ぷれかのん 月宮あゆ編



「ママ上さまーっ」

吹雪のなか、少女の絶叫が響く。
悲痛な叫びは風にかき消されるが、それでも、何度も、何度も…

「ママ上さまーーっ」

ピンクのセーターに大きめのリボン。
普段はかわいらしいであろうその姿も、雪に濡れたいまは痛々しいばかり。

「ママ上さまぁーーっ」

そして、声がとどいたのだろうか。
障子が開かれ、漏れた明かりが雪上の少女を照らした。

「ママ上っ」

少女の声がはずむ。
薄闇のなか現れたのは、少女の母であった。
まだ幼い子にとって、母を慕うのは無理のないこと。
しかし…

「あゆ。どうして戻ってきたのですっ」
「…ママ上…」

母の強い口調に、少女の期待は打ち砕かれた。
かすれた声で、もう一度母を呼ぶ。

「…ママ上さま…お会いしとうございました…」

母は娘を一瞥すると、ぷいと横を向いて

「そなたなど、ママは会いたくありません」

厳しい態度。
だが、それには理由があった。

「えらいお坊様になるまで、帰ってきてはならないと申し付けたではありませぬかっ!」

――ということらしい。
少女は一度ためらいつつも、反論する。

「ですがママ上、ボクは女の子…」
「そのような言い訳、ママは聞きたくはありません!」

そして、われらはいまでこそ落ちぶれて貧乏しているものの、そなたは代議士・倉田角栄氏の私生児とはいえ娘なのですよ。見返したくはないのですか、と強く詰問する。

「…ママ上…」

もちろん、少女にとってはどうでもいいことなのだが、母にそう言われるとやはり自分が至らぬような気がして、言葉に詰まってしまうのである。

「よいですね。坊様でも尼様でも構いません。めざせ●田大作ですよ。偉くなってお父上を見返してやるのです」

それだけを言うと、ぴしゃりと障子を勢いよく閉じた。

「ママ上様…うぐぅ…」

閉ざされた障子の向こうには、暖かそうな光がある。
少女はしばらく恨めしそうにそれを見つめていたが、やがて意を決して立ち上がった。

「…ママ上さま…お元気ですか〜♪…」

自分を励まそうとするかのように、定番ソングを口ずさむ。

「…うう…くじけませんよ〜 女の子です〜♪…」

遠ざかる小さな影。
それを隠れて見つめる、二つの瞳があった。

「かわいそうなあゆ…非情なママと恨まないでおくれ…」

そして、気を取り直すと、奥の座敷に向かう。

「ママ、誰か来てたみたいだけど?」
「ううん。い・も・う・とよ♪ 歳の離れた妹なの、パパ」

そう言いながら、クラブのお客にしなだれかかったのであった。





 ――そして、物語がはじまる…





あとがき

Kanonのプロローグをかってに創作…
アハハ(^^; 次回は秋子さんと名雪




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