遺跡

 そのホームレスは、自分の歴史を岩に刻んでいた。
もちろん、自分に都合のいい歴史だ。
自分は、王様で、家来がいて…。
現実は、他のホームレスからも迫害されて川べりに追いやられているのだが、
それも、数多の戦に打ち勝ち、豊かな水辺を手に入れたということにしてある。
実に、子供じみている。
が、ホームレスは毎日続けた。

 住民たちは気味悪がったが、無視を決め込んだ。
誰も近づかない川辺。害はない。

 しかし、そのホームレスは知っていた。
数万年後、電子機器がなくなることを。紙がなくなることを。
自分の刻んだ歴史だけが、風化した歴史の後で、生き残るということを。

 未来人は、日本のある川辺に王がいたことを疑わない。

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