収斂進化−convergence evolution
2000/6/22
火曜日のゼミの中で「収斂進化」という言葉が出てきた時に、『落ちた』人が何人かいたようでしたので、簡単に説明したいと思います。
まず下の図をご覧ください。太古の昔に「A」という湖が、地殻変動などにより「B」と「C」という2つの湖にわかれました。もちろんこの2つの湖は完全に分離され、地下などで繋がっていることはありません。今、この2つの湖に生息する魚を調査すると、「B」からは[●・▲・■]の3種が、「C」からは[○・△・□]の3種が確認されました。このことより「A」に生息していた魚を推定すると、次の2つの場合が考えられます。ここで[●]と[○]、[▲]と[△]、[■]と[□]は互いに形態が非常に似ている魚を表わしています。

図1:湖の分離と現在生息する魚
1つは、「A」には[●・○]の共通の祖先である[◎]、[▲・△]の共通の祖先である[▼]、[■・□]の共通の祖先である[◆]が生息していたとする場合。もう1つは「A」にすべての種に共通の祖先「★」が生息していたとする場合である。

図2:「A」に生息されていたと推定される魚
この2つの場合でどこが違うのかというと、系統樹を書いてみれば一目瞭然である。両者の違いは[◎・▼・◆]という形態に分かれてから、地理的隔離が起きたのか?それとも地理的隔離が起きてから、それぞれの湖において[●・▲・■]、[○・△・□]という形態にわかれたのか?という点である。

図3:系統樹
さて、図を使った説明が長くなってしまいましたが、@とA、どちらが「収斂進化」を表わした図・系統樹なのでしょうか?ここで「収斂」という言葉を生物学辞典で調べてみると以下のようにでているので参考にして考えてみよう。
収斂[英仏:convergence 独:Konvergenz]【同】相近
系統の異なる複数の生物が,類似する形質を個別に進化させること.核酸の塩基配列形質から表現型形質までさまざまなレベルで収斂と推定される類似形質がある.遠縁の動物群で類似構造をもつ眼や水生動物の鰓呼吸のように広範な分類群に見られる収斂もあれば,昆虫のカ (双翅目) とカメムシ (半翅目) の吸引口器のように狭い分類群だけに限定される収斂もある.系統学的には,収斂はホモプラシー (非相同) に含まれる.つまり,収斂は,系統解析の過程で,共通祖先から伝わった相同形質としては説明できない派生的形質状態の共有を説明するために想定される形質進化上の仮説の一つである.収斂と並行進化(parallelism)とのちがいは,後者が共通祖先から受け継がれた共通の遺伝的基盤を前提とする個別進化であるのに対し,前者が共通の遺伝的基盤を前提としない個別進化であるという点にある.しかし,両者をデータから識別することはおそらく困難だろう.比較生態学における種間比較法 (comparative method) のあるものは,系統樹上で推定された収斂形質を用いて,形質相関や適応の仮説を検証する.
側系統(性)[英:paraphyly]【同】偽系統
ある一群の生物種ないし分類群について,祖先的形質状態を共有するもの.単系統性・多系統に対置して W.Hennig (1966) が提唱した概念.形態的類似性の面から見ると,単系統群では類似性が子孫的形質状態の共有 (synapomorphy) によるのに対して,側系統群では祖先的形質状態の共有 (symplesiomorphy),多系統群では収斂 (convergence) によるものと定義された.これに対して,G.Nelson (1971), P.D.Ashlock (1971, 1972), Farris (1974) などがさまざまな再定義を試みているが,側系統も多系統も,ある祖先生物に由来する子孫生物のすべてを含むものではない点では同じであり,その間の概念的な区別の有効性については否定的な見解もある.(→単系統性)
ホモプラシー[英:homoplasy 独:Homoplasie]
[1]【同】成因的相同.
共通祖先に由来せず,類似の力または条件のもとで生じた構造.E.R.Lankester (1870) の定義.彼は R.Owen の提唱した相同 (homology) の概念を再検討し,Owen のいう相同を歴史的相同 (homogeny) とし,その対置概念として成因的相同を提唱した.
[2]【同】非相同,同形性.
共通祖先からの由来にもとづかない類似性.G.G.シンプソン (1961) の提唱.現在の系統学では,系統樹上で,同じ形質状態が独立に進化したというアドホック (ad hoc,その場しのぎの意) な形質進化仮説を意味する.非相同の原因には,収斂 (convergence) ・並行進化 (parallelism) ・逆転 (reversal) の可能性があるが,そのどれに相当するのかを経験的に判別するのは容易ではない.
岩波生物学辞典
これで「収斂進化」、そして答えがわかりましたね?答えはA。上記の文を簡単に言い直せば「収斂進化」とは、別々の系統に属する生物でも、似たような環境で、似たような生活をしていると、お互いに似てくる、そういう進化のことである(つまり、姿かたちが似ている、形態的に似ているからといって、必ずしも系統的に近縁であることはない、ということである)。
収斂進化を表わす好例として、東アフリカのタンガニーニ湖とマラウィ湖があげられる。ある2つ湖におけるカワスズメ科の魚についての形態学的解析結果と分子系統学的解析結果の比較である。それぞれの湖には、形態的にとてもよく似た種がいる。からだ全体の形の似たもの、口の形に同じような特徴のあるもの、同じようにおでこの出っ張ったもの、からだ全体の形が似ているうえに、そっくりな模様のあるもの…したがって、よく似たペアは系統的にも近縁な関係にあるだろうと考えられていた。ところが分子系統学的な研究の結果、マラウィ湖の多種多様なカワスズメ科の魚は、単系統のグループをなしているらしいということが明らかになってきた。

図4:東アフリカのタンガニーニ湖(左)とマラウィ湖(右)に住む
カワスズメ科の魚の形態的な比較
<図:ゲノム情報を読む(宮田隆・五條堀孝編:共立出版)>
系統学的研究の結果、マラウィ湖の Pseudotropheus と Rhamphochromis は、それぞれ形態的にはタンガニーニ湖の Tropheus と Bathybates に似ているが、系統的には近縁ではなく、形態的には似ていないマラウィ湖の魚どうしの方がむしろ近縁であることが確かめられている。現在、マラウイ湖に生息する400種以上もの多様なカワスズメ科の魚は、この湖がおよそ200万年前にできたときには、たぶん現在のタンガニーニ湖の Cyphotilapia を除いた Tropheini 族と Gnathochromis の共通祖先に近い1種だったものが、種分化をくり返した結果できたものだと考えられている。

図5:カワスズメ科のNADH脱水素酵素サブユニット2遺伝子の系統樹
<図:ゲノム情報を読む(宮田隆・五條堀孝編:共立出版)>
これは形態学と系統学の間の話だが、もちろん蛋白質のアミノ酸配列と構造・機能の関係にもあてはめて考えることができる。アミノ酸の配列を比較する場合、このような収斂進化についても考察すると、面白い発見ができることだろう。