モグラ
ずっと昔、私がまだ子供だった頃、
私の人生は今よりずっと複雑で深刻だった。
私には恐れるものが沢山あって、暗闇が怖くて、
自分に残された時間が過ぎていくのが怖くて、
暗い部屋のベットの中で、デジタル時計の時間が
進んでいくのを見つめ、ただ、気ばかりが焦って、何時間も
眠れずにいるような、何だかとても気難しい子供だった。
ある日、私は、自分のそんな考えを母に告げた。
すると母はびっくりして、あきれたようにこう言った。
「“残された時間”なんて、考えたこともない!
あのね、生きていくということはね、
モグラが穴を掘るようなものなのよ。
自分の後ろには、今まで掘ってきた穴が
あるけれど、自分の前には何にもないのよ。
どんどん、どんどん穴を掘っていって、
もう掘れなくなったところまで生きるってだけのことよ」
母はいつでも確信に満ちた、ものの言い方をする人だったけれど、
(そして、それは今も、まったく変わらないけれど)
そのときは、いつにも増して、確信に満ちていた。
当然のように、何でもないことのように、言い放った。
母の言うことは、いつでも絶対だったから、私の苦悩は氷解した。
私は今日も、自分のペースで、楽しく穴を掘っています。