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     Know 脳 Now !!
  -Everybody is Brain-Scientist !-

    Issue 26 (2002.02.04)
    発行部数 2798部
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Contents
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1. Brain News
     ダイナミックな神経活動をとらえる

2. Next View


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1. Brain News
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●ダイナミックな神経活動をとらえる

 私たちは例え同じ状況にいたとしても、そのとき何に注目するかによってものの感じ方や行動が全く異なることがよくあります。

 例えば、絵を鑑賞するとき、色に注目すれば、その細やかな色使いに見とれるでしょうし、絵柄に注目すれば、その創造性あふれる絵柄に感動をおぼえることもあるでしょう。

 しかし、これら二つの状況で、目の前にある絵画そのものが変わったわけではありません。私たちの脳の中で何か違うことが起き、結果として異なる感じ方を体験したと考えるのが自然でしょう。

 では、その「何か違うこと」とはいったい何でしょう?状況によって注目するものが変わるとき、脳の活動はどのように変わるのでしょうか?

 英科学雑誌ネイチャーに最近報告された研究によると、視覚刺激の意味付けの違いによって、頭頂葉のニューロン活動がダイナミックに変化することが明らかになりました。


<二種類の課題でニューロン活動の違いを調べる>
 今回紹介する研究のアウトラインを簡単に紹介します。

 この研究では、サルに二種類のテスト(認知課題)を行わせ、そのテスト中にニューロンの電気的な活動を頭頂葉のLIP野(*1)という場所から測定しました。

 その二種類のテストでは、「場所」と「色」の情報をあわせ持った視覚刺激(*2)を、テスト問題を解くための手がかりとしてサルに見せます。そして、その視覚刺激をもとに視線を特定の方向へ動かすようにサルを訓練します。

 一方のテスト(“場所テスト”)では、視覚刺激の場所情報をもとに視線を動かさねばならず、他方のテスト(“色テスト”)では、場所ではなく色情報をもとに視線を動かさねばなりません。

 サルがこれらのテストを行っているときにニューロン活動を測定した結果、LIP野という脳領域のニューロン活動の多くは、「色テスト」中に限って、色に対する選択性を持つようになりました(*3)。つまり、「場所テスト」中は、サルに見せる視覚刺激の色の違いによってニューロン活動が異なることはなかったのですが、「色テスト」中には、視覚刺激の色の種類によって同じニューロンの活動が異なってくることがわかったのです。

 このように、色に意味があるかないかによって、LIP野のニューロン活動がダイナミックに変わったわけです。

 これまでの研究では、LIP野という領域は視覚情報の中でも空間情報を主に処理していると考えられていました。ところが、このLIP野では、状況によって色という物の特徴に関する情報までも処理されていることがわかったのです。


<機能局在と全体性>
 脳はいくつもの領域から構成されていて、それぞれの領域が役割分担をしている、つまり脳には機能局在という特徴があることは明らかな事実です。しかし、時と場合によっては、その機能局在という壁を取り払って、使えるものは総動員して、脳全体で一つのことを成し遂げようとする柔軟性も脳は兼ね備えているようです。

 先にあげた絵の鑑賞の例で考えると、色に注目するときと絵柄などに注目するときとで、脳の特定の場所が活動したりしなかったりするのでしょう。しかし、それだけではなく、例え二つの状況で脳の同じ場所が活動するとしても、その活動の仕方が二つの状況下で全く違ってくるかもしれないわけです。

 もしかしたら、脳の同じ場所でも状況によって様々な使い方をできる人ほど、感性が豊かであったり、柔軟な思考ができたり、ということになるのかもしれません。


*ここからは少々細かい説明になりますので、興味のある項目だけ読んでみてください。
<*1:LIP野について>
 LIP野はLateral Intra-Parietal areaの略です。頭頂葉に頭頂間溝(intraparietal sulcus)という溝があるのですが、その溝のところにある領域のことです。

 教科書的には、大脳新皮質での視覚情報処理は、後頭葉から頭頂葉方向へ向けて処理が進む「背側経路」、後頭葉から側頭葉方向へ処理が進む「腹側経路」という二つの経路に分かれるとあります。前者では、動きや場所の「どこ」についての情報、後者では色や形などの「なに」についての情報が処理されています。

 このLIP野は頭頂葉にあるわけですから、前者の「どこ」についての情報を処理するとされていましたし、これまでの実験結果からもそのことは明らかな事実です。ところが、今回明らかになったように、LIP野の多くのニューロンは、状況によって「どこ」という情報だけでなく「なに」という情報の処理も担うことができるようです。その点においては、教科書を少し修正しなければいけませんね。


<*2:二種類のテストについて>
 百聞は一見に如かず、次の図を見てもらうのが一番わかりやすいでしょう。
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1850/fig_dynamiccodingtask.html

 重要なことは、「場所テスト」と「色テスト」で全く同じ視覚刺激を使用しながら、「場所」を手がかりに目を動かして答えるのか、「色」を手がかりに目を動かすのかが違うということです。(*さらに細かいことをいうと、実際の実験では視線の動かし方の違いも無くすように工夫されています。)

 つまり、二つの状況で、入力情報は全く同じですから、LIP野のニューロン活動の違いは、外部刺激の違いに左右された結果ではなく、脳の内部状態の違いを反映したものであるわけです。


<*3選択性とニューロン活動>
 「選択性」と言われてもあまりピンとこないかもしれません。「あるニューロンが色に選択性を持つ」という場合、次のように考えると良いでしょう。

 例えば、動物に様々な色刺激を見せ、そのときのニューロン活動を記録するという実験をしたとします。あるニューロンAの活動を記録すると、赤色の刺激を見せたときには高い頻度で活動したけど、他の色の刺激を見せたときにはあまり活動しなかったとします。そのとき「ニューロンAは、赤色の視覚刺激に対する選択性がある」と言います。

 脳には様々な個性をもつニューロンがいます。特定の傾きの線分に選択性をもつニューロンもあれば、顔など複雑な図形に対して選択性をもつニューロンもあります。逆にいろいろな刺激に対して反応してしまうニューロンもあります。脳はそういった個性豊かなニューロンたちをひとつのシステムとして成り立たせているわけです。

 今回登場したLIP野という場所には、特定の場所に呈示される視覚刺激に対して選択性を持つニューロンや、視線を動かす方向に対して選択性を持つニューロンなどが存在することがこれまで知られていました。その意味では、このLIP野は入力と出力の両方の情報をコードしている場所ともいえます。

 今回の研究で、LIP野の一部のニューロンは色に対する選択性も状況によって持つことがわかったわけです。そう考えると、このLIP野は「様々な情報を統合し出力情報を生みだす領域」、その一つと言えそうです。


<今回紹介した論文>
・Louis J. Toth & John A. Assad, Dynamic coding of behaviourally relevant stimuli in parietal cortex, Nature, 415: 165-168 (2002)


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2. Next View
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 今回紹介した研究は「ネイチャー」に掲載された研究としては少し地味かもしれません。しかし、脳の働き方を知る上では極めて重要な成果だと思います。

 今回紹介した研究のように、状況によって脳の活動がダイナミックに変化することは、複数の実験成果から明らかになってきています。これは私たちが普段体験していることから考えると「ごく当たり前のこと」かもしれません。しかし、よく考えてみると、その「ごく当たり前のこと」が実は非常に不思議なことなのです。

 なぜ脳はダイナミックに活動の仕方を変えることができるのでしょう?

 今回の研究のように、脳は外部刺激に左右されずにダイナミックに活動を変えることができます。どのようにしてそのようなことを実現しているのでしょう?

 このなぞに明確な答えを出した実験結果はいまだにありません。そのなぞに迫るには、とにかく状況証拠でも何でも良いので事実を積み重ねていくということが重要なことでしょう。


*神経科学に関連した推薦図書を以下のWebサイトで紹介しています。専門的な本が多いですが、自信を持ってお薦めできる本ばかりです。神経科学のことを勉強したいという方はぜひ参考になさってください。
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1850/booksindex.html

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