計量と不変量

片山泰男(Yasuo Katayama)
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一般相対論の計量(メトリック)と不変量についての議論である。

1. ローレンツ変換の不変量
2. 一般の時空での不変量
3. 計量:不変量の式の係数
4. 変換と計量
5. 宇宙とブラックホール外部時空
6. ブラックホール周辺の座標系
7. ブラックホールへの自由落下系
8. 座標変換における不変量
9. 光速は、一定?


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1. ローレンツ変換の不変量

特殊相対論は、時間と空間の絶対性を捨て、同時刻の定義からローレンツ変換を導いた。 このとき原理(前提、公準)としたのは、特殊相対性原理と光速一定であった。 よくみると、加速度が時計に影響を与えないという、時計の公準もあった。 ローレンツ変換は、慣性系間の速度による時空の変換を与えた。時空という基本的なもの を変えるので、それ以外の物理量もこれに伴って変換されるものが多いが、 変換が保存する不変量が固有時であった。どの系からみても変わらない事象間隔である。

s^2 = t^2 - x^2 - y^2 - z^2

固有時の概念は、局所現象が変わらないための要請のようにみえる。 遠方の事象の前後関係は、系によって違って見えてもよいが、 持ち運ぶ時計の時間測定、ひとつの系内の距離測定は、変換によって変わらず、 どの系からみても不変である。

ローレンツ短縮と時計のおくれは、見る系と見られる系の相対速度で起こり、 観測は、ものに影響しない。特殊はまさしく相対的であり、 短縮を受ける系にとって短縮はなく、逆にその系からは相手の系が短縮して見えた。 短縮は、エーテルの力学的な圧縮による短縮でなく、時空の座標変換であった。 特殊相対論は、エーテル概念に最終的な無用宣告をしたはずであったが、 一般相対論は、新たな媒質を作ったように見える。媒質は、光の媒質ではなく、 時空の基本的性質である時計と物差を与える g_ik の計量場である。 観測が局所の事実に影響しないのは、一般相対論でも同じである。


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2. 一般の時空での不変量

一般相対論では、重力を扱える枠組を与えるために、時空の変換をさらに一般化し、 不変量の式が場所と時間によって変わるとした。 特殊相対論の不変量の式 s^2= t^2 -x^2 -y^2 -z^2 を微分化しその係数を g_ik として一般化する。

ds^2 = ΣΣ g_ik dx^i dx^k  (i,k= 1〜4)
   i k

距離の2乗の和が一定というピタゴラス的な式がどうしてこのような式に変化したか。 重力を扱うには局所的変換を使う。系内で、場所によって変換が違う。 変換は時空の関数である。固有時、固有長を表す s は、微分化された ds に変化する。 今、x, t だけに制限して、微分可能なグローバルな連続関数 f(), g()を考え 一般座標変換を次のように表す。

x' = f(x, t)
t' = g(x, t)

微小な距離 dx, dy, dz と微小な時間 dt を考え、それらが変換を受けると考えると、 微分時空 (dx,dt) の変換は、1次変換になる。

dx' = a dx + b dt
dt' = c dx + d dt

ここで a〜d は時空の関数。任意の系 (x,t) からミンコフスキー時空 (x',t') への変換を行い、慣性系の不変量を使って、

ds'^2 = dx'^2 - dt'^2
= (a dx + b dt)^2 - (c dx + d dt)^2
= (a^2 - c^2)dx^2 + 2 (ab - cd) dx dt + (b^2 - d^2)dt^2
= g_11 dx^2 + g_14 dx dt + g_44 dt^2

三つの係数 g_ik を使い変換に対応する不変式ができる。g_ik も時空の関数である。


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3. 計量:不変量の式の係数

x,y,z,t で考えると、最初の式になる。アインシュタインの省略法によって、 添字の i, k が2 度以上出るとき、i,k に渡るΣを省略する。

ds^2 = g_ik dx^i dx^k  (i,k= 1〜4)

微分時空の不変量は、dx^i dx^k に対応する係数 g_ik 積和したものであり、 2 階のテンソルの i, k が 1〜4 に渡る16個の実数の成分であるが、積の係数は g_ik = g_ki (対称)であり、 そのうち10 個が独立。g_ik は、基本テンソル、メトリック、計量、尺度、 又はアインシュタイン自身が重力ポテンシャルともいう。計量は、局所時空の性質を示す。

不変量を与える式の係数 g_ik は、グローバルな時空の関数としての物理量、場とする。 g_ik 場は、物質とエネルギーの配置によって重力方程式から計算できる重力場である。 アインシュタインの重力方程式を解いて、大局的に求めるものである。

g_ik は系に依存する。普通、g_ik は、グローバルな慣性系からみたものである。 全ての時空点には、局所慣性系、測地系があり、それは方向と速度によって無数にある。 局所慣性系からみるとその点の重力はつねに局所的に消去でき、g_ikは、 平坦なミンコフスキー時空となり、g_ik の空間微分は、0 になる。

不変式の係数が時空点だけでなく、系にも依存するので、ことは複雑で、何が不変か理解しずらい。 しかし任意の時空点の測地線はどの系からみても測地線であるように、ある時空点の性質は、 g_ik によって全て記述される。


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4. 変換と計量

ローレンツ変換は、慣性系の間の相対速度だけによって、時空の尺度を変換させ、 全く同じ平坦ミンコフスキー時空の系同士で時計や物差しが互いに違ってみえた。 それに対して、無限遠からみた重力井戸の底の時間の経ち方は遅く、 重力井戸の底からみる天空の時間の経ち方は速いように、 一般相対論のグローバルな変換は、相対的でなく絶対的である。

g_ik 計量は、平坦時空への時空の変換を与えるが、その値がそのまま一般座標変換を与えるわけではない。 遠方の平坦時空からみたその点の g_ik は、不変量の式の係数であり、一般座標変換の係数ではない。 g_11 は、a^2 そのものではなく、a^2 - c^2 である。g_44 は、-d^2 ではなく、b^2- d^2 である。 しかし、それらが近似するときそれで代行でき、g_ik が平坦時空への一般座標変換の近似をする。

座標変換から計量を作るのは一意である。しかし、逆に g_ik から a〜d を求める場合、 g_11, g_14, g_44 から、4個の a〜dを求めるのには、方程式がひとつ足りない。

a^2 - c^2 = g_11
2(ab - cd) = g_14
b^2 - d^2 = g_44

それは、平坦時空も無数にあり、どの局所慣性系に変換するかを指定しないため、 慣性系間の並進速度によるローレンツ変換の分が不定だからである。 変換時にこの時空点を静止にする局所慣性系に変換するには、 dx'/dt = 0 または、dt'/dx = 0 を満たせばよい。次式で bc = 0 であればよい。

dx' = a dx + b dt
dt' = c dx + d dt

c= 0 を使うと、a^2= g_11, 2ab= g_14, b^2 - d^2 = g_44から、 a= √g_11, b= g_14/(2 √g_11), c= 0, d= g_14^2/ (4 g_11) - g_44 になる。

一般相対論では、一般にローレンツ変換は、その時空点の無限小領域での局所慣性系間に だけ成立する。平坦な時空も加速度系からみると、g_ik が場所によって時間の経ち方も違い、 g_ikが一律でない。


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5. 宇宙とブラックホール外部時空

アインシュタインの定常宇宙では、宇宙の中心から x^i 方向の周辺で g_ii が大きかった。 計量が大きい点では、その扱われる感度が高く、延ばされて普通の厚みとなるため、 物体はその方向に短縮している。アインシュタインの定常宇宙の周辺時空には、 速度なしに周辺短縮があった。

ブラックホールの周辺時空では、遠方の平坦な時空から眺めたとき、半径方向の g_ik が大きく、時間方向が小さい。そして、そこからの光が赤方変移する。 江里口良治著、"時空のゆがみとブラックホール" (丸善)では、 そこでは半径方向の距離が延びていると説明されている。 私は、逆にブラックホールの周辺は平べったく短縮しているとみるべきだと思う。 g_ik は、不変量の式の係数であるから、半径方向に短縮したのを拡大することであり、 時間方向には、延びて長いものを縮小することである。

特殊相対論のローレンツ短縮と時計のおくれでは、空間は短縮、時間は伸長であること、 それと時空に対称なローレンツ変換との関係の問題を以前説明した。 このブラックホール周辺時空では、時間の係数 g_44 は小さく、短縮である。 時間短縮がどうして、赤方変移につながるかと考えれば、この扱いが理解できる。

変換では時間方向の短縮は、動作の高速化、青方変移にあたる。 事実としての重力井戸からの光の赤方変移を受け入れるには、g_ik が不変式の係数 であることを思い出さないといけない。この係数がかかって正常にもどして平坦系に 変換するから、そのもとの dt^2 は大きく、時間の経過が延びていてゆっくりであることを表している。

半径方向の大きい g_ik も、引き延ばされてはじめて正常に戻るのであり、 その元はひらべったくブラックホールに張り付いた紙のようになっていると考える。 ブラックホールの周辺に踏みとどまった系、その時空点に静止する平べったい人にとっては、 半径方向の空間が引き延ばされていて、事象の地平線は近いはずが遠方であり、 近付いても近付いても、いつまでも遠いということになる。


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6. ブラックホール周辺の座標系

任意の時空点も、局所慣性系からみれば、平坦なミンコフスキー時空になる。 ブラックホールへ自由落下する系では、無限遠の平坦時空と局所の物理現象 は同じである。そこでの時間の経過のしかた、そこでの物差しの長さ、その点 の時空そのものが無限遠の時空と直接ローレンツ変換できるだろうか。 自由落下系の g_ik が平坦であっても、時間の経過や物差しが遠方と直接変換 できるのだろうか。

ブラックホール周辺の時空を g_ik が半径方向に大きく、時間方向に小さいとみるのは、 中心との相対速度のない遠方の静止系からみたときである。 赤方変移は、ブラックホール周辺に踏みとどまっている系からの光であり、 それと速度をもった自由落下系からの光がそうであるわけではない。 自由落下系はそこでは光速に近い速度を持っているだろうか。 いや、踏みとどまった系からみると、自由落下系は光速に近いだろうが、 遠方からみると、静止系と同じく自由落下系も、大きな速度を持っていない。 だから、自由落下系からも、踏みとどまった系からも、その場所からの光は、 大きな違いがないと考えるべきだろう。

(a)平坦な無限遠の静止系、(b)ブラックホール周辺に踏みとどまっている系と、 (c) b から今しがた離れたばかりの局所慣性系、(d)そのそばを通り越していく、 無限遠から飛び込んできた局所慣性系、と分けて考える。 重力方程式のシュワルトシルト解が与える g_ik は、 (a) からみた (b) の点の g_ik である。そして、(c) と (d)とは、 ともに局所の慣性系でありローレンツ変換でき、互いに相手が短縮してみ、相手の時計の遅れがある。

(b) と (c) とは、系間に速度がなく、局所と遠方からの光の見え方に違いがない がその大きな違いは、g_ik が違うことである。(b) から (c) に移るとき、 中の人は重力から開放され、平坦時空になる。


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7. ブラックホールへの自由落下系

ブラックホールを扱う SF は多いが、中でも印象の深かったのは、 フレデリック・ポールの"ゲートウエイ" である。続編が 4 まで続いた。 基本的なテーマは、ブラックホールに落ちていった恋人を、何年もたってから 救出にいくことである。ブラックホールに落ちるということが、どのような 時間関係をもたらすかは、なかなかの難物である。

ブラックホールは、凍結星と呼ばれたように、落下物が周辺に凍結している。 ブラックホールへの自由落下系も時間の経ち方の比率が遠方とは、無限大になる。 自由落下する人にとって事象の地平線、境界を越えるのは、殆んど一瞬であるが、 平坦な遠方からみると、それがシュワルツシルト境界を越えて落下するのは 宇宙の終末まで待たなくてはならないという。

超新星爆発のとき形成されるブラックホールも、物体落下に無限の時間がかかるなら、 そもそもブラックホール自体が形成できないのでは、という疑問がわく。 ブラックホールは、形成されてから大きくなる必要がないのか。一瞬にできるのだろうか。

落下物は、数ミリ秒で見えなくなって積み重なって、それが内側にはいることを永遠 に見届けることはないという。しかし、落下物が周辺に固まると、 ブラックホール自体がそのシュワルツシルト半径を広げることはあるだろう。 それは、永遠よりはずっと短い時間だろうから、 事象の地平線への越境を我々が見届けることもあるだろう。 そしてブラックホール自体の形成も可能ではないだろうか。


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落下物は、まだ、局所的な光の速度に達しない。だからつねに外からの光に追い越されている。 境界を越えるその一瞬前に外の永遠の光を受け、宇宙の全ての歴史を眺めるだろうか。 宇宙が閉じているなら、最後に 1000 億年後のビッグクランチの光を見て、地平線を 渡ると同時に宇宙の終末を経験するのだろうか。

落下物は、外からの青方変移した光を反射すれば、見えなくなるのではなく、反射光が赤方変移してもとの光に戻るのではないか。 踏み止まっている (b) か、(c) なら、外光に照らされて見えるべきだろう。 しかし光が X 線、γ線に青方変移すると、物体を通過して反射しないだろう。 そこまで変移するのに、外側で時間がどれほど経つのだろう。あっという間だろうか。 (d) は、光の来る方向とは逆方向に逃げているので、反射光は入射光と同じ色ではなく、 ドプラー効果のために赤方変移する。そのため見えなくなるという説明も正しいのだろう。

さて、(a)は遠方の慣性系で(c)が局所慣性系であり、その間の時空の変換がその相対速度だけで、 できるとするなら、どうなるだろう。その半径方向の厚みの短縮と時計のおくれは、 特殊相対論で説明できることになるが、(c) は、光速に近い速度でそのまま境界に飛び込み、 決してブラックホール周辺に凍結しないことになる。

離れた局所慣性系でのローレンツ変換は、怪しいとすると、次のようになる。 (a) からみて、(b) は薄く(半径方向に短縮)時間が止まっているが、 (b) から (c) になると厚みと時間進行が回復する。 (c) と (d) は互いにローレンツ変換でき、(c) からみて(d) は薄い。 だから、(b) と (d) は同程度に薄いのである。


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8. 座標変換における不変量

座標変換における不変量というものがどういうものかを考える。通常の2次元平面上で、

ds^2 = dx^2 + dy^2

という三角形のピタゴラスの法則が成り立ち ds が不変量ならこれは、物体の自然な回転を与える空間である。 座標軸をどう取っても、図形自体が変形しない空間である。それがもし、

ds^2= dx^2 + 4 dy^2

という不変量なら、図は変形する。y 方向に立てた小さな棒を x 方向に倒すと長さが 2 倍になる。 これはありえない比喩ではなく、不変量とは、変換を与えるものである。

その場所その時刻では、それが図形の回転における変換法則であり、x 方向と y 方向が同じ性質をもたないのである。 立てた棒を倒すと、長さが 2 倍になる ということは、その点の空間が歪んでいるため、y 方向にすべて物体が、図形が、 縮んでいるということである。そのことは、その局所で知ることは難しい。 物差し自体も倒すと 2 倍の長さになるからである。

時間を含む形で考えると、 x 方向に速度 v で進む物体をみるとき、y, zは関係なくて、 +dy^2+dz^2 があるが、いまそれを省略する。不変量が

ds^2 = dx^2 - dt^2

であるのがローレンツ変換である。しかしもし、

ds^2 = 4 dx^2 - dt^2

が不変量であるなら、そこでの現象は、違ったものである。 ds= 0をいれれば分かるようにその点の x 方向の光速は 0.5 になる。 これは、x 方向に空間が 1/2 に短縮しているから、そこの光速も 0.5 とみるべきだろう。 もし、x 方向の目盛を粗く測る x' 系を仮定し dx'= dx/2 とすると、 ds^2 = dx'^2 - dt^2 になって、ローレンツ変換の式になるが、x'系からみると x 系は短縮している。


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9. 光速は、一定?

シュワルツシルト解のブラックホールの周辺の時空では、

ds^2 = 2 dr^2 - 1/2 dt^2

のような形をしている。2 にあたるのが、1/(1-a/r) a=2GM/c^2 である。 半径方向の係数が大きく、時間方向の係数が小さい。 式に ds= 0 をいれると dr/dt = 0.5 になるから、ここでは 光速が0.5である。 半径 r 方向は、無限遠の平坦時空からみれば短縮している。 時間経過は、延びてゆっくり進み、そこからの光は赤方変移する。 つまり、通常の物差しのサイズと事象の時間間隔は、1/√g_ik という不変式の係数の ルートの逆数に伸縮されている。光速は場所によって異なるのである。

時空点によって光速という基本定数が違うことは、信じ難いことではある。 これは、遠方からみたこの時空点であり、その時空点にたった人のみるこの時空点ではない。 その時空点に立つと光速一定であり半径方向に短縮した世界にいる人は、短縮を意識しない。 そこでは、物差しも立てれば 1/2 の長さになる。光速はその時空点に立つと同じになる。 つまり局所では、空間の異方性は見えず、つねに光速一定ではないか。 "定義によってすべての時空点で光速一定" というのは、局所的には正しい。

しかし、局所が局所の性質をすべて打ち消すわけではない。 時空の性質は局所で検出でき、重力のある地上では局所慣性系である放り投げた物体が 放物線運動をする事実は、この時空点に立つ人がみる現象である。光も曲がるものである。 物理法則がそこで違うわけではないが、重力現象は多少違うのである。 本当の光速一定は、局所慣性系についてだけである。

光速は、全ての方向に同じである必要はない。その点に立つと光速は等方的だが、 遠方平坦時空からみると、その点の光速は、その点の異方性に影響され、x^i (i= 1〜3) の方向に √(g_44/g_ii) の速度をもつ。ブラックホールの外部では、r 方向の光速は r 方向の短縮と時間経過の両方の影響を受けて上の例では 0.5 倍に遅くなるが、 ブラックホールを周回する方向の残された 2 次元は、短縮していないので、 時間経過による影響だけであり、それほど遅くならず、1/√2 倍にしかならない。