Why did the batter who has a batting average .400 die out? / なぜ4割バッターは絶滅したのか?

2000/4/4-5 ([Bilab:4139][Bilab:4140][Bilab:4141] より一部改編)

いきなり長島監督の背番号「3」のお披露目式の映像から始まる。タイトルにつられ興味本位で録画した番組に、「なんだ、長島讃歌的なちゃちい番組なのか…NHKも地に落ちたな」と正直思った。しかし、番組が始まってしばらくして、スティーブン・ジェイ・グールド氏(古生物学者)が登場して番組の内容ががらりと変わる。

グールド氏は生物進化に対する革命的な考え方の持ち主として知られ、身近な話題から進化論を語った科学エッセイをたくさん書いており、その名は、書店で一度は目にしたことがあると思います(日本では「ダーウィン以来」「パンダの親指」「ニワトリの歯」などの著書が有名)。グールド氏はまた、熱狂的な野球ファンとしても知られており、日本ではあまり知られていませんが、新聞や雑誌に野球コラムなども掲載しているそうです(ここで、ジョー・ディマジオのサインボールを片手に嬉しそうに昔話を語る氏がとても印象的)。そこで、今回のメールのタイトルのような研究を行ったそうです(今回の「4割打者絶滅」の話は、「フルハウス〜生命の全容」という本(日本語訳本あり)で発表されていて、本当にマジメなものです)。

近代野球が始まった1901−30年の間に、7人の選手で、のべ12回、4割打者が登場したという(あの「タイ・カップ」や「テッド・ウィリアムス」も含まれてます)。では、なぜ、4割打者が絶滅したのか?およそ進化論とはかけ離れた、野球の話がはじまる。

まず、投手力の向上、つまり変化球の多様化や分業化による投手有利のために四割打者は絶滅したのだ、と。そこで氏は、反論する。投手の技術が向上したのなら、打者の技術も向上しているのだと。次に、一本足打法・扇打法・振り子打法といった技術の紹介が入り、プロ野球コーチを歴任してきた手塚一志さんが登場する。ここで、最近の野球マンガ(あの松坂大輔が読んでいると言って話題になった「マガジン」に掲載されている「Dreams(ドリームス)」で取り上げられていました)でかならずといっていいほどでてくる「シンクロ打法」が紹介される(高橋由伸選手が取り入れていることで有名です)。そして、日本のプロ野球における、10年ごとの平均打率と防御率のグラフの説明がはいる。平均打率は、ここ30年、2割6分台で上昇傾向平均防御率は、4点台で下降傾向で、むしろ打者有利の結果がでる。

投手力、打撃力ときて、次に守備力に関する考察に入る。グラブの性能の向上で守備範囲がひろがり、安打が減ったのでは?あるスポーツメーカーの次長さんの話。

「1940年代のグラブと比べて進化したのはポジション別グラブができたことでしょうか?(みなさんなら、これを「進化」というのは間違っているとすぐに気付きますね。しかし、さすがは天下のNHK。直後のナレーションでしっかりと「進歩」と訂正していた。おそるべし!!)」

ポジション別のグラブを見てみると、たしかに、そのポジションにあった機能をもったグラブに進歩している。コンピュータシュミレーションで、グラブのデザインをしている社員が登場。

「グラブの性能向上は打率には関係ない。ただ捕ったらすぐに放れるとか、三塁打を二塁打にするとか、そういうことはあるでしょう」

バットの性能向上にも触れる。あのタイ・カップが現役時代に使っていたバットが紹介される(今でも「タイ・カップ型」として紹介されることがありますね)。そしてテッド・ウィリアムスの使っていたバット(現在のバットの形がほぼ完成したころのものです)。最後に白木の圧縮バットが出てくる。白木を圧縮する事で、反発力を2倍以上に高め、飛距離を大幅に伸ばしたあのバットです。が、飛びすぎる事を理由に1981年からプロ野球で禁止されてしまったアレです。ここで1980年と1981年のパ・リーグの打撃成績の比較。ホームランは激減したが、打率は、さほど変わらない。ここまできて、グラブの性能向上もバットの性能向上も「打率にはあまり関係ない」とナレーションがはいる。

そして、ついには球場の広さを問題にする。中日とダイエーが本拠地をドームにした年に、打率を大幅に落としてリーグ最下位になったことをだしてくる。しかし翌年からは、標準の成績に戻っている。球場の広さは問題ではない。最後に過密スケジュールの問題。大リーグでは16チームから30チームに増えたことを例にだす。グールド氏が再び登場し、昔は1日かかって、しかも窮屈なバスや列車での移動だったのに対し、今では飛行機でゆったりと移動できるという、交通手段の向上をあげて一蹴する。

ここまできて、はじめてグールド氏の理論が聞ける。

「アメリカ野球百科事典」のデータの中から、毎年の平均打率を求め、その毎年の平均打率と毎年の最高打率の平均(上位5人)、毎年の最低打率の平均(下位5人)とのそれぞれの差を求め、最高打率と最低打率の差、つまり変位の差を求めるというものです。調べてみると、最高打率の平均は下がって、最低打率の平均が上がってきているのがわかる。つまり野球が成熟していくにしたがって、上位と下位の差が縮まってきたというのです。グールド氏はこの結果を見て

「この結果を見た時はちょっと驚きました。こんなはっきりした法則性が見つかるとは思わなかったのです。ここには、自然界にあるのと同じ法則が明確に見て取れます。つまり、あらゆるものは向上しながら平均化する、という法則です。」

さらに、こう続ける。
「野球は、その始まりから現在まで、全くと言っていいほどルールが変わってない。つまり外からの要因に影響されないスポーツです。ここで変動が起るとすれば、一人一人の選手の努力や工夫の積み重ねが、集団全体のレベルを変えたとみます。そのときベストからワーストまでの選手個々の能力差はどうなるでしょう?私はここに四割打者絶滅の謎を解く鍵があるのでは、と考えます。」

グールド氏のモデル
                                    ______
 *:初期               +             |    |
 +:成熟             ++ ++           |人  |
               ****++   ++     .400 |間  |
           ****   ++ ****++      |  |の限|
       ****     ++       **++    v  |  界|
  *****      +++             +++**  |    |
 ----------------^----^--------------------
        初期の平均 → 成熟期の平均

グラフの右端に「人間の(肉体的)限界」を設定。どんなバッターでも10割の打率は残せない。しかし、その限界に向かって全員が個々の能力を高めようとする。打率の分布図をこのグラフに示すと、初期の段階では緩やかな釣鐘型で、すそ野は広い。そのうち、右端の少数が4割に到達する。しかし、現在では、平均が大きく右にずれ、またすそ野は狭くなる。その結果、一番右に位置する選手でも4割に届かない、ということになる。

「集団全体の先端には最も優秀な打者が位置し、全体はそれに引っ張られるようにレベルを上げていくのです。ここの成績のばらつきが縮まり、限界に近づいた結果、ベストの選手とワーストの選手はともに平均に近づく事になります。実は、これこそが四割打者が絶滅した真相なのです。つまり、四割打者の絶滅は野球界全体のレベルアップによって最高と最低がともに平均に近づいた現象なのです。」

昔の一流選手は、多数のヘボ選手と対戦していたから成績が良く、今の一流選手は、まわりが優秀になってしまったため、良い成績をとるのが難しくなってしまった、ということです。

「四割打者というものは、野球界全体のレベルが今ほど高くなく成績のばらつきが大きかった時代の小さな幸運です。むしろ四割打者が姿を消した今こそ、プロ野球は黄金時代。個々の選手の能力差が少ない安定した状態に進化してきた証拠です。つまり、これは四割打者の絶滅というよりも、選手たちの能力差の絶滅と考えた方がいいのです。…もう一度いいますが、四割打者の絶滅は、過去にあったすばらしいものが失われたのではなく、野球というシステム全体が、すばらしい進化をとげた証なのです。」

この後、ダーウィンの自然選択説(ラマルクの説との混同?)と突然変異の説明が、キリンの首の話を使って説明される。その2つの説で説明しきれなかったところを氏の理論はカバーしているという。

「急激な変化と長い平衡状態が階段状につながった進化を断続平衡という」

つまり、偶然生まれた無数の突然変異が、ある量の限界を超えた時、種全体の急激な変化が起るが、その後は平衡状態、変化のない安定した状態にはいるのである。生物の世界では、不安定でばらばらな種よりも、個体差の少ない安定した種の方が、生存には有利なのである。

続いてグールド氏の進化に関する考え方が述べられる。

「私たちは人間というものを、他の生物よりも優れた存在であると考えがちです。…進化論と言われると、ついついその頂点に人間が立っているピラミッド状態の構造を思い描いてしまうのです。そうではありません。単純なものから複雑なものが枝別れしていく端的に言えば、これが進化なんです。」

進化を人間を頂点とするピラミッドで見るな、ということです。つまり、ピラミッド的に見てしまうと、たとえば先ほどの四割打者の話にあてはまると、トップ5の平均成績が下がる、つまりピラミッドの頂点が下がることは、打者のレベルが低下したとしか見られません。が、それは野球全体のレベルの向上という大きな背景を無視していることになります。

「進化を考える時も同じで、人間を頂点とする生命の歴史だと考えると進化全体が持つ大きな意味が、わからなくなってしまいます。大事な事は、人間の存在ではなく、バクテリアから人間までのすばらしい多様性なのであります。」

なるほどですね。進化の頂点に人間がいると考えると、そこに行き着く過程というものだけを求めてしまいがちです。そうではなく、人間もまた、進化の多様性のなかの1つであると考える事が重要なのでしょう。つまり、たくさんある道のうちの1本が、「人間」という道なのだと。

「…進化には単純なものから複雑なものへという方向性はありますが、別に人間に向かって進んでいるわけではありません。バクテリアのような単純な生物から始まり、複雑な方へ複雑な方へとランダムに遠ざかる動きに過ぎないのです。人間が最も複雑な生物である事は間違いありません。しかし、それは進化の結果生まれた生命の多様性の中のほんの一つの種でしかありません。」

この後は、例外の話。つまり、これから先、もう二度と4割打者がでないのか?という話になります。ここで、マーク・マグワイアとサミー・ソーサ選手が2年連続でそれまでの記録をを大きく超えたところでホームラン競争を繰り広げたことをとりあげ、打率の分野でも人並みはずれた才能の持ち主が、努力をする事によってあっと驚く成績を残す可能性があることを示唆する。

「ホームラン記録の方が単純だから。…それにしてもマグワイアの70本はすごかったね」

野球の話をするときのグールド氏の表情は、なんとも嬉しそうだ。

場所が変わってノースイースタン大学(ボストン)。サンジット・チャテルジー氏とムスタフ・イルマツ氏、 ともに統計学の先生である。この2人の教授がホームランに関する研究をしている。

ホームラン打率と、その人数のグラフを書いてみる。たとえば1910年、あのベーブ・ルースが活躍した時代。ほとんどの選手のホームラン打率が1/100、あるいはその近辺であるのにたいして、彼はなんと1/9であったという。

次に年代をおってグラフがでてくる。年が進むに連れて、ホームラン打率の分布が、右にずれてくる、つまりホームラン打者が増えてくるのである。そして1998年では、ついにベーブルースを越えた男、マーク・マグワイアが登場する(1/7)(ちなみにサミー・ソーサは1/10)。グラフを見てみると、なるほど、二人のホームラン打率に近づく選手が多くなっている。

ここでイルマツ氏は

「…最近では打者全体の能力があがり、ホームランを量産する選手もめずらしくはありません。それでも飛びぬけた才能の持ち主は現れた。」

チャテルジー氏が、こう続ける。

「目立った一人の人間を取り上げて、その人の所属する集団は優秀である、と決めつけてしまうのは、間違えています。優秀さを定義したいのなら、その集団を組織しているすべてのものに目を配らないといけません。その目立った人間は、全体から見ればただの変種なんですよ。ただ面白いことに、集団はその目立つ存在の方向に移動していくんです。」

となると、コギャルやヤマンバという人種が、あんなに増殖したのも、なんとなくわかる気がする。

「これは集団の向上がシステム全体の向上につながるというグールドの考えに当てはまります(コギャルやヤマンバが集団の向上とは到底思えないが…)。」

ここで、先ほどのホームラン打率のグラフを、横軸に年代、縦軸にホームラン打率をとって書き直した図が登場。上位と下位との差は狭まり、レベルのが平均化していくのがわかる。そしてこのグラフ上に現れる、例外的な点が、ベーブ・ルースであり、マーク・マグワイアであって、時代を越えて同じ領域に登場した突然変異的な存在である。

大リーグでは、ホームランに関しては新たな進化が始まったという。近い将来、夢の4割打者も登場するかもしれない、という両氏の希望的観測で、この話しは閉じる。

ここでいきなり舞台は日本に戻る。ヤクルトの古田選手へのインタビューがはじまる。

「…能力的な限界と言うのはやっぱりあって、(打率4割は)限界にちかいところなんじゃないかな?…昔の人はすごかった、っていう人がよくいるけど、その人がすごく見えただけで、周りが(に?)たいしたことがないって人がいっぱいいたんだと思うんですよ、こんなこといったら怒られますけど(笑)。そういう意味では、うまい人が増えたのでね。…イチローくんのように肩が強い子や足の速い子がでてきて、それが普通のことになって…決して(打率4割は)でない数字ではないと思いますね。」

舞台はニューヨーク、グールド氏へと話しは戻る。

「…今、4割を達成することは非常に困難なことかもしれませんが、いつかきっと4割打者は現れます。Good luck!

歴代の四割打者の写真が順に登場して番組は終わる。

進化とは、急激な変化と長い平衡状態が階段状につながったものであり、そして長い平衡状態の間に、種のレベルは平均化して安定する、というグールド氏の進化論を解説した良質の番組でした(ただ「野球」にこだわりすぎていたかな?感は残りますが)。

進化における長い平衡状態と急激な変化はグールド氏よりも先、木村資生先生が提唱しています(かの有名な「中立説」です)。長い平衡状態と平衡状態の間に、生物的ブランク(空白)によって引き起こされる急激な変化があると考えられています。ここでいう生物的ブランクとは種の大量絶滅です。ある種の大量絶滅により、その種によって抑圧されていた種に、急激に変化が起るというものです。人間が属する哺乳類もまた、爬虫類である恐竜の大量絶滅により、急激にその力を増したとされています。種の大爆発の前には大量絶滅が起っていることは明らかにされています。もし将来、哺乳類に大量絶滅が訪れたら?次に台頭してくる生物は何でしょうね(僕は昆虫に1000点)。