Angiostrongylus cantonensis−広東住血線虫

2000/6/12 ([Bilab:4305] より一部改編)

一昨日のスポーツ新聞(スポーツニッポン)に、ちょっと気になる記事がありました。

「寄生虫で女児脂肪−カタツムリで感染・広東住血線虫」

カタツムリやナメクジから感染する寄生虫。広東住血線虫(→写真丸三製薬株式会社)が原因と見られる髄膜脳炎で沖縄・嘉手納基地内の小学校に通う米国人女児ブリス・スコットちゃん(7)が死亡していたことが、10日分かった。この寄生虫による奨励は主に沖縄県を中心に報告されているが、有効な治療法はなく、検査を行った琉球大学医学部によると、国内初の死亡例という。…広東住血線虫は体長15−40ミリ。ネズミの糞を餌とする陸貝のアフリカマイマイ(カタツムリ)やナメクジなどの体内で成長し、口や皮膚から感染する。

スポーツニッポン 6/11 社会面記事より一部抜粋


もともと、この『広東住血線虫』は、アフリカ南東部のマダガスカル島に生息し、島のネズミの肺動脈に寄生して産卵する。そして、ネズミの体内で孵(かえ)った幼虫は、糞と一緒に体外に排出され、その糞を餌とする『アフリカマイマイ』というカタツムリに寄生して成長する。さらに、そのカタツムリをネズミが捕食し、再び線虫がネズミの体内に戻ることにより、一連の『ライフサイクル』を築く。

なぜ、このようなアフリカのマダガスカル島にしかいなかったはずの線虫が、日本にも生息するようになったのでしょうか?答えは、食用として持ち込まれたアフリカマイマイが、暖かい地方を中心に各地で野生化しているからです。食用として持ち込んだはずのカタツムリの体内に、不幸にして、この『広東住血線虫』がいたのです。そして、沖縄という暖かい気候的にも助けられ、広東住血線虫が広がってしまったようです。(最近ではジャンボタニシにも寄生することが判明)。なお『広東住血線虫』の名前は、1935年に中国・広東の広州華南医学院のチン・シンタオ教授によって発見されたことに由来する。日本国内では、1970年初め頃から発症例が報告され、発症地のほとんどが沖縄県であるが、1973年の島根県をはじめ、最近では1996年に東京都での発症例も報告されている(しかし、この発症例の場合、発症者が修学旅行先の沖縄で感染したと推測されている)。また、特定された感染源の多くはアフリカマイマイであるが、その他にナメクジ、アジアヒキガエルも少数ながら報告されている。

「広東住血線虫症」の症状は、『何かに取りつかれたような感覚』や『頭がえぐり取られるような激しい痛み』、『手足の痺れ』、『意識障害』などを伴うものである。経口で感染した場合、胃壁を破り脊髄へ侵入し、髄液を通って脳へ向かう。そして脳細胞に潜り込む(この時点での大きさは0.2mm程度。MRIで発見するのは困難だという。また、37例ある国内症例においても、虫体が確認できたのは、わずかに1例にすぎず、虫体の確認が非常に困難であることを物語っている)。また、眼球に虫体が確認された例もあり、その場合は高度な視力障害をもたらすこともある。広東住血線虫が脳へ向かうのは、脳に成長に必要な酵素があるためだという。現時点で広東住血線虫の特効薬は無く、症状を緩和することは出来るが、広東住血線虫が死ぬを待つしかない。広東住血線虫の寿命は約1ケ月で、死んだ広東住血線虫は溶けて血液に取り込まれ体外に排出されるという。これは、まだ人間が広東住血線虫の完全な中間宿主ではない、つまり非固有宿主であるからである(先に紹介したジャンボタニシは中間宿主)。よほどの重症感染でないかぎり致命的になることはなく、適切な対処療法を行えば、予後は一般的に良好であるという。

感染を防ぐためには、中間宿主となる生き物にむやみに触らないこと、もし触ってしまったら良く手を洗うこと、野菜や果物は表面を良く洗って食べることなどである。 また修学旅行先で感染、帰京後に発症とあるように、発症までに2〜3週間の潜伏期間がある場合もあり、暖かい地方へ旅行をした場合、旅行先において中間宿主となり得る生物と接触した可能性があるときは、旅行後もしばらくは十分な注意が必要である。

さて、本格的に梅雨入りしたこれからの季節、食中毒とともに、カタツムリやナメクジにも十分注意しましょう。