この世には、科学では説明できない不思議な事件が数多く存在するのです。
 今宵はあなたに、その一部をご紹介いたしましょう。




   霊界からのメッセージ 〜倉田かずやの霊と語る〜




青森からの転校生、“恐山イタ子”。生まれながらに特異な霊能力を有する彼女、
その能力を伝え聞いた川澄舞は、親友の倉田佐祐理を苦悩から解き放つために協力を申し出ることを決意した。

「い、いいの! 佐祐理はだいじょうぶだから…」
「…だいじょうぶじゃない…」

なぜか渋る佐祐理嬢。結局、舞に強引に連れられ、交霊の儀が始まったのである。

「………」
「………」

外気より数度低く感じられる密室。その雰囲気に緊張したのか強張った表情でイタ子の変化を待つ二人。

「…う…うう…」

変化は唐突に現れた。苦しそうにうめいたかと思うと、すくっと立ち上がり――

「…ぼ…ぼくは…」

イタ子の声、そして表情は明らかに普段のものとは違っていた。
少年を思わせる甲高い声、とまどいをうかべえた表情…

「…かずや…? かずやなのっ!」

疑問は確信と変わり、佐祐理は思わずイタ子に駆け寄る。
声に弾かれるように、やがてイタ子のうつろな瞳は生気に満ち、はっきりと佐祐理を捕らえた。

「…おねえちゃん…?」
「かずやっ!」

抱き合う二人。
時空と次元を超え、姉弟は再び出会ったのであった。

「ごめんなさい…うう」
「泣かないで、もう泣かないで…」

ぼろぼろに泣き叫ぶ姉を抱き起こすと、その顔を覗き込み、ニッコリと笑って言った。

「ぼくのせいで…すごく傷ついたんだよね」
「ううん、佐祐理が…」
「そのことを重荷に感じて、自分を傷つけるような言動を繰り返して」

大きくため息をつくと、イタ子…もとい、かずやは言い聞かせるように呟いた。

「もう僕のために傷つかないで、おねえちゃんには幸せになって欲しい…」
「かずや…」

見詰め合う二人。

「………」

舞は一瞬、佐祐理の口元が微妙に歪んだのを見た気がしたが、気のせいと自分に言い聞かせあえて無視した。

「僕のことなんか忘れて、好きな人と幸せに………とでも言うと思ったのかっ!」
「へ?」

憤怒の形相に変わる。
佐祐理はおびえるというより、しまったという態であわててあとずさる。

「このアマ。死人に口なしとはよく言ったもんだぜ。あることないこと編集してよくもまぁでっちあげたもんだな」
「な、なんのことですかぁ? あはは…」

事態の変化を呆然と見つめる舞。時空と次元を超えた姉弟ケンカが勃発しようとしていた。

「忘れた、なんて言わせないぜ」

どうやら、二人の過去の認識には、大いにズレがあるらしい。
佐祐理がみなに話していたことなど、氷山の一角にすぎず…

「“チャッカマンで山炎上”事件とか“リアル南極物語”事件とか“線路に置石事件”とか“超神水事件”とか“かずやがパチンコやりたいっていうからー”事件とか、抜け落ちてるだろうがっ!」

そういえば「幼いころの佐祐理はおてんばさんでしたー」と過去に自分で語っていたなと、舞は思い出した。

「あ、あはは…あのときは楽しかったねぇ…」
「楽しいのは姉貴だけだろっ! こっちは口がきけないからって、ぜんぶ俺のせいにされて…。いい機会だ、お友達に悪行をぜんぶバラしてやるっ」
「ひぃっ」

青ざめる佐祐理。
あたふたと左腕の袖を捲り上げ、突き示す。

「ほ、ほらっ! 佐祐理のためらい傷が目に入らぬかー」

最後の切り札。
伝説の自殺未遂の跡を露にし、自己の無実を詠う。

「佐祐理は傷ついたんですよー。言葉どおり傷物ですよー、エヘン」
「なに言ってやがる。ガンプラ作ってる最中、Zガンダムのアンテナを削ろうと小刀使ったときブスリとやっただけじゃないかっ」

なんでも霊界にはアカシックレコードなるものが存在し、それに触れればいかような真実も知ることができるとか。

「あははー、偽かずやの霊め、墓穴を掘りましたねー。かずやはお姉さまにそんな不躾な態度をとる子じゃありませんよー、素直なよい子なんですよー」

自信たっぷりに胸を張って言った。

「佐祐理はガンダム原理主義者ですからねー。ファースト以外興味ありません。あの時作ってたのはガンタンクなんですよー」
「…“あの時”?」

舞がさりげなく言動の矛盾を指摘してしまった。

「えー、えーっとですねー、そのー…痛かったのは間違いなしで…」

額には大粒の汗。
なんとか必死に言葉を探そうとするが、その間にかずやの霊はたたみかける。

「決定的に傷を負わないような自白、『佐祐理さんは悪くないんだ』という回答を他人に言ってもらえるように作られた回想。
ホントに聞かれたくないことは削除――こういうのを“プラトニック●ックス”戦法と言うんだよっ」

某飯島センセイが聞いたら激怒しそうな非難を浴びせられ、その瞬間…


  ばきっ!


「うっ」

腰掛けていた椅子を掴むやいなや、かずや…もといイタ子の肉体にためらいもなく投げつける。脳天からブァと朱の液体が流れ、床を汚した。

「目を覚ましてかずやぁ! 霊界に戻るなんて言わないでぇ」
「…言ってない」

白目を向いたイタ子を抱え、必死に語り掛ける佐祐理。

「ボクのことは忘れて、幸せになってね美人のおねえちゃん…なんて、なんてけなげなこと言うのぉ、かずやぁ」
「…言ってない」

そして、背後で冷静につっこみをいれる舞。

「うう…かずやは佐祐理の心のなかで、いつまでも生きているんだから…佐祐理、もう泣きませんよー。他人に恨まれるくらい幸せになるからねー」
「………」




 この世には、科学では説明できない不思議な事件が数多く存在するのです。
今宵、紹介したのは…ほんの一部にすぎません。

では、これにて――


     (おしまい)




あとがき

佐祐理さんも無敵じゃなくなってきましたねー。
ということで、次回はあゆと競演して幸せになってもらいましょうか。にはは…




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