質的研究の実際
 質的研究は恣意的あるいは作為的になりやすい研究です。これは研究者の意図や意思とは無関係におこりうる現実であり、避けられない限界でもあります。だからこそ質的研究では調査を進める上で求められる要請が多いともいえます。従来の量的研究ならば、その研究の信頼性や妥当性を統計学的に評価することができます。しかし、質的データを扱い、ひとの主観を利用する質的研究では、それに代わる評価が必要です。これらのことは質的研究の“科学的研究手法としての正当性”を主張するためにも不可欠なことです。今回新たに追加するこのページではこれらの要素も含めて、私がおこなっている、あるいはおこなうべきだと考えている質的研究の実際(主にフォーカスグループや個人面接などの面接調査)を紹介します。

(1)研究のデザイン
 研究を始めるに当たってはデザインをしっかり考えておく必要があります。量的研究でよく見られるように、「とりあえずデータだけをとっておこう」ということが質的研究ではありえません。なぜなら、質的研究ではデータ収集がそのデザインと切り離すことができないからであり、さらにはデータの収集はどのように分析するかを明確にしなければ行なえないからです。つまり、データを収集するためには「分析の枠組み」が決まっていなければなりませんし、分析の枠組みを決めるためには「研究としての視座」が定まらなければならないということです。これが“質的研究がデータ収集と分析は切っても切れない関係にある”といわれる所以です。
(2)参加者のリクルート
 旧バージョンのページにも書いたように、質的研究では合目的的サンプリング(purposive sampling)がおこなわれます。その理由は研究目的に相応しい参加者を集めることによって有用な情報を効率的に集めるためです。したがって、研究デザインをあらかじめ十分検討し、参加者のクライテリアを明確にすることから始めなければなりません。一般的に参加者をリクルートする場合、広告媒体を通じて自発的な参加者を集めるべきだと紹介する参考書があります。しかし、私達がかつて日米でおこなった質的研究の経験からいえば、ボランティア活動などの社会参加になれているアメリカ人と違って、日本人はこうした調査に自ら応募するということに慣れていないようです。アメリカでは多くの参加者が「広告をみたので参加したい」と電話連絡してきたのに対して、日本ではそのような応募はなく、参加者全員が紹介によるリクルートで集められましたし、リクルート中も結構断られたという経験をしています。
 質的研究におけるサンプリングで有名なのがsnowball−samplingですが、何が具体的に有用なのか皆さんはご存知でしょうか?実は我々はこれらのことをあまり考えてもいませんでした。しかし、実際におこなった質的調査でこの点を検討してみました。つまり、snowball−samplingによってどのような参加者が集まったかを追跡調査してみたのです。その結果、参加者が次の参加者を紹介するときは“同じ属性”の者を選択する傾向にあることがわかりました。つまり、あなたがさまざまな人達から情報を聞きたい場合は、初期インフォーマントとしての参加者の属性をより幅広いものにするため、ひとりの参加者から偏って多くの参加者を紹介してもらうことにならないよう注意しなければならないわけです。
 これらのことからもわかるように、研究の目的に相応しい参加者とはどのような人々か、そのクライテリアをよく考え、どのようにリクルートするかを慎重に検討することが重要なのです。



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