

毎年10月の最終日曜日の午前2時にDaylight Savings Time、いわゆるサマータイムが終り、時計を一時間戻すと、急に日の暮れが早くなって冬の訪れを感じさせ、いかにも晩秋という気がしてきます。そして、このころからシアトルのサングラスの季節が始まります。ショッピングモールの通路にもサングラス屋さんのカートが出ています。
「えっ?」と思った方は正しい。だってサングラスといえば夏のもので、ビーチなんかで紫外線から目を守るためのものですものね。ま、スキー場でなら「冬もサングラス」というのが当り前なんでしょうけれど......。実はシアトルの街は、全米一サングラスの消費量が高いのです。そんなに雨ばかり降るのにどうしてサングラスが要るの?と思った方は常識のある方です。私もここに来る前にそれを聞いて、「きっと雨ばかりなので晴れの日までにサングラスをしまい忘れてしまい、入り用になってあわてて買うから、それで一人が何個も買うハメになるのだろう」と思っていたんです。
もちろんそれも正しかったのですが、このお天気というのがなかなかクセモノだったのです。
カナダと国境を接するワシントン州ですが、そのなかにあってシアトルの緯度は高い、という事は、理科の教科書を思い出していただくと分かるのですが、太陽の光がずいぶん低い角度で入ってくることになるのです。夏場はそうでもないのですが、冬になるにつれて正午の一番太陽が空の高いところにくる、その高さがかなり低くなってきます。という事は、真っ昼間に南をむいて車を走らせると、まともに太陽が視界に飛び込んでくることになるのです。
この季節は通勤もなかなか大変で、ベルビューやレドモンドなど、イーストサイドと呼ばれる側からシアトルへ通勤なさる方はまだいいのですが、ウェスト・シアトルなんかに住んでいようものなら、朝は朝日を見つめつつ、夕方は海に沈む夕日をまともに視界に入れながら、I-5からの複雑なジャンクションを時速60マイルでこなして帰路につかなければなりません。本当のところ、サングラスをかけていなければ何も見えなくなってしまい事故のもとになるのです。それだけではなく、雨が降ったあとに雨期の晴れ間で日が照ってくる時など、低い角度で斜めに入ってきた陽光が濡れた道路で乱反射をおこし、目は眩むしセンターラインは見えないし、これまた危ない事になります。
お天気の事でもう一つ。シアトルの冬の「雨期」というのは日本の梅雨とは違い、ずっと曇天で雨が降り続けるというのではないのです。もちろん頭の上に雨雲があるから雨が降るのですが、なぜかそこに陽が照りつけてくるのですね(^^;)。初めての年に、とってもいい気持ちに晴れているのに雨がザンザン降って、傘をさして歩いている自分にムカッ腹を立てたのを覚えています。これは、やはり緯度が高いせいで雨雲の下から太陽がのぞいている為に起るのだと思っています。日本から来る人達が「アメリカの空は広い!」と感激しますけれど、遠くのほうまであまりさえぎるものがないという事もあると思います。お天気雨の事を、私がいたあたりでは昔は「狐の嫁入り」と言いましたけれど、シアトルにはキツネが山ほど住んでいるんでしょうね。
実をいえば、もっと怖い経験をしたことがあります。近所に買い物に行ったのですが、30分ぐらいで店を出ると空が恐ろしいほど真っ暗になっていて、これは早く帰らないと大変かもしれないと思いました。そこから家までは10分ぐらいなんです。
車に子供を積み込み、エンジンをかけた時点で雨がポツリポツリと降って来ました。それが駐車場を出るあたりでは既に滝のような大雨になり、そこから大通りの信号に差し掛かった時点で、なんと大粒のヒョウになってしまいました。風も強くなってくるし雷も鳴っている、でもそこらあたりに止まるところはありません。仕方がないからとにかくハイウェイまで出て南へ向かって曲がって少し行くと、あろうことか真正面から陽が差してきてしまったのです。
荒れ狂うヒョウで視界が悪い上に直射日光の追い打ちで、ホワイトアウトというんでしょうか、目を開けている事は出来ませんでした。後から考えればハイウェイには路肩があるのでそこに一時停車するべきだったんでしょうが、そんなことは全然考えられず、思わずダッシュボードの中に仕舞っておいたサングラスをかけたのです。それでどうにか道も見えるようになり、無事に戻る事が出来ました。サングラスはお天気のいい時にかけるもの、という観念はそれで吹っ飛びました。それでもまだ、こんな悪天候でサングラスをかけて運転するなんてとムカッ腹を立ててはいたんですが、それ以来、必ず車の中にサングラスを常備しておくようにはなりました。
これはまあ車を運転する人の話ですけれど、運よくお天気に恵まれた日には、キャピタルヒルやファーストヒルからダウンタウンに向かって歩いていく時、真正面のピュージェット湾に沈む夕日をモロに浴びますから案外まぶしいものです。冬の装いをスラリと着こなしてサングラスってとてもキザですけど、カッコいいですよね。「緯度が高いから」という理由にかこつけて、真冬のファッションとして楽しんでみるのもいいかなと思っています。