その5 【必殺!ワイヤーアクション】


「今日こそは必ずいいもん持って帰るぞ!」

宣言するというよりも、自分に言い聞かせる感じで気合の声をあげる前田君。

腕まくりをして紐くじをじーっとにらみつける様は、周囲の緊張をも否応なく誘うほどのものがありましたが唯一人、店主のうめだけはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべています。

関ケ原と名のついたこの駄菓子屋で、もはや名物とまで言われるようになった、この一発勝負。

彼が店を訪れると下校途中の生徒や買い物帰りの主婦、散歩中の猫までがその足を止めるといいます。

いや、猫はないでしょうけど。

「むむむ…なーんか、こっちに強い波動を感じる…」

目の前に束ねてある紐が約100本だとして、高価な品が当たる確率はせいぜい2〜3%といったところ。

この厳しい現実に真向勝負を挑むのですから、気持ちはわかります。…わかりますが、気や波動の話まで持ち出してくるようなことでもないでしょう。

しかし、一呼吸の間を置いたあと、そんな指摘はお構いなしとばかりに思い切って、1本の紐を引く前田君!

皆の視線が交差する中、引き当てたのは…

「はーい、ヒットラーの復活大当たりー♪」

やはり今日もFCソフト。

「あー、残念だったねー」
「また頑張んな〜」


1時間余りの熱闘を見物したまわりの野次馬たちは普段通りの結末を確認すると、戦いを終えたばかりの少年に一声かけてそれぞれ散って行きます。

「あれ?みんな帰っちゃうんだ?」

『ヒットラーの復活』といえば、名作と言われるほどのアクションゲームでいまだにコアなファンも存在するソフトですが、世代が違うと内容すら知らない人も当然いるわけで。

「調子狂うなぁ、これ、あたしは好きなんだけどねぇ」

うめも納得のいかない表情でソフトをまじまじと見つめボヤきます。

「参考までに聞かせてもらうけど、どんな感じなの?」

周囲に人がいなくなったところでそう切り出してきた彼に対し、どんな説明をしたらいいか考え出すうめ。

ゲームとはいえ戦争を扱ったものですから、下手な教え方をして間違った知識を持たれては困ります。

珍しく常識的な判断をした彼女、ない頭を必死に絞って耳や鼻から煙が出てきそうなほど顔を赤くした結果、ふと自分の才能を恐れてしまうくらいにソフトな表現を思いつきます。

「そうよ!あたしってばヤバいかも!天才すぎて!!」

いきなり深く悩み始めたかと思えば、今度は一転、自らを褒め称える様を見て、聞かなければよかったかもと不安を覚える前田君。

その考えは見事に的中し、クルリとこっちを向いたうめの口から発せられた答えは一言。

「中にS・スタローンが入ってるスパイダーマン!」

…わかりにくすぎます。

戦火を一人で切り抜けるランボーと、ウェブ(網)を使って自在に動き回るスパイダーマン。

特徴だけを見れば合っているのでゲームを知っている人が聞けば納得したでしょうが、初めて聞かされた彼が想像したのは、街中で子供らを引き連れてランニングする全身タイツのクモ男。

異様なことこの上ない光景です。

「よーし、じゃあ説明ついでに、今日はこのゲームの最大の特徴である、『ワイヤーアクション』についても語っちゃおう!」

「あ、結局はそこに行き着くわけね…」


当然です。


■ワイヤーアクション/ヒットラーの復活■

目標物にワイヤーを引っ掛けて、ターザンの要領で移動するテクニック。
慣れると着地せずに連続移動もでき、癖になってくる。
遠くにあるアイテムを手繰り寄せることも可能である



「へー、どんなもんかと思ったけど、これを聞いた限りでは、けっこういろんなことに使えそうではあるね」

面白いじゃん、と興味を示しながらのってくる前田君と当然よ、と答えて胸を張るうめ。

「今の時期だと、こたつから出ないでテレビのリモコン引き寄せたり、みかんを取って来たりと、かなり便利な使い方ができるってことだね!」

うめの答えを予想して先に結論を導き出してしまおうとする前田君でしたが、してやったり、と得意げな顔で見ると、逆にこちらを哀れむような表情で顔を覗き返されてしまいました。

「!?…まさか、これ以上の答えがあるとでも…」

言い切るより早く、いつのまに用意していたのか手製のワイヤーを右手に装着してみせるうめ。

実演する、ということなのでしょうが、これまでの結果が結果なので自分の身に被害が及ばないか危惧し、ゴクリと喉を鳴らし身体を硬直させる前田君。

が、そんな彼に目をやることもなく、キョロキョロと辺りを見まわして目標を発見すると、さながら釣りのようなモーションで勢いよくワイヤーを飛ばすグフ…じゃない、うめ。

先端に重りのついたそれはグングンと伸びていき、やがて、とある家の窓をぶち割って、一台のPCに鋭い金属音とともに絡みつきました。

「あわわわ!あんなことしていいわけ!?」

その飛距離もさることながら、器物破損の現行犯を目撃したショックのほうが大きく、どっと汗が流れます。

「いや、あれウチの兄ちゃんの家だから。でもって、巻きついたのが奴の所持してるPCね。それに…」

ここで、ハッと何かに気づいた前田君。

兄弟のものとかそういうのは抜きにして、まさかあのPCを手繰り寄せる気なのか!?

よく見るとモニタ以外にもスキャナやプリンタらしき機材が接続されており、とても女性の力でここまで動かせるとは思えません。

しかし、次の瞬間…

ワイヤーからバリッ!という電気が流れる音がしたかと思ったら、0コンマ数秒の間を置いてボン!と爆ぜる目標のPC。

「って、ヒートロッドかよ!!」


■ヒートロッド■

ジオンのMS・グフの装備で、高圧電流を流して敵のパイロット及び電子部品に損傷を与える武器。
ノリスが搭乗したカスタム機のヒートロッドが、まさにこのゲームのワイヤーそっくりのものだった。



「…いや、こないだ兄ちゃんとケンカしたから、その腹いせにやっちゃってもいいかなーとか思って」

「いいわけないし、ゲームの種類も違うし、なにひとつ合ってるものないじゃん!!


途中まで自分も乗り気だっただけに、この人を馬鹿にしながら生きているような生き物に、涙ながらに詰め寄るかわいそうな7歳児。

「う…わ、わかったわよ。今回はあたしが悪かったわ、反省する」

子供に泣いて抗議をされては、さすがにバツの悪さを覚えるうめ。
素直にやりすぎたと謝り、ヒートロッドを片付けます。

そしてソフトの他に駄菓子もあげて前田君を泣き止ませさらに数時間、遊び相手を務めたことでようやく許してもらえたのでした。

「あー、疲れた…ちょっと今日は失敗したわー…次からもっと上手くやらなくちゃダメね…」

ちっとも懲りてないうめ。その夜、帰宅した兄が自分のしわざと気づき、さらにケンカの規模が拡大したのは、また別の話…。つーか、懲りろよ

                    −続く−

□今回のうめファイル□
【ワイヤーアクション/ヒットラーの復活】

武装汎用度 ☆☆★★★
PC破壊度 ☆☆☆☆☆
レオパル度 ☆☆★★★

■ここで使…っちゃダメ!■
・精密機器の近くなど


筆者はその昔、親のネックレスをコンセントにつっこみ感電して指を火傷したことあります。(←バカ100%)

(文責:鳥乃かず)


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