その8 【キノコと神様】


キーン コーン カーン コーン…

授業の終わりを告げるチャイムが教室に響くと、生徒は皆、黒板に殴り書きされた文字を手振りを添えて怒鳴るように話す教師に、うんざりとした視線を向けます。

柴田かついえ。

校内では”厳しい先生”として知られ、多少の時間オーバーなど全く気にしないで説明を続ける剛の者。

どことなく嬉々とした表情で、授業時間内にまとめ損なった項目を話そうとさらに口を開きかけましたが、ふと、とあるものが目に映ると、それを止めて自身も出席簿やチョークを片付けはじめました。

「?」

普段は絶対にそんなことはしないので、何事かと顔色をうかがう生徒たち。

その理由は、教室の片隅―正確には片隅の席に座る一人の人物ですが―にあったのでした。

なんと、机に深く体を倒して、眠る生徒がいるのです!
…悪い夢でも見てるのか、苦悶の表情を浮かべながらうなってはいましたが。

(ほぅ、自分の授業で居眠りとはいい度胸だな)

半ば呆れながら、しかし一方ではふつふつと怒りがこみあげてくるのを感じながら、その人物のところへツカツカと歩み寄ります。

「…おい、関ケ原」

いまだうーんうーんと唸りながら夢の中にいる生徒…うめを起こしにかかる柴田。

ガクガクと肩を揺らしてみますが、小癪にも目を覚ます気配はまったくありません。

それどころか一言小さく「1UP…」と寝言が返ってきたのが、意味が分からないことも手伝って余計に気持ち悪く、ちょっとひるんでしまいます。

が、自分とて校内では生徒たちから鬼教師と呼ばれ、恐れられている男。

ここで退くことは、すなわち負けを認めたことであって今までのイメージがガラガラと音を立てて崩れていくのは火を見るより明らかというものです。

遠巻きに眺めているクラスメイトにも見せつける意味も含め、大声で叩き起してやろうと息を吸い込んだ瞬間。

「…レジェンド・オブ・クッパーーー!!!!!」

限界まで目を見開いて、そんなことを叫びながら飛び起きるうめ!

「っ!!!?」

逆に溜めた息を吐き出すタイミングを失い、限界を突破して危なく逝きかける柴田!

教室内に緊張が走るも、なんとか大丈夫だったらしく、ゲホゲホと咳き込みながら涙目で元凶を睨みつけます。

「あ、柴田先生、どうしたんですか?そんな限界まで息吸っちゃったみたいな顔して…」

もう少しでとんでもないことになっていたのも知らず、額に汗して先生を気遣うデンジャラス女子高生。

「貴様に自覚があれば学生時代にならしたボクシングの腕前を披露してフラッシュピストンマッハパンチの餌食にしてやるところなんだがな…」

Jかよ!

「…ごほん。ところで関ケ原、お前いったい何の夢を見ていたんだ?やけにうなされるわ、1UPとか寝言言うわ…気になってしょうが…」

「そうそう!そうなんですよ!実はですね!」


言い終わらないうちに自分の話をはじめるうめにまたも怒りを覚える柴田でしたが、とりあえず一応の会話は成立しているだけでも良しとして、続けさせます。

「スーパーキノコ!知ってます?マイタケとかシメジじゃなくて、スゥパァ・キノゥコォ!」

最後、英語っぽいイントネーションでしゃべってますがキノコは当然日本語です。キノゥコォ


■スーパーキノコ/スーパーマリオシリーズ■

主に?マークのついたブロックの中から発見される、食べると身体が大きくなる素敵なキノコさん。
北斗神拳で秘孔を突かれても似たような状態になるが、その後待っているのは「あべし」か「たわば」である。



「え?あ、ああ。あれか、マリオの。昔、息子に付き合ってファミコンでやった記憶あるな。それがどうかしたのか?」

何かと思えばゲームの話で、予想していなかった展開に少々面食らいますが、自分も知っていることだけにやや興味をひかれます。

「そうです!それを上手く使って生活に役立てる方法を思いついちゃったんですよ!夢の中で!!」

「…」


理解の範疇を超えたことを、さも当然のごとくサラリと言われたせいか、グラリと大きく揺れる彼の身体と脳みそ。

ここは高校のはず…自分が得てきた歴史の知識を生徒に教える場であり、決してドットで描かれたキノコを語る場ではないッ…!

「な、ならば聞かせてもらおうじゃないか。お前はスーパーキノコで大きくなって、どうするつもりだ?」

納得のできない中途半端な答えでも出そうものなら、それこそ今ここでねじ伏せてやる!

危機を好機に変える逆転の発想で、攻めに転じる柴田。

所詮はゲームの中の出来事である。実際にはありえない現象など論破できないはずがない、と勝算も十分にある…はずでした。

「魔王バリから三界を取り戻します」

「ヴァ…ヴァーマナ!!?」



【ヴァーマナ/ラーマーヤナ(インド神話)】

インドの最高神・ヴィシュヌの10ある化身のひとつで、「矮人」という意味の名を持つ小さな僧侶。
世界を支配するバリに三歩分だけの土地を要求し、承諾されると巨大化して三歩で天上・地上・地下を歩いた。



ちゅどーん。(撃沈)

論破するどころか、あんぐりと開いた口がふさがらずただただ奥歯の虫歯をさらけ出す柴田。

今年で教員生活20年になりますが、これほどの強敵に出会ったことは一度としてありません。

世界中捜してどこにいるでしょうか、スーパーキノコとインド神話を結びつける女子高生が!

「ちなみに3作目ではじめて登場したカエルスーツは、マツヤという大きな魚の化身と一緒で大洪水から…」

まだまだ続く神話談義をよそに、麻痺した思考回路を戻そうと歴史の年表を片っ端からつぶやいていきますがうめワールドもそれに負けないスピードでどんどん展開されていくため、時間だけが過ぎていきます。

「認メタクナイッ!認メタクナァーイッ!」

ついには限界を突破したか、火山が大噴火する場面を背景に、ハロ口調で感情を爆発させてしまいました。

ここだけCV:三石琴乃で。

「ちなみに、今度のテストで多分出るだろうから、皆チェックしといたほうがいいかも!」

さらにとんでもない発言に「本当に!?」と驚きの表情で一斉に柴田を見るクラスメイトと、それを受けて全力で頭を振る柴田本人。

「お前は…も、もういい!これで授業は終わりだ!」

これ以上関わると度を超えて危険だと判断したのか、捨て台詞を吐くと、白髪の混じった髪を振り乱しながらドカドカと教室を出ていきます。

…しばらくして、足音が完全に聞こえなくなるのを確認してから、歓声が沸き上がる教室内。

あの鬼教師を前に一歩も退かず、そのうえ撃退するという大金星をあげたうめに対して称賛の声が降り注ぎ、それはしばらく途切れることはなかったといいます。

…もちろん、この一件で先生の心象は最悪となり、彼女の歴史の評価はテスト以前の問題で散々だったことは言うまでもありません。頑張れ!うめ!

                    −続く−

□今回のうめファイル□
【スーパーキノコ/スーパーマリオシリーズ】

菌糸度 ☆☆☆★★
巨大化度 ☆☆☆☆☆
うめ評価度 ☆★★★★

■ここで使え!■
自分の部屋を他人に占領されているときとか


1歩で地上、2歩で天上、3歩目でバリの頭を踏みつけて地下に押しやったとか。面白いですよねー、神話って。

(文責:鳥乃かず)


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