顔の進化シナリオ(過程)の考察

戻る

他の動物でどのように同種の個体を認知しているか、同種の異性であることを認知しているか、同性の能力を認知しているかという動物行動学的研究から得られる知見
と、
認知心理学や工学の分野で行われているヒトの顔認識システムの研究から得られる知見
と、
社会心理学で行われている顔の魅力に関する研究から得られる知見
と、
ヒトの顔の進化生物学的研究によって得られる知見
とを統合して、ヒトの顔はどのような進化の過程を経て形成されてきたのか、そのシナリオを考察します。

顔を認知の対象とするにはいくつかのレベルがあります。
まず、ヒトであるか、否かというもっとも原初的なレベルがあります。
次に同種の異性であるか、否かというレベルがあります。
その上に、年齢的に繁殖可能であるか、否か、という認知課題と、よい遺伝子を持っているか、否かという課題があると考えられます。
以下でそれぞれの認知課題を別々に説明します。

(社会的な動物であるヒトは顔を用いて個体識別を行い、これも魅力的な人は顔を覚えられやすいか?などを考えると面白いと思いますが、詳しく知らないので今の時点でははずしておきます)


ヒトであるか、否か

同種と他種を識別するために、視覚的情報に頼る霊長類の仲間であるヒトは顔を用いる認知能力が発達したと考えられます。
他の動物では、におい、鳴き声といった音声、視覚に頼る場合でも行動指標、身体全体や一部の形態や色などを同種だと識別するために利用しています。

ヒトであるか否かを判断するために用いられる顔の部分は、目と口が重要であると考えられます(参考文献 Bradshaw, 1971 厳密には認識に関する論文ではありませが、輪郭と目と鼻と口を模した線画の顔を扱った論文です)。

逆に言うと、目と口に見えるものは何でもヒトの顔に見えてしまうという能力を誰もが備えているといえます。
目と口らしきシミや影があれば顔に見えてしまう現象の一例として心霊写真があげられます。
補足1



同種の異性であるか、否か

異性であるか否かを識別する能力は性というものがあらわれたときから存在すると考えられます。

進化の歴史上の有性生殖の初期、より素早く移動し多くの交配を行う戦略を行うものと、動かずにエネルギーを蓄え、交配後の生存率を高くする戦略を行うものが淘汰の結果生き残り、それぞれ「オス」「メス」と呼ばれるものに進化していったと考えられます(詳しくは長谷川真理子 1993 オスとメス=性の不思議 講談社現代新書 の第1章 をご覧ください)。

ヒトのオスメスは第1次性徴・第2次性徴における男性・女性ホルモンの摂取量により形態的、脳的に決定されます。

第1次性徴(胎内)では、脳と外部生殖器の性特異的性質があらわれます。このときは「生きるための能力」が発現すると考えられます。
第2次性徴では、脳と形態に「繁殖のため」の性特異的性質があらわれます。

オスは同種のメスを探すとき第2次性徴時の性ホルモンの影響による骨格などの形態的特徴から識別を行っていると考えられます。

またこの形態的特徴はヒトであるか否かを識別する際に用いられる顔の部位、つまり目と口に特に特徴的にあらわれると考えられます。
第2次性徴を経ていない子供では性特異的な違いが顕著でないため顔から性別を識別しづらくなっています。



年齢的に繁殖可能であるか、否か

特にヒトの女性の場合繁殖期が年齢によって限られているため、男性は女性の年齢から繁殖可能かどうかを判断します。

顔には必然的に老化を示す特徴があらわれるため、それを繁殖能力の指標とし、魅力に還元して認識する能力が進化してきたと考えられます。
つまり、老化した顔には魅力を感じなくなることが適応的に進化してきたと考えられます。

また、老化が繁殖能力の低下を示し、魅力の低下を示すため、それを補う意味でヒトに特徴的なネオテニー(幼型成熟)性があらわれたのかもしれません。

男性の場合は繁殖可能期間が長く、雄間競争での顔の持つ意味も含まれるため、顔での年齢認知は魅力以外の要素も関わっていると考えられます。

参考文献:クリックすると新しいウィンドウが開きます



よい遺伝子を持っているか、否か

一般的に「優良遺伝子仮説」といわれている仮説があります。
これはホモ接合することによって適応的でない表現型を発現させる可能性がある遺伝子の数が相対的に少ないことをよい遺伝子(good gene)を持っているという仮説です。

この仮説自体の検証はまだ行われていなく今後の課題として残っていますが、魅力的かどうかはこうした遺伝子のよい・よくないに関係するものも存在すると考えられます。

ホモ接合の結果、致死性を発現させる遺伝子にはヘテロで持っていてもよくない・適応的でない表現型を発現させるものもあり、それが顔のシンメトリー(左右対称性)を歪ませると考えられます。

つまり、顔がシンメトリーかどうかを認知できる能力が進化してきており、シンメトリーな顔を魅力的と感じるメカニズムが進化してきていると考えられます(参考文献:新しいウィンドウが開きます)。

また、性ホルモンは免疫系の働きを阻害するため、免疫系と性ホルモン量の間にトレードオフ関係ができ、性ホルモンがその個体の免疫系の指標になっていると考えられています(参考文献:Perrettら, 1998 新しいウィンドウが開きます)(補足2)。

その結果、女性なら女性ホルモン量が多いと判断される顔が強い免疫系を形成できる遺伝子やその表現型としての身体を持っているために魅力的と感じる能力が発達してきたと考えられます。

男性の顔の場合は、男性ホルモン量が多いと免疫系のほか雄間競争力や「政治力」といったいわゆる男性的な能力が強いため魅力的に感じる一方、別の戦略では女性ホルモン量が多いと投資量が期待できると感じるため魅力的に見えると考えられます。

このことは男性の顔の魅力については女性側が男性に対して何を必要としているかによって何を魅力的と感じるかが変わってくることをあらわしています(参考文献:Perrettら, 1998 新しいウィンドウが開きます)。



最後に

進化の過程を簡単にまとめると、

ヒトの顔を顔として認識する能力が進化し、その際重要な意味を持つ目と口に魅力をあらわす戦略が繁殖に有利であったため目と口が魅力にも大きな意味を持つようになってきた

と考えられます。

そして上記の識別メカニズムによる総合的判断の結果、顔の魅力というものを認知していると考えられます。

上記のヒトであることを認識する能力と性別弁別能力と魅力弁別能力は同時に進化してきたのかもしれません。

顔だけに限れば上記のようなシステムによって魅力が進化してきたと考えられますが、ヒトひとりひとりの持つ魅力の総体は顔だけによるものではなく、それ以外の要素も大きく関係しているのは言うまでもありません。
しかし、顔以外の魅力要因と同等もしくはそれ以上に顔はヒトの持つ魅力に関係しているといえます。




戻る




※補足1
顔の持つ他の能力
顔は個体識別をする際の最も有効な器官です。個体間コミュニケーションをするヒトという種では顔と個体識別と魅力は密接に関係していると考えられます。
チンパンジーが顔で個体識別をしていることから、個体識別をするための器官としての顔が前提にあり、その後に魅力を表現するようになったのかもしれません。 本文に戻る


※補足2
性ホルモンと免疫系のトレードオフがうまく働かない場合ふたつ

1,免疫系の出来の割に性ホルモンが少ない場合
魅力の指標である性ホルモンが少ないため、本当の魅力より低く魅力が評価されるため、適応的でありません。
よって淘汰される方向に働きます。

2,免疫系の出来の割に性ホルモンが多い場合
身体が耐えられなく、病気の侵入を許します。
その結果病弱になったり、病気の症状が顔や身体や行動に現れて生存可能性が低下します。
繁殖するためにはとりあえず繁殖可能年齢まで生きて、生んで、育てなければいけないのでこのアンバランスは魅力以前の問題となります。 本文に戻る



excuse
個体識別も顔の重要な要素ですが、顔のどこから個体識別をしているかは無学にして知りません。

戻る