1. 半導体シリコンとは
シリコンとは集積回路やダイオードなどの電子デバイスに使われる半導体材料。パソコン、携帯電話、テレビ、ラジオなどほとんど全ての電気製品に半導体が使われています。
通常シリコンは単結晶という状態で使われます。単結晶とは原子の配列がどこまでも規則正しく並んでいて、シリコンの場合1つの原子に4つの原子が結びついている状態です。単結晶でない状態は多結晶です。これは小さな単結晶が集まってできているものですが、これは電気特性が一様でないため電子デバイスには使えません。
シリコンは価電子が4つで、これらの電子が全て共有結合に使われているため電気伝導率が小いのですが、リン(P)、アンチモン(Sb)、ボロン(B)など(ドーパントという)価電子が3個、あるいは5個の原子を微量に添加してやると図のように電子が一個あまった状態、あるいは電子が1個足りない状態になります。このようにしてできた電子や正孔(電子の抜けた穴)が電流を伝える担い手になり、電気伝導率を増大させ、同時に整流作用(一方向のみに電流を流すこと)や増幅作用(小さい電流を大きい電流にする)などの特性が得られます。
2. シリコン単結晶成長
単結晶は通常融液からの引き上げによって製造されます。融液が凝固するときは元となる結晶と同じ向きに結晶が成長する性質があります。これを利用して小さなシリコン単結晶(種結晶)から大きな単結晶を作ることができるのです。融液からの結晶成長にはチョクラルスキー法(CZ法)とフローティング・ゾーン法(FZ法)の2種類があります。CZ法とは下図のように石英るつぼに溶かしたシリコン融液から単結晶を引き上げる方法、FZ法は融液を上側の原料シリコンと下側の単結晶で支え結晶成長させる方法です。CZ法ではFZ法に比べ大きな直径の単結晶が成長できることが利点です。このことによって、ウエハ(単結晶から切り出した薄い板)から多くのデバイス基板を切り出すことが可能です。CZ法は集積回路用の基板など多くの用途に用いられていて、現在生産されているシリコン単結晶の95%はCZ法によるものです。一方FZ法は石英るつぼを用いないため結晶に取り込まれる酸素の量が少なく制御でき、高耐熱のデバイスに用いられます。
今後シリコン単結晶に求められるのは結晶の大口径化、酸素やドーパント濃度の均一化などです。これらの要求に応えるためには、結晶成長界面で発生する対流を正しく解明し制御することが必要となっています。私の研究ではマランゴニ対流という表面張力差に起因する対流の解明と制御を目的としています。
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3. マランゴニ対流
マランゴニ対流とは下図のように表面張力の小さいところから大きいところへ表面が引っ張られることにより発生する対流です。表面張力差は温度差や不純物濃度差によって発生し、その原因によってそれぞれ温度差マランゴニ対流、濃度差マランゴニ対流と呼びます。シリコン融液の場合温度の上昇によって表面張力は減少し、また酸素濃度が増加すると表面張力が減少することが知られています。酸素濃度を場所によって変化させることは実験技術上難しいのですが、温度差をつけることは比較的簡単です。そのため実験的研究は温度差マランゴニ対流のみを扱っています。シリコン融液にはマランゴニ対流の他に結晶やるつぼの回転で発生する対流(強制対流)や浮力対流があります。浮力対流は液体の密度差で発生する対流なので、重力のない宇宙実験ではマランゴニ対流を顕著に発生させることができます。実際、マランゴニ対流の研究はロケット実験や放物線飛行の航空機実験でも行われています。
4.本研究の目的
本研究では図のような液柱型構造のシリコン融液内で発生する振動マランゴニ対流の構造を解明し、それがFZ結晶成長に及ぼす役割を調べることを目的とします。FZ結晶成長を用いる理由は、この成長法がよりマランゴニ対流が顕著に現れるからです。液柱型構造はハーフゾーンとも呼ばれます。これは上側温度を高くすることによって、宇宙実験でなくても浮力対流を抑えることができ、マランゴニ対流研究において基本的なモデルとなっています。