その4 【逆転の揺さぶり】


「ただいまー」

よく晴れた日の午後。
勢いよく玄関を開き、ランドセルを放り投げるのは学校から帰ってきたばかりの前田君。

お母さんからおこづかいをもらい、日課となっているうめとのバトルに臨もうとしていましたが、ふと、いつもと違う雰囲気を家の中に感じます。

「…お母さん?いないの?」

普段なら笑顔で出迎えて100円をくれるはずなのに、今日はどういうわけか姿を見せません。

リビングからは先程からテレビの音が聞こえてくるので消し忘れでなければ家にいるはず。

「まさか…」

もしや急病か何かで倒れたのでは、という不安が頭をよぎり、慌ててリビングへ走る前田君。

次から次へと悪い考えが横切るも、それが結局は杞憂であったことが、すぐにわかりました。

そこにいたのは、倒れたお母さんではなく、せんべいをほおばって時代劇に見入る、うめだったのです!

「あ、ああ、あんた、なんでウチにいるのさ!?」

大声で叫ばれてようやく彼の存在を認識したうめ。

「あ、おかえりー。店にいたらさ、前を通りかかった君のお母さんが、急用で夜まで出かけるなんて言うからお得意さんへのサービスで留守番してあげよう、ってことになってね♪」

けらけらと笑いながら、またせんべいを口に運ぶうめ。
つーか、店ほったらかしでいいのかよ。

「でもって、くじ引くために戻るの面倒だから、はい、今日の景品」

バッグから取り出されたソフトが放物線を描いて飛び、半分キレかけた表情の前田君の手にスポッと収まる。

「くじの意味ねーじゃん…」

「大事なのはあたしが話して満足するかどうかだけよ」


連載4回目にしてとんでもないキャラになってしまったような気もしますが、要はそういうことなんで。

しかし、よく見ると手の中のソフトはGBAの逆転裁判。

続編が出たとはいえ、100円で買えるものではない代物だけに、前田君ちょっと驚きを隠せません。

「ね、ねえ、これホントにいいの?」

「ん?あ、いいわよ。君のお母さんからもらった資金で買ってきたやつだから」

「元手ゼロかよ!つーかウチのお金かよ!」


彼のお母さんは、夕食代や手間賃を含めた意味でお金を渡したのですが、見事に無駄になってしまいました。
そして、この事実により夕食の材料を求めて前田家の冷蔵庫が襲撃を受けることも確定です。

おそるべし、うめ。

「ということで早速いってみよう!今日のテーマは〜…ジャジャン!『揺さぶり』に決定〜!!


■揺さぶり/逆転裁判シリーズ■

弁護士である主人公・成歩堂が使うコマンドのひとつ。
これを実行することで出た新たな証言が矛盾点を生み、それが事件解決へと繋がるのでクリアには必須の手段。
弁護士といえばスーパー弁護士・北岡さんも忘れずに。



「こじれた男女なんかは日常会話が常に揺さぶり効果を持ってるけどね」

「それは小学1年生に話すことじゃないだろ…」


まったくもってその通りですが、そのツッコミがすでに小学生の域を超えていることに気づいてください。

そして、例の如くどうしたら生活への有効活用ができるかと問われますが、こういうときだけは子供の考えしかできず、嘘を見破るなどの意見しか出てきません。

「…あたしが言うのもなんだけど、ご都合主義だねぇ、その設定」

いやぁ、便利なもんです。

「ところで、もともとの”揺さぶる”って行為が嘘や間違いを見つけるための行動だから、それじゃあなんのひねりもないよね。点数にすれば2点ってとこかな」

「100点満点中?」

「いや、1億点満点中」


無茶苦茶です。

いくら世界広しといえども物事を1億分割して採点する人間は彼女だけでしょうが、言ってることはたしかにその通り。

では、どのような使い方ができるというのか?

「実は、これ護身術に応用できるんだよね!」

ぐいっと胸を張り、会心の笑みを浮かべたその顔に絶対の自信を溢れさせながら、言い切るうめ。

カメラを180度逆に回せば口をあんぐり開けて呆れたまま固まっている面白い生き物が撮れたのですが、それはまた別の話。

「ふふん、なんでか分からないって顔してるわねー。いいでしょう、教えてあげるわっ!」

徐々に自我を取り戻しつつある前田君を、強制的に自分の世界に引きずり込む、ある意味誘拐犯みたいな行動に出るうめ。

もっともこの場合、「つまらない談義を聞く」という身代金を払うことで解放されるのですが、精神的苦痛はしっかり受けるのでタチの悪さは一級品です。

「まず、街中でも学校でもいいけど、知らない人に絡まれたりしたらどうする?自分より強そうなやつ」

「んー…やっぱり怖いから、逃げるか助けを呼ぶ」

「そう、それが普通よね。でも、ここで揺さぶることで圧倒的勝利を掴むことができるとしたら?」


そこでちょっと考える前田君。

知り合いでもない人間が嘘を言ってもわかるわけないしわかったところで危機的状況に変わりはない。

適当なことを言って、仮にそれで相手が動揺してくれたとしても、それがきっかけで逆上されたら今以上の危険にさらされることになる…。

「う〜〜〜〜ん…」

どういう使い方をするのかまったく見当もつかず、数秒後には参った、という目でうめを見ます。

すると、彼女は全く無駄のない動きでプロボクサー並にキレのいい右フックを何度も繰り出しながら、説明を始めます。

「ふふふ。つまり、こういうことなのよ。こう、相手のアゴを狙って横からゴッ、て。ゴッ。わかる?」

「ゴッ?」



■アゴを狙って横からゴッ■

格闘技のKOシーンなどでもたびたび見られるもの。
横からアゴに衝撃を加えられることで脳が揺れ、結果、瞬間的に意識を断たれる現象を指す。
というか、脳が揺れれば縦横はどうでもいいっぽい。



「…ね?これで相手を沈めれば万事解決!ってわけよ」

「いや、根本的に間違ってんじゃん!!」


いつものことながら、その反則気味な答えに憤慨する前田君。

精神的にではなく、物理的に(かつ人体の弱点を)『揺さぶって』しまえ、という強引すぎるやり口に納得できるはずもなく、いまだ右フックを放ち続けるうめに思わず手でツッコミを入れてしまいます。

ゴッ!

「あ…」

と、これがうまいことアゴに当たり、一瞬の間を置いてガクリと倒れるうめ。

「う…や、やるじゃない…そういうことなの…よ…」

しばらくして意識がはっきりしてきた彼女にそう言われ手を出したことを謝りながら苦笑いするしかない前田君でしたが、これが記念すべき初勝利となるのでした。

                    −続く−

□今回のうめファイル□
【揺さぶり/逆転裁判シリーズ】

KO度 ☆☆☆☆☆
反応速度 ☆☆☆☆☆
納得度  ☆★★★★

■ここで使え!■
・リングの上


ヘッドバンキングして気分が悪くなるのもきっと同じ原理なのでしょうね。ブンブンブンブンブンブン(振)

(文責:鳥乃かず)


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