![]() | 私が「華氏911」を見ない理由 | ![]() |
先日の日本語ニュースで、マイ ケル・ムーア監督の「華氏911」の、日本で放送した特集番組をやっていましたが、実際のところ日本ではどれぐらいウケてるんでしょうね。今まだアメリカでも上映していますが、自分としては絶対に見ない映画です。
そう書くと、「4年ごとの憂鬱」で民主党のケリー候補の事を色々書いたので、共和党支持だからかと思われそうですが、私は日本人でアメリカに住む永住権保持者なので、アメリカでの選挙権はないんです。
ですから、政治の事をいくら論じようが、しょせんは門外漢でしかありません。
私が「911」を見ないと決めたのは、社会派として頭角を現したはずのムーア監督に失望したからでした。彼の経歴はもう有名ですから細かい事は書きませんが、その名前を一躍有名にした「ロジャー&ミー」を悪く言う人は、まずいません。当時無名だった彼にGMの社長が面会するはずもなく、アメリカ社会の明暗を浮き彫りにしたことで、高く評価されています。
でも、彼の名前を一番身近にしたのは「TV Nation」というテレビ番組だと思います。
当時のアメリカのテレビ番組の放送形態は、今よりハッキリ区分けされていました。
9月ごろから新番組が始まり、年が明けるとその新番組の再放送を中心に流し、6月末ぐらいから9月まではテレビも夏休みで、短期特別番組や映画や再放送でお茶を濁していました。
短期特別番組は、まだ名もない人達の登竜門のような役割も持ち、夏に視聴率を上げたために9月からの本放送に食い込むことは珍しくありませんでした。
そして「TV Nation」もその一つでした。
ただ、ムーア監督の手法が手間ひまがかかるために、本放送にするのが難しかったらしく、新シリーズにはならなかったものの、翌年夏に再びワクを取ったと記憶しています。日本では公開されていないようですが、「ロジャー&ミー」に続く大企業エグゼクティブへの辛辣な批判、巧妙な映像編集によるメディアのウソ、都市伝説、法律の落とし穴、そういうものを微に入り細にわたり解き明かして見せ、そのクソ真面目なところと絶妙な間の取り方が笑いを誘い、大評判になりました。
その後の彼の作品のアイディアのほとんどがこの番組の中に集結されています。
私も毎週楽しみにしていました。そう・・・私もムーア監督の姿勢が大好きでした。
でも、彼は社会派であっても、実は公平なものの見方が出来ない人だったようです。1997年からの2期目のクリントン政権の時。
この時の事件といえば、大統領執務室で研修生となさっていたのが一番の話題でしたが、それ以外にも経済の事や軍部の事など、1期目の終わりに近づけば大概は色々な問題が噴出してくるようです。大統領本人の問題もあるでしょうし、野党が次期政権奪回を狙って様々な罠を仕掛けて来る時期だからです。このころ既に、社会派ドキュメンタリー映画と言えば名前が上がるほど、ムーア監督は知られていました。ですから、何かあるたびに意見を求められていたのですが、彼がクリントン政権に対してまともに受け答えをしたことはありません。むしろリポーターから逃げてまわる姿勢が、マスコミで取り上げられたほどです。
作品は発表し続け、評価は得ていましたが、政治を扱ったものはひとつもありません。それはそれで、政治でなく社会へ目を向けたということで良いとしましょう。
ところが研修生との事が大統領弾劾裁判にまで及ぶに至り、彼も避けられないと感じたのでしょう、1度だけインタビューに答えたのを見る機会がありました。
「それは個人的な事なのだから、大統領職務には関係ないと思う。弾劾は馬鹿げている」
一言一句覚えているわけではありませんが、饒舌な彼に似合わず言葉少なに述べた、その内容に失望しました。大統領が追求されたのは、若い子と浮気をしたからではありません。
真実しか述べないと宣誓をして、それでも虚偽の申し立てをした事が発覚したのが問題でした。
むしろ正々堂々と関係を喋ってしまえば、クリントン氏の人間性は問われるかもしれませんが、独立捜査機関から大統領生命を問われるほどの査問は受けなくても済んだんです。
宣誓した上で真実を語るのですから。英語が第二言語で一主婦である私でも分かるようなこの違いを、アメリカのドキュメンタリー界を代表するムーア監督ほどの人が混同するものでしょうか。
もしそうだとしたら、そんな人が作った「華氏911」は、どの程度の暴露映画なのでしょうか・・・?その後、クリントン政権に取って代われなかったゴア元副大統領への沈黙と、勝って政権を取ってしまった子ブッシュへの強気な対応を見てようやく分かったのが、ムーア監督という人は中道の社会派などではなく、単なるバリバリの民主党員だったという事でした。
それで、アメリカの映画評論家の中には「華氏911」の事を「これはドキュメンタリーなどではなく、単なるプロパガンダ(思想宣伝)作品だ」と臆せず言う人がいるんです。ところでこの映画、公開する前に「ディズニーから公開拒否された」と問題になりましたね。
奇しくも発表があったのが、カンヌ映画祭の直前でした。
「発言の自由」を巡り、大論争になりました。
今年公開予定で政治的内容を含んだものを、大統領選挙の年に、ディズニーの社長がいかに経営手腕に疑問を持たれる人であっても、そんな馬鹿な事はしないだろう、話題になってムーア監督に有利になるだけじゃないの・・・と思っていたら、大騒ぎになったので、すぐにディズニーに変わる配給元が見つかりました。これも、実は配給拒否の通告を受けたのは1年ほども前の事だったと、ムーア監督自身があとからインタビューに答えて謝罪していました。
こんなに頭のいい人が、1年も前の事を昨日と間違うものでしょうか。
結果的に素晴らしい宣伝効果がありましたが・・・そんなわけで、この映画に関するムーア監督の言動は、納得出来ない事ばかりです。
いつもと比べてもあまりに挑発的な彼の態度に、却ってウソを感じてしまいます。
だから、この映画は見ません。見る前に知っておかなければならないこと。
これは盲目的に民主党を指示する人が、共和党を批判する為に作った映画です。
それを頭に入れてみたら、かなり笑えるんじゃないかと思います。と言いつつ、ここまで腹が立つのも、それでもムーア監督の手腕と諧謔精神はすごいものだと思っているからなんですね。
こんな馬鹿げた映画、作って欲しくなかったな・・・
