番外編・電気屋の巨砲

 

 今から十年以上前のことである。帰省した小生は母親の頼みで蛍光灯を買いに電気屋へ行った。よくある郊外の安売り量販店である。
 自転車で電気屋まで来ると、店頭にうすらでかい黒い鉄の塊がでんと鎮座しているではないか。どうも大砲のようであえる。それもでかい大砲である。
 近寄ってみると、それは二十八糎榴弾砲であった。
 小生は買物もそこそこにカメラを取りに戻った。それで撮影したのがこの写真である。

 二十八糎榴弾砲は明治時代、日本陸軍が本土に接近する敵艦を砲撃するために製造し、各地の沿岸要塞に配備した巨砲である。日露戦争の折、ロシア軍の立て篭もる旅順要塞の防備に手を焼いた陸軍は、本国の要塞からこの巨砲をとっぱずして運び、コンクリート陣地の砲撃に用いたことはよく知られている。
 巨砲の威力はすさまじく、ロシア軍は飛来する口径28センチの巨弾をその轟音から「急行列車」と呼んだ。やがて名高き二百三高地を占領した日本軍は、山越しにこの巨砲の弾丸を港に撃ち込み、旅順艦隊を数日で壊滅させたのである。
 その名高き巨砲が、なぜこんな田舎の郊外にある量販店の店先にあるのだ?

 『二百三高地』とか、戦争映画の大道具じゃないかと思ってあちこち触ってみたのだが。砲口から把手まで冷たくも重々しい鉄の塊である。どうも本物らしい。

 それにしても日露戦争後80年、敗戦から50年になるというのに、こんな巨砲が残っていたとは。一体全体、どこから見つけてきたのだろう。

 どうやら客寄せのつもりで設置したようである。しかしながら、戦車や飛行機ならいざ知らず、どうして榴弾砲が客寄せになるのであろうか。

 昨年末、帰省した折に再びこの電気屋に行ってみたが、とっくに撤去された後であった。一体どこへ行ったのやら。最初から最後までよくわからないのであった。


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