番外編・「世界の秘密兵器」再見

 小生の世代が子供の頃、垂涎の的だったのが図解本である。自動車から怪獣、果てはUFOや超能力まで、ハッタリかましたタイトルの図解本が何冊も出版されていた。

 秋田書店の「写真で見る世界シリーズ」もそのひとつで、機関車や戦闘機、怪獣など、男の子の喜びそうなタイトルがずらりとシリーズに入っていた。なかでも小生のお気に入りが『世界の秘密兵器』であった。小生は児童図書館に行って、この本に夢中になったものである。
 先日、古書店市で懐かしいこの本を入手した。本サイトのルーツとも言うべき名著との、三十年ぶりの再会である。

『世界の秘密兵器』は1971に刊行された。著者の小山内宏氏は当時の著名な軍事評論家で、資料提供には小橋良夫氏や石渡幸二氏など、『世界の艦船』誌などで名を聞く人もいる。そんな訳で、ハッタリかました題名とは裏腹に、中身はしごく真っ当だったりするから面白い。

 

 本書の中身はこんな具合に、運用中の兵器と開発・構想中の計画がバランスよく並べられている。だいたいは「最新兵器カタログ」と言った方がいい内容で、F4ファントム戦闘機みたいなものまで秘密兵器扱いされているのはご愛嬌である。
 かといって解説文は子供向けのいい加減なものではなく、事実関係や開発のコンセプトはきちんと押さえている。近頃のマスメディアの報道なんかより、よほどしっかりした内容なのだ。著者の小山内氏は子供相手にも手を抜かない、真摯な啓蒙家だったと言えるだろう。
 中には「潜水飛行機」とか「むかで戦車」とか、ハッタリかましたメカも紹介されているが、それも作者のでっちあげではなく、海外の軍事雑誌に載っていた記事から引用してきたものだった。この本を見ると、そうした空想的な兵器構想や、今では駄作扱いされている兵器もあって興味深い。
 また第二次大戦のネタもところどころに入っているが、これがまたドイツのロケット迎撃機ナッターとか日本軍の噴進砲、果ては「氷山空母」なんてものまでマニアックなセレクトであった。しかし赤外線暗視装置や地雷犬の話に有頂天になる小学生というのも、はたから見て変だったろうなあ。

この本のすごいところは単に戦車や飛行機だけでなく、電子兵器や偵察衛星、戦略核兵器まで紹介していることだ。子供相手だろうと全然手を抜かないあたり、小山内先生の軍事評論家としての面目躍如である。
 右は「悪魔の殺りく兵器 化学兵器」。びらん剤とか神経剤とか、略号は無論のこと効果まで「吸うと吐き気を催し、鼻汁がとめどもなく流れ出て、胸がひどく苦しくなって動けなくなる」などと、子供向けとは思えぬすさまじい書き方をしている。「七トンのGBかVXがあれば、一千万人の東京都民を全滅させることができる」という記述を読んで、小生はショッカーが使ったらどうしようと子供心に震え上がったものである。
 まさか大人になった頃に、「悪魔の殺りく兵器」が本当に東京にばら撒かれるとはねえ…。

 もっとも今から見ると、この本は妙に笑えるところがある。著者の文章はともかくイラストは、軍事知識の無い人が描いたのか、あちこち妙な勘違いをしてるのだ。
 例えば「ゲリラの秘密兵器・ロケット弾発射筒」と題された左の記事。本文解説を読むと「小銃のように軽くて持ち運びできる、ゲリラの秘密兵器…チェコ製でRPG-7と呼ばれ…」って全然違うじゃんか
 どうも絵描きさんは「ロケット」というイメージだけでこの絵を描いたようだ。まるでTOW対戦車ミサイルと迫撃砲をごっちゃにしたような代物になっている。

 

 だが一番すごいのは何と言っても見開きである。図解本のお約束、あの役に立つんだか何だかよくわからない、パノラマ風の挿絵である。本書の見開き図解は戦争を扱っているだけあって、勘違いぶりと迫力では群を抜いている。
 これが未来の(ってことは今頃の)宇宙戦争なんですなあ…
 「2001年宇宙の旅」そのまんまの宇宙ステーションに、スペースシャトルの初期構想図そのまんまの、三角形の「宇宙戦闘機」。そして地球からこれ見よがしに立ち昇る、ジャイアント・インパクトも真っ青の、これ一発で人類滅亡確実そうな巨大キノコ雲。何度も言いますが、子供向けの本ですよ、これ。
 いやはや、大らかだったのだなあ…。

 いつの頃からか、こういう図解本は流行らなくなった。小生より一回りも若い世代は、もうこういう本の影響を受けていない。しかし当時は、こういう本が児童図書館や学校の図書室の書架に収まっていた。今日ならPTAから文句つけられるだろう。
 若い世代と小生の世代で感じる、兵器やメカに対する温度差は、あんがいこういう図解本に触れたかどうかの違いかもしれない。
 だから「歴史群像」とか近年のビジュアル解説本を見ると、おそらくは同年代だろう編集者の気持ちがうかがえて楽しいのだ。お主も好きよのう、と。


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