| 出 典 |
クルーグマンの良い経済学 悪い経済学「アジアの奇跡という幻想」 |
| 発 表 |
1994/11〜12 |
| 内 容 |
■なぜ、ソ連経済は減速したのか? アジアの経済成長は1960年代のソ連経済の発展と類似している。アジアの急成長は、一般にいわれるほど先進国にとって参考になる面はなく、今後の成長率は予想されているほど高くはならないと見られる。 1950年代から60年代にかけて、ソ連の経済成長が西側にとってどれほど驚異的であり、どれほど大きな脅威と映ったかをおぼえている人はほとんどいない。当時、フルフチョフ首相は国連総会で靴で机をたたいて「おまえ達を葬ってやる」と叫んだ。これは、軍事力ではなく経済力に対する自信から出た言葉である。 経済成長は、二つの源泉によるわと考えることができる。一つは「投入」の増加である。雇用の増加、労働者の教育水準の向上、物的資本(機械設備、建物、道路など)のストックの増加である。もうひとつは、投入一単位あたりの産出の増加である。これは、経済運営や経済政策の改善による場合もあるが、長期的に見れば、知識の蓄積によるところが大きい。ここで重要なのは、ある国の一人あたりの所得が長期にわたって伸びつづけるとすれば、それは、投入一単位あたりの産出が増加している場合以外ありえない、という点である。 そこで、ソ連の経済成長について調べてみると、ソ連の経済成長は投入の急激な増加のみによるものであることがわかった。効率性の伸びは低く、西側諸国をはるかに下回っていた。効率性の伸びが事実上無かったことを示す推計もあったほどだ。研究者にとって意外だったのは、投入の影響をすべて考慮すると、成長率のうち、「投入」によって説明できない部分が残っていなかったことである。ソ連の経済成長がこれほどすっきり説明できるとは、思いもよらなかったことである。 経済成長がほぼすべて、投入の増加によって説明できる点から、重要な結論を導くことができた。第一に、計画経済が市場によりすぐれているという主張は誤解に基づいていること、第二に、投入主導型の成長にはおのずと限界があり、ソ連経済が減速することはほぼ確実なことである。 ■90年代のアジアは? 1950年代のソ連がそうであったように、アジアの新興工業国の高度成長も、資源の総動員が最大の要因となっている。経済成長のうち、投入の急激な増加によって説明できる部分を除けば、残りはほとんどない。高度成長期のソ連がそうであったように、アジア諸国の経済成長も効率性の上昇ではなく、労働、資本などの大幅な増加が原動力になっている。 シンガポールは1966年から90年までのシンガポールの経済成長率は年率8.5%となっており、あめりかの3倍である。人口に占める労働者の割合は27%から51%に上昇している。労働者の教育水準は飛躍的に向上しており、1966年には労働者の半数以上が学校教育を受けていなかったが、90年には2/3が高卒以上である。さらに、物的資本に膨大な投資を行っており、投資率は11%から40%あまりに上昇している。 こうした数字から、シンガポールの経済成長が1回限りの行動様式であることが、はっきりわかる。ここ30年の間に人口に占める雇用者の割合は倍増したが、これから、さらに倍増することはない。今後30年の間に、労働者の大半が博士号を持つようになるとは考えられない。シンガポールが今後も従来どうりの成長率を続けることはありえないことは、一目瞭然である。 |