約束を守る。当たり前のことですが、約束を守るということは人間同士が上手くやっていく上で大切なことで
あると考えます。そして約束を守るということは、なかなか骨の折れることです。
移動運用は、主に屋外で楽しむアマチュア無線での楽しみ故、雨天、降雪の天候不良や、交通事故やダイヤの
乱れによるトラブル、急な仕事や用事の発生。自分自身、家族兄弟、友人知人の不幸や病気。思った通りの運用
が出来なかったり中止せざる終えない事がまれにあります。
事情にもよるでしょうが、移動運用の中止を簡単な理由で「仕方のないこと」と安直に中止して良いものだろ
うかと自問しています。アマチュア無線をはじめて間もない頃の出来事をお話ししたいと思います。私はこの日
の出来事をいつまでも忘れることが出来ません。この様な人に出逢え、教えを請うことが出来たことを誇りに思
っております。
大阪府池田市にある五月山。移動運用に度々行った場所です。ある初秋、五月山にラグチュー仲間と移動運用
に行く事になっておりました。1週間ほど前から山中で1泊するプランを立てておりましたが、当日昼頃になっ
て小雨が降りだし、行くか行かないかで迷っておりました。
当時、原付バイク「ホンダスーパーカブ50」に乗って移動運用を楽しんでいた私には、雨天の移動運用は過
酷でした。当時、自宅のあった兵庫県芦屋市から五月山までは、ぶっ飛ばして4,50分かかります。小雨とい
え、雨合羽を着込んで片道1時間の原付バイクでのツーリングはなかなか厳しいものです。
移動運用に備えての昼寝から目覚めると雨は止んでいました。空を見上げると、どんより曇ってはいましたが
雨が降る様には見えませんでした。雨合羽を着込んでの過酷なツーリングの心配はありませんが、昼寝から目覚
めた後のけだるさで、移動運用に行く気が失せてしまっておりました。軽い気持ちで、当時ラグチューしていた
ポイントで仲間を呼びだし「今日の五月山一泊移動は中止にします」とマイクに言い放ちました。
私の「中止」に、ラグチュー仲間の大半は「仕方ないなあ」と、肯定的に反応しましたが、我が師匠は一人だ
け「それは許しません」と、普段はへらへらしている方が、いつになくきつい口調で説教を始めました。
師匠曰く「1週間も前から計画していた移動運用を小雨程度の理由で中止するなどもってのほか」「今は小雨
すら降っていない」と、いうのが説教の内容でしたが「たかが五月山であれ、君の声が聞こえるのを待っている
人も居る」という言葉に、はじめは良くわかりませんでしたが、はっと我に返りました。言葉少なな師匠は多く
は語りませんでした。でもこういう事だったのでしょう。
誰と移動運用に行く約束をしていたのだろうか?
アマチュア無線機と約束していたのだろうか。アマチュア無線機を使って仲間と計画を立てる作業をアマチュ
ア無線機という「道具」と、移動運用の約束をしているのと勘違いしてしまったのかも知れません。
どんな手段で移動運用の計画を立てたのだろうか?
アマチュア無線を使ってプランを立てたということは、ラグチュー仲間以外の方が聞いていたのかも知れませ
ん。第三者が聞いていて移動運用の開始を楽しみにしている事も有り得ることです。アマチュア無線を使って計
画を立てた以上、直接交信していない方とも約束したのと同じ事であるのかも知れません。
そんな事があったなと10数年経った今になって、ふと思い出してしまいました。
意志疎通の便利な道具としてパソコンが当たり前のように利用され、移動運用の計画をパソコンでたて、イン
タネットを利用して多くの人たちに伝達することが出来るようになりました。誰もが容易に移動運用の計画を不
特定多数に告知できるようになった今、あの10数年前の頃以上にしっかりした計画を立て、立てた計画にもっ
ともっと責任を持たなくてはいけない気がします。
たくさんの方々がインタネットのあちこちで移動運用計画を告知しています。移動運用計画の中には、急な運
用中止があったり、予告もなく運用されることなく日が過ぎ去ってしまうものがあるようです。
静岡県西部の海岸沿いの町へ移動運用にいったとき、アンテナエレメントがちぎれてしまってQRV出来そう
にないことがありました。その時は、遠い場所にわざわざ行った為、どんな事をしても運用をしなければならな
いという自分自身の欲望を満たすために必死になりました。あちこちうろうろしてアンテナを修繕し、移動運用
を全うしました。しかし本当は、自分自身の欲望を満たすという事よりも、移動運用を楽しみにしてくれている
人達のために、必死になるべきだったと思います。何にしろ移動運用する事ができ、約束を果たせた事には満足
しています。
移動運用の中止には、止むに止まれぬ理由があるのだろうと思います。私自身も急に移動運用を中止した事が
ありますし、今後その様な事もあろうと思います。中止せざるおえなくても計画を立て告知をした以上は、履行
する努力をしなければならないと考えます。言い訳がましいかもしれませんが、中止したとしても運用するため
の努力をし、自分自身には嘘が無いのであれば、誰から非難されようと堂々としている事が出来るのでは無かろ
うかと思います。約束を守ろうとしたのですから。
移動運用に限ったことではありませんが、約束を守る努力をする事をこれからもずっとずっと大切な事として
自らに嘘をつかない生き方をしていきたい。私の中で最も大切な事なのです。
私に約束の大切さを厳しく諭してくれた師匠は、今でも相変わらずへらへらした人なのでありますが、いつま
でも頭の上がらない見た目とはずいぶん違う凄い人なのであります。HI