では「当たりの紐は魔界に通じている」だとか、「宝くじ1等の方が当たる」と噂されているようです。
そんな中、この常連の少年は少ないおこづかいを毎日自分の店に使ってくれるのですから、店主代理として、そしてそれ以前に年上として、大きい心を持って接してほしいものです。
…もっとも、もう1時間以上も凝視したままなので、キレたとしてもなんの不思議もないんですが。
「…!来たぁ、これだ!!」
ピクリとも動かなかった彼が瞬間、額のあたりに電流が走るようなニュータイプっぽい効果が入ると、一本の紐を選んで一気に引き上げました!
スルスルスル…
1秒が数時間にも感じられるような緊張の末、その手に握られた紐の先に結び付けられていた景品。
それは…!
「はーい、キャプ翼2大当たりー♪」
…残念、今日も高額ゲームハードのゲットはなりませんでした。
「わーい、やったー。じゃあ今日はこれでー」
厳選に厳選した結果目当ての物が出てこず、さすがにショックを受けましたが、コンマ数秒で頭を切り替えてまったく抑揚のない声でごまかし、即座にその場を脱出しようとする前田君。
が、寸前のところで襟首をガッシと捕まれ、戦闘空域からの離脱すらも失敗。
−しまった−
普段の流れだと、このあと待っているのは100%の確率で聞きたくもないうめのゲーム論議。
何を引こうとすぐさま家に向かってダッシュしようと出かける前から決めていたのに、まさか捕まってしまうとは!
なんとしても脱出しようと最後のあがきで足をじたばたさせて暴れるも、そこはいくら女といっても高校生。
一度手を離して油断させてから、改めてアルゼンチンバックブリーカーに持っていきギブアップを奪うことに成功しました。
【IWGP戦場離脱成否決定戦:無制限一本勝負】
関ケ原うめ O − X 前田としいえ
(0分32秒:アルゼンチンバックブリーカー)
って、いくらなんでもアルゼンチンはないだろオイ。
「ふふふ、今日はキャプ翼2の『タックル』について教えてあげようー♪」
「む、無念…」
■タックル/キャプ翼シリーズ■
守備のテクニックのひとつ、スライディングタックル。
ゲームでは相手との力量に差がある場合、ボールのみならず選手自体をも空高く弾き飛ばしてしまう。
無論ファウルだが、”陽一ワールド”では日常茶飯事。
「筆者が小学生の頃は4〜5人くらいで一斉にタックルかます『明和特攻スライディング部隊』が流行ってて、食らったFWが本気で泣いたこともあるそうよ?」
「聞いてねーよ」
自分を逃がしてくれなかった上に、前回、話をあっさり止められた腹いせか、今日は逆襲を試みる前田君。
「(か、かわいくないわ…)で、このタックルだけど、サッカー以外での有効な利用法を見つけちゃったのよ。さ、なんだと思う?」
「サッカー”以外”って時点ですでにダメなような気がするけど…うーん、なんだろう…邪魔な荷物が置いてあったらタックルでどけるとか?」
なんだかんだ言っても結局うめの話に付き合うところは素直な子供らしいと言いますか。
「はい、ハズレ〜。基本的な考え方は間違ってないんだけどねぇ。正解はこれ!」
これまた前回と同じく店の奥から持ってきたボードを立てると、そこには朝の通勤ラッシュでごった返してる駅のホームの写真が。
「?」
「あれ、わかんない?」
「全然…」
「ふむ。じゃあここに写ってる人達はどんな人?」
「え、普通のサラリーマンでしょ?ウチのお父さんもそーだし」
■サラリーマン■
朝の通勤時間、学生と並び最も多く駅を利用する方々。
満員の車内でYシャツに口紅をつけられ、帰宅後それを見つけた奥さんに詰め寄られるシーン等が有名(?)。
営業サボってゲーセンに来る中には稀に達人級がいる。
「恐ろしい、ホントに恐ろしいやつらだよ…」
「ちょっと待て、こないだのグリズリーじゃないんだから、別に恐ろしくはないだろ!?」
明らかに前後の内容が食い違うことに対して、怒りの抗議をする前田君ですが、こと最後の一行、サボってゲーセンに来るサラリーマンに関しては確かに恐ろしい(程の実力を持つ)場合があります。
バーチャ2の全盛期などは、まだ午前中にも関わらず対戦台で2桁連勝してるサラリーマンを見かけることもざらで、筆者は余りの恐ろしさにその場を離れ、奥の脱衣麻雀に興じていたものです。
…脱衣麻雀?
「ま、正確にはサラリーマンに限った話じゃなくて、”朝のラッシュ時”って設定が重要なんだけどね」
(って、今までのネタ全否定かよ!)
せっかくネタ振りをしたのに、それを自らの手で瞬時に破壊するうめにこそ恐ろしさを覚える前田君。
まったく予期していなかったことだけに、ツッコミも言葉になりません。
たぶん周りに人がいたら皆同じ気持ちだったはずです、安心してください。
「…自分が電車に乗りたいときにこんなに混んでたら大変でしょ?次の電車まで待つのもなんかヤだし。そんなときにほら!ここでタックルを使えば!!!」
順番待ちで一列に並んでいるサラリーマンや学生さんを次から次へと弾き飛ばし、スライディングの体勢を維持し続ければそのまま電車に乗り込む(滑り込む)ことも可能。
(そのときは当然、電車の中に入っていた人も宙に舞うことになります)
「これ思いついたときは私、自分が天才なんじゃないかと思って怖くなったね!」
(バカだ…この人は本当のバカだったんだ…)
自分の想像を遥かに超えるバカバカしさに、諦めにも似た複雑な感覚を覚えながら膝からガクリと崩れ落ちる前田君。
まだ7歳という年齢でこれほどまでに見事な崩れ方をする子供は、世界広しと言えど彼だけでしょう。
「でもねー、これにはひとつ改善しなきゃいけない点があんのよ。タイミング合わないとさ、閉じようとしてるドアに挟まれちゃうの!」
「そのまま次の駅まで行ってしまえーー!!」
まだ続けようとするうめにさすがにキレたか、最後にはお約束通り魂の叫びをあげ話を締める前田君であった。
−続く−
□今回のうめファイル□
【タックル/キャプ翼シリーズ】
| 自分勝手度 | ☆☆☆☆☆ |
| 反則度 | ☆☆☆☆★ |
| 明和度 | ☆☆☆★★ |
■ここで使え!■
・朝の通勤ラッシュ時
ちょっと怖そうな人がいてビビッてしまい、使い時を逃してしまったら大きな声で「ガッツが足りない!」
(文責:鳥乃かず)
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